通訳者・翻訳者の本棚を拝見し、読書遍歴について聞くインタビューを特別掲載!
第一線で活躍するあの人はどんな本を読み、どんな本に影響を受けたのか。本棚をのぞいて、じっくりとお話を伺います。
読書は人間らしく
生きるために必要なもの
大学講師・放送通訳者。上智大学外国語学部英語学科卒。英バース大学大学院通訳翻訳コース修士課程修了。1998年より英BBCワールドにて4年半、放送通訳を担当。現在はNHK放送通訳者・翻訳者として活躍中。神田外語大学専任講師、アイ・エス・エス・インスティテュート通訳者養成コース講師。著書に、『キムタツ・シバハラの 英作文、対談ならわかりやすいかなと思いまして。』(三省堂、共著)など。
同時通訳者・放送通訳者。上智大学文学部社会学科卒、英LSE大学大学院修士課程修了(社会行政学部)、外資系航空会社勤務などを経て、1998年より英BBCワールドにて放送通訳を担当。現在はCNNjを始め、民放にて米国大統領選挙ニュースやインタビュー番組などの同時通訳を担当。アイ・エス・エス・インスティテュート通訳者養成コース、獨協大学非常勤講師。「放送通訳者・柴原早苗のブログ」https://sanaeshibahara.blog.ss-blog.jp
大事な本以外は断捨離
本棚は図書館本の仮置場!?
放送通訳者として活躍中の柴原智幸さん・早苗さんご夫妻は、自宅マンションの一室を書斎として共用している。室内の2面半ほどを背に設えられた本棚は、約3分の2が智幸さんのスペース。
マンガが目立つが、『天皇と東大』(立花隆)、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子)、『マンガの論点 21世紀の日本の深層を読む』(中条省平)など、顔ぶれは多彩だ。
「大学の研究室にも2千冊ぐらい本がありますが、家にあるのは息抜き用のマンガが多いですね。あとは英語教育関連に歴史関係、その他いろいろ。興味の赴くままに触手を伸ばしているので、本当に種々雑多です」
対照的なのが早苗さんの本棚だ。通訳関係の資料が大半を占め、仕事用のレファレンスである聖書と辞書を除けば、本の姿はあまり見当たらない。
「断捨離ブームのときにすべて処分しました。手元に残したのは、私が尊敬するハンセン病患者の精神科医だった神谷美恵子さん、ジャーナリストの千葉敦子さん、福祉活動家の佐藤初女さんの著作だけですね。今は図書館をフルに利用していて、講師をしている大学の図書館だと週あたり30冊まで借りられるので、毎週マックスで借りています(笑)」
そんなお二人は、まるで異なる読書遍歴をたどってきた。
高校時代に智幸さんが愛読していたのは、「妖精作戦シリーズ」(笹本祐一)など今のライトノベルにあたる小説。「現実逃避でした」と振り返るが、一方で同時期、初めてペーパーバックに手を伸ばしている。
「父の書斎にあった『The Catcher in the Rye』です。主人公の挫折っぷりも含め、非常に印象に残りました。ページには書き込みがあり、父いわく『語源まで調べた』と。そんな話を聞き、言葉の面白さや奥深さに気づきました。通訳や翻訳という今の仕事につながる原体験だったかもしれません」
大学時代は歴史学や教育学、心理学などの本を読み漁った。一番印象に残っているのは『ブリエアの解放者たち』(ドウス昌代)。ドイツの強制収容所を解放した日系アメリカ人部隊の話で、国家や異文化のはざまに立たされた人間を描いた物語に、この頃から強く関心を抱くようになった。
かたや早苗さんは、岩波少年文庫などを入り口に読書を開始。高校から大学にかけて、「生き方」を考えさせられるような作品に傾倒していく。
「10代なかばに大きな影響を受けたのは、光吉智加枝さんの『だめの子日記』。交通事故で亡くなった女子高生の日記を、ご両親が出版したものです。自分を律しながら成長していこうとする光吉さんの生き方にふれ、もっと日々を大事に生きていこうと思うようになりました。住井すゑさんの『橋のない川』や三浦綾子さんの一連の作品も、心に強く訴えるものがありましたね」
※ 『通訳・翻訳ジャーナル』2019年春号より転載 取材/金田修宏 撮影/合田昌史
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