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2024.10.08 UP

第9回  スポーツ界の通訳不足解消のために何をすべきか

第9回  スポーツ界の通訳不足解消のために何をすべきか

スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)

通訳者不足のスポーツ業界、どう解決すべきか?

通訳者を探してしているチームは多いけれど……

スポーツ界は、慢性的な通訳者不足です。
私のところにも「うちのチームで通訳してくれる人を探しています。誰か紹介してもらえませんか?」という連絡が後を断ちません。

あくまでも一例ではありますが、例えばその際にバレーボールチームが提示する理想の人物像と条件はこのような感じです。

・英語がネイティブレベル
・1年以上の通訳実務経験あり
・バレーボール経験者
・スポーツ業界経験者なら尚良し
・人柄が良くて前向きに頑張ることができる人
・年収300万〜700万(経験や能力による)

「ちょっと待って!そんな人が余っているわけないでしょ!! 」というのが私の正直な気持ちです。

様々なデータがありますが、英語が問題なく話せるという日本人は、全体の10%にも満たないと言われています。
さらに、“通訳実務経験あり” や “バレーボール経験者” などの条件が加わると、一体どれだけの人数に絞られてしまうのでしょうか……。

語学に長けている人材は、スポーツだけでなく様々な場所で必要とされます。
社会人であれば、一般企業で既に良いポジションでお仕事をしている可能性が高いですし、やりがいのある充実した毎日を過ごしているでしょう。お給料だって十分に貰っているはずです。
そんな人が「スポーツチームで通訳をしたい!」と、全てを投げ捨ててスポーツ業界に来てくれるのでしょうか。

チームとして、優秀な通訳者が必要だということは理解しています。掲げる理想像は自然と高くなるのは分かります。
しかし、理想と現実がマッチせず、シーズン開始直前でも通訳者が見つからずに困っているチームもあります。

条件や求める人物像の見直しを

では、どうすればスポーツチームの通訳者を見つけられるのでしょうか。

まず、実務経験がある通訳者が良いのであれば、給与面の魅力を上げるのが重要です。年間300~500万円ではかなり少ないです。今まで相談を受けてきた中には、年間240万円で提示してくるチームもありました。

プロスポーツチームでの通訳は、練習時間以外の仕事も多いです。ミーティング資料の翻訳を頼まれ、練習後に自分の時間を使って作業をすることも多々あります。
また、チームの外国籍選手の生活面のサポートもしなければいけません。そうなると、買い物や食事に付き合って帰りが遅くなることもあります。週末は試合のために遠征があり、ホテルでチームのメンバーと過ごします。
プライベートでの友人たちの集まりには、ほとんど参加できません。私はチームに所属している時、友達の結婚式も行ったことがありませんでした。年末年始も試合があるので、帰省できません。

それだけ働いてチームのために尽くすのに、240万円はかなり少ない条件です。
一般企業で働くよりも良い額が保障されないと、優秀な通訳者を雇うのは難しいでしょう。

もう一つ、通訳者不足の解消として重要なのが、雇う人物像を見直すことです。
通訳実務経験が無く、まだまだ英語を勉強中の人でも迎え入れる体制が鍵となるはずです。
スポーツチームでの通訳を夢見る人たちが口を揃えて言うのが「やってみたい気持ちはある! でもまだ英語力に自信がない…通訳が出来るほどの語学力はない……」ということです。熱意があり、日々勉強もしているけれど、まだ通訳者になるほどのレベルには達していないパターンです。

私としては、是非このような人をチームに迎え入れてほしいです。
通訳のスキルを磨くには、現場に出て経験を積むことが一番です。
私もこれまで沢山の失敗をしました。練習や試合でうまく訳せない日が続き、体育館に行くのが辛い日もありました。しかし、当時のチームの皆さんは根気強くチャンスを与えてくれました。とても感謝しています。そのおかげで、今もこうしてスポーツ界でお仕事ができています。

バレーボールチーム
2017年に、通訳として所属していたバレーボールチームが天皇杯優勝を果たしたときの様子。前列右端が筆者。

通訳スキルは、失敗して苦い思いをするほど上達します。
チーム側は、本人の反省を見守り、サポートしてあげてほしいです。

バレーボールは今シーズンから国内リーグが再編されてSVリーグという新体制がスタートし、大きな変革期の中にいます。各チームの外国籍選手の数も今後は更に増えていくでしょう。1チームに1名の通訳者では足りなくなるはずです。そして、チームマネージャーをはじめ、現場スタッフにも英語力が求められる流れになります。

各競技、各チームで優秀な通訳者を “見つける” のではなく、“育てる” という意識になり、より多くの人にチャンスが巡ってくることを期待しています。

試合前後のインタビューでよく使われる表現

このようなコーチや選手がよく言う表現を覚えておくと、試合前後のインタビューや会見での通訳に役立ちます!

・ミスすることは怖くない。
I’m not scared of making mistakes.

・チームのためにベストなパフォーマンスをします。
I’ll perform the best I can for the team.

・全力でいくぞ!
Give everything!

・この試合に全てを賭けました。
I’ve risked everything on this match.

★佐々木真理絵さんの連載一覧

佐々木真理絵
佐々木真理絵Marie Sasaki

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。