
Contents
スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)
夢だった“スポーツチームの通訳”を辞めた理由
フリーランスへの一歩をふみだしたきっかけ
チームに所属して通訳をするのか、フリーランスとして通訳をするか‥
どちらにもそれぞれの大変さがあります。
今回は、通訳としてバレーボールチームに所属していた私が退団するに至った、当時の気持ちの変化について書きます。
狭くなっていく世界への違和感
バレーボールチームで通訳として働き始め、2年目を迎えたとき、ふと、自分の世界が狭くなっている感覚に襲われました。
当時の私の生活は、体育館と自宅の往復の毎日。朝は外国籍選手を車で迎えに行き、練習場へ向かう。練習が終わるまでサポートし、終了後は選手のケアが終わるのを待ち、帰り道に買い物に付き合いながら送り届ける。週末の遠征があれば、木曜日から出発し、帰宅は日曜の夜遅く。気がつけば、チームの選手やスタッフ以外と話す機会がほとんどなくなっていました。
「バレーの通訳って趣味でやっているの?」
ある日、知人にこんな言葉をかけられました。
その瞬間、心臓がズンと重くなる感覚を覚えました。仕事として全力で向き合ってきた日々が、なんとなく否定されたような気がしたのです。
今でこそバレーボールは、リーグ戦もテレビ放送されるほどの人気になりましたが、当時のVリーグでは優勝をしてもスポーツニュースにすらほとんど取り上げられませんでした。どれだけ頑張って働いても、自分の仕事が世の中に必要とされていないような虚しさが募っていきました。

自分の人生と仕事のバランス
このまま経験を重ねるなら、もっとバレーボールを深く理解し、通訳としてのスキルを磨く必要があると感じていました。しかし、それは今以上に仕事にのめり込むということ。そうなれば、さらに世の中との距離が広がっていく気がしました。
スポーツチームの仕事はハードです。ネガティブな気持ちを抱えたままでは、毎日を乗り切ることはできません。何より、一生懸命頑張っている選手やスタッフに対して、そんな気持ちのまま向き合うのは失礼だと思いました。
「辞めるなんてもったいない」と周りからは言われましたが、当時の私には、この場に居続ける時間の方がもったいないと感じたのです。
その後フリーランスとして活動を始めましたが、最初は全く仕事がありませんでした。しばらくは家族や友達と会う時間を大切に過ごしましたが、収入がないので遊ぶお金も無くなり、自宅に引き篭もるような時期もありました。
そんな時、元々所属していたバレーチームの外国籍コーチの知り合いから、「今度アメリカの大学生チームが日本で合宿をするんだけど、通訳として来てくれない?」という依頼がありました。
それが転機となりました。
たった5日間の対応でしたが、京都の宿坊体験で精進料理の説明をしたり、

大都会の新宿に連れて行ったり、
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練習試合ではコーチ同士の打ち合わせに入って通訳をしたり、今までチーム通訳として培った対応力がしっかり活かされ、来日したチームも私の対応にとても喜んでくれました。
これを機に、コンスタントにお仕事の依頼をもらうようになり、テニスやサッカーなどの競技からも依頼をもらえるようになりました。
ありがたいことに、今ではたくさんの仕事をいただくようになり、忙しい日々を過ごしています。
あの経験があったからこそ
私は決して、スポーツ通訳をめざす人にネガティブなことを伝えたいわけではありません。むしろ、今フリーランスとして多くの仕事を頂いているのは、間違いなくチーム通訳の経験があったからです。
世界トップレベルの選手たちと関わる仕事は、学びの連続でした。韓国遠征をはじめ、貴重な経験を積むこともできました。どんな仕事でも、人の目に触れないところでの努力はつきものです。今なら、それがよく分かります。
当時は観客が少なくても、関係者の皆さんがコツコツと積み上げてきた結果、今のバレーボール人気がある。そう思うと、あの時の努力は決して無駄ではなかったと感じています。
いまスポーツ通訳をめざしている人は、夢を叶えた先に楽しい日々が待っていますように!
スポーツの現場での鉄板フレーズを紹介!
Hard work pays off. 努力は報われる
No pain, no gain. 努力なくして成功なし
Practice makes perfect. 練習あるのみ
There is no “I” in “team”. チームに“個人”はいない=チームワークが大切
★佐々木真理絵さんの連載一覧

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。