スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)
スポーツとは切り離せない「食事」について
アスリートやチームスタッフの食へのこだわり
男子バレーチームのパナソニックパンサーズ(現在は大阪ブルテオン)で通訳を務めていた時、試合後のバスで隣に座っていた外国籍選手にこんなことを言われました。
「こないだ近くの店でカルボナーラ食べたんだけど、日本のカルボナーラは全然ダメだな。俺が本物のカルボナーラを作ってやる。明日は材料を買いにコストコ行くぞ!」
“えー、せっかく明日休みなのにコストコに連れてかなきゃいけないのー!” と思いつつ、翌日言われるがままコストコへ行き、材料を調達しました。
本人は照れ隠しか「今日はあまり上手く作れなかったよー」なんて言っていましたが、彼が作ってくれたカルボナーラはとても濃厚で美味しかったです。
それ以来、私は彼が教えてくれた方法でカルボナーラを作るようになりました。
「得意料理は?」と聞かれたら、迷わず「カルボナーラ!」と答えます(笑)
アスリートにとって、食事はとても大切です。
先日、とある国の代表のラグビーチームが国際試合のために来日した際に、リエゾンとしてサポートに入りました。そのチームにはスタッフとしてシェフと栄養士も帯同していました。ホテルに到着するや否や、シェフはキッチンへ打ち合わせに入り、そこから毎食選手のために食事の提供を行なっていました。
栄養士からは「チェリージュースが欲しい」というリクエストがありました。そのまま選手に飲ませるのではなく、色んな食材とブレンドし、“入眠に良いオリジナルスムージー” を作って寝る前に選手に配っていました。アメリカンチェリーは不眠症に効果的とのこと。とにかく食事にただならぬこだわりを感じるチームでした。
トレーニングや試合で精神的なストレスもかかるからこそ、食事によって栄養を補給する事やリラックスする時間はとても大切です。
逆にいうと、食事が合わないまま長期間過ごす遠征は、とてもストレスがかかります。
選手だけではなく、通訳を含めたチームスタッフもそうです。選手のサポートをするには、まずは自分が健康でいなければいけません。自分が倒れてしまっては、選手のサポートはできません。
世界少年野球大会での出来事
今年(2024年)の7月28日~8月5日に福岡で行われた世界少年野球大会で、私はグアムチームの通訳とお世話を担当しました。世界中から10〜11歳の少年少女が参加して、野球教室や国際交流試合が行われるという催しです。今年は日本を含め14の国・地域の子どもたちが福岡に滞在しました。
10日間の大会はまだ小学生の子どもたちにはかなり心細かったようで、ノア君という男の子は、ホームシックで最初の3日間は毎日泣いていました。私はどう対処することも出来ず、ノア君が1日でも早く新しい友達を作り、楽しく過ごせることを願うばかりでした。
しかし、4日目に宿舎を移動した際、ノア君の態度が急変したのです。「このまま日本に住む!」なんて言い出しました。理由を聞いてみると、「今日のご飯がとても美味しかった!」とのこと。
この日に移動してきた福岡県みやま市の合宿所では、地元の方が現地で採れた野菜でとても美味しい食事を作ってくれました。とうもろこしで作ったコーンスープや、野菜たっぷりの酢豚やお好み焼きなど、美味しい家庭料理を毎日いただきました。グアムの子たちは豚の角煮が特に気に入ったようで、おかわりしてたくさん食べていました。
みやま市では、みんなで花火をしたり、テレビでオリンピックを観戦したり、ホームシックなんて無かったかのように、毎日楽しく過ごしていました。
“食事は大切”というのは、決して栄養面だけの話ではなく、気持ちの安定にも大きく関わっている事を改めて感じました。
日々結果を求めハードに働くアスリートや、それを支えるスタッフにとって、せめて食事の時間は、幸せな気持ちで過ごせれば良いなと願います。
私がカルボナーラを食べるたびに、選手との時間を思い出すように、
グアムから来た野球少年たちも、どこかで角煮を食べたときに日本を思い出してくれたら嬉しいなと思います。
栄養素・添加物に関する単語を知っておこう!
スポーツ通訳では、アスリートに必要な栄養素や食品添加物に関する単語も訳す機会が多いです。
簡単ですが、必ず押さえておきたい代表的なものをいくつか紹介します。
●たんぱく質 protein
●炭水化物 carbohydrate
●食物繊維 dietary fiber
●鉄分 iron
●添加物 additive
●保存料 preservative
★佐々木真理絵さんの連載一覧
大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。