
スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)
外国で日本人選手が活動するときに必要となる「英語力」
印象に残った外国人コーチからの言葉
「日本人選手はせっかくチームで食事に行っても、英語が話せないからずっと1人でスマホをいじっている」
とある外国籍のバレーボールコーチに言われた言葉です。
そのコーチはヨーロッパで10年以上バレーボールの指導をしており、彼女のチームには以前、日本人の選手が在籍していました。
「チームとして日本人選手はとても受け入れやすかった。こちらの考えをリスペクトしてくれるし、協調性もある。英語が話せなくても、バレーボールに関するコミュニケーションは問題なかったよ。バレーのスキルも持っていたからね」といいます。
しかし、オフコートでは気になる場面もあったようです。
「チーム全員で食事に行っても、英語が話せなくて会話に入れず、1人でスマホを見ていることがあった。コミュニケーションを図るための場なのに、残念だったね」
その場面を想像すると、少し胸が苦しくなります。
私自身、英語を使う仕事をしていますが、ネイティブが集まる中では、会話の全部を理解できるわけではありません。
例えばそれが、私が全く分からないフランス語だとしたら、会話には入れないでしょう。

自分に合った勉強法で学ぼう
スポーツ業界で仕事をしていると、選手やスタッフたちから「英語を話せるようになりたい」という相談をされます。
どの英語勉強法が適しているかは人それぞれです。
語学の習得には時間がかかります。継続が大切です。
そして、継続するには“自分が好きな学習法を見つける”ことがキーです。
英語学習の相談を受ける時はいつも、まずは本人に合った学習法を探るところから始めます。
海外ドラマを見ながら楽しく勉強するのが好きな人もいれば、単語帳を黙々とやるのが好きな人もいます。私はシャドーイングが好きでしたが、「シャドーイングをしている自分が恥ずかしくて出来ない!」なんて言う人もいました。
「3ヶ月前からで、1日1時間くらいは勉強しています。でも伸びなくて……」と言われることもありますが、それくらいの期間では、大きな変化を実感するのは難しいです。
先日も大学生のバレー選手から「卒業後は海外でプレーしたいが、どうしたらいいか」という相談がありました。バレーの技術やスタイルを気に入ってもらえれば、もちろん海外でプレーするチャンスはあります。
ただ、語学力がないまま行ってしまうと、結局は困る場面がたくさん出てくるでしょう。
短期の滞在であれば日本人を珍しがってくれ、周りから話しかけてくれることは多いです。以前に短期のバレー留学に連れて行った選手は「なんかノリで仲良くなりました!」と、10日間の留学期間を楽しんでいました。
しかし、1年や2年と、長いシーズンを共に過ごすとなるとそうはいきません。
良い時もあれば悪い時もあるシーズン中、ノリではなく、自分の意見を真剣に伝えないといけない場面が出てくるでしょう。
自分から積極的なコミュニケーションを
私は今までいろんなチームを転々としてきました。バスケは男子プロチーム、女子日本代表チーム、バレーはパナソニックパンサーズ(現在は大阪ブルテオン)、現在は15人制男子ラグビー日本代表チーム……
スポーツ業界に入り、もう10年経ちますが、新しいチームに合流する時は今も緊張します。
どのチームに行っても結局大切なのは、自らコミュニケーションをとることです。
良いコミュニケーションとは、いきなりグイグイ距離を詰めることではありません。
まずは笑顔で挨拶したり、わからないことを素直に質問したり、最初はそういうところだと思います。
積極的なコミュニケーションが身に付いて、一単語でも多くの言葉を覚えていれば、チームのみんなと食事に行った時に、チームメイトとたくさん会話ができるかもしれません。
4月からの新年度、新しい環境や人間観家に不安な気持ちを抱えている人もいるかもしれません。新しく始まる生活、皆さんが良いコミュニケーションを取り、楽しいものとなりますように!
★佐々木真理絵さんの連載一覧

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。