現場が一番好きだから
今のスタイルを続けたい
常にいいパフォーマンスを提供するために、徹底した自己管理にも努めている。基礎体力をつけるべく、週2回はジムに通って筋力トレーニング。ベストコンディションで通訳できるよう、本番の2時間前にバランスが取れた食事をとる。通訳中は脳がガス欠しないよう、こまめに糖分やクエン酸を補給する。単語帳を作ったり参考資料に目を通したり、事前に入念な準備をするのは、言うまでもない。
「家族の協力もありますが、毎日がものすごく忙しいですね。でも、逆に優先順位がはっきりするので、やることに一切無駄がないのかもしれません。気晴らしや長期休暇もあまり必要としないですし、より良い通訳を届けるために日々があるような感じです」
最近はリピートの依頼で予定がどんどん埋まっていく。また講演依頼も増え、一般の人から「元気をもらえた」「自分も頑張ります」と言われることも多い。「自分の力を試したい」という一心で全力疾走してきたが、気づけばさまざまな人たちの役に立っている自分がいる。
「試行錯誤しながらここまで来て、その結果、クライアントやそのほかの皆様に貢献できているのなら、素直にうれしいです。口幅ったいことを言うようですが、成長したなと感じています」
どの仕事を請けるか、請けないか。「変えず、足さず、落とさず」という基本に忠実な通訳をするか、それとも大胆に意訳するか。そうしたすべての判断を自分で下し、決めたことに対して全責任を負う。「『力試し』が私の人生のテーマですから」と語る口ぶりは力強く、頼もしい。
「私は現場が一番好きです。ご依頼を請けたら全力でお手伝いをするスタイルを、今後も続けていきたいと思います」
通訳者の頭の中
通訳学校で講師をを務める際、受講生に通訳のプロセスを理解してもらうため、「通訳者の頭の中」を図解した。
「通訳にはListening・Comprehension・Retention・Reproduction・Deliveryという5つの工程があります。『聞きながら話す』とき、脳は『スプリットアテンション(split attention)』の状態になっていて、100のattention(注意・意識)を、聞く、話す、などの動作にsplit(分配)しています。通訳がうまくいかないときは、①〜⑤の動作のどこかで情報フローが滞ってしまっている状態。そのうちどこが弱いかを見つけ、そこを強化していけば、着実にレベルアップします」
通訳者をめざす人へ
頭の中を常に
バイリンガルにしておく
通訳力を向上させるには、常に頭の中をバイリンガル状態にしておくことです。日本語で話したり聞いたりしたことを、すぐ頭の中で英語で言い直すのです。私がやっていて楽しいのはパラフレーズ。「売上を伸ばす」だったら、drive sales, grow sales, increase sales, promote sales など、何通りにも表現してみる。また、英字新聞などの音読もおすすめです。それとは別に、言葉づかいや態度など含め、人としての総合力を高めるような自分磨きにも励んでください。その努力は、必ず通訳のパフォーマンスに表れます。
※『通訳者・翻訳者になる本2020』より転載(2019年1月発行) 取材/金田修宏
1975 年、米テキサス州ヒューストン生まれ。1歳から6歳までを東京で、6歳から11歳までをサンフランシスコで過ごす。慶応義塾大学総合政策学部卒。大手メーカー在職中、通訳者養成学校に3年間通って通訳を学ぶ。2006 年に同メーカーを退職し、大手飲料メーカーで1年間、社内通訳に従事。2007年にフリーランスとなり、現在に至る。得意分野は金融、IT、マーケティング。外国特派員協会の通訳も務める。これまでに担当した案件は5000件以上。
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