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2024.02.16 UP

第5回  フリーランスのスポーツ通訳者がどのように仕事を得ているのか

第5回  フリーランスのスポーツ通訳者がどのように仕事を得ているのか

スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)

自分で道を切り開く!
フリーランス×スポーツ通訳という働き方

「人からの紹介」が一番のきっかけ

私は現在、どこのスポーツチームにも所属せず、通訳派遣会社やエージェントにも登録せずにフリーランスとしてお仕事をしています。

今まで関わってきた競技は、バレーボール、バスケットボール、サッカー、スキー、ラグビー、テニス……など。
年々関わる競技が増えるとともに、
「私もまりえさんみたいに、通訳として海外遠征に行きたいです!」
「私もフリーランスでスポーツ通訳やりたいです!」

というお声をたくさんいただくようになりました。とても嬉しいです。

そして、皆さんから続けて聞かれるのが、「どうやって仕事を得ているか」です。

今年でフリーランスになって5年経ちました。最初はコロナの影響もあり、仕事があまり無い時期もありましたが、今では生活ができるようになっています。
「スポーツ通訳」と一口に言っても、例えばチームの海外遠征の際の引率業務も含まれたり、マネージャー的な業務も任されたりなど、通訳を軸にして、スポーツや英語に関わるさまざまなお仕事を依頼していただいています。

アメリカの大学のバレーボールチームの日本遠征で、引率&通訳を担当した際の一枚。日本の大学チームとの練習試合なども佐々木さんがセッティングしている。

まず、仕事が入ってくる経路の7割ほどは人からの紹介です。

例えば、数年前から海外の大学バレーボールチームの日本遠征の際に、通訳に加え引率もするというお仕事をよく請けているのですが、最初のきっかけは、元々Vリーグのパナソニックパンサーズにいた時にお世話になったブラジル人のコーチから、「とあるアメリカの大学チームが日本で合宿をしたいと言っている。対応してもらえないか?」と、紹介されたのがきっかけでした。

アメリカの大学バレーのチームは、だいたい5月~7月ごろに海外遠征に行きます。4年に一回しか海外遠征に行けないので、遠征先に日本を選んでくれるというのはとても貴重です。7日~10日間しかない滞在期間の中で、どう楽しんでもらうか、頭を悩ませながら頑張りました。

朝早く起きて、試合や観光での引率をし、彼らが「日本のとんかつが食べたい!」と言えば一緒にお店に行きました。夜はコーチたちと飲みにも行きました。
遠征で疲労しているときのとんかつやお酒は胃もたれし、さらに疲れました(笑)

ですが、胃もたれしながら頑張った甲斐があり、彼らは日本での遠征をとても楽しんでくれました。そして口コミが広まったのか、その後毎年、3~5つの大学のバレーボールチームが日本にきてくれるようになり、私を指名してくれるというありがたい状況になっています。

(左)引率したバレーボールチームのメンバーに、日本の食事を楽しんでもらった。
(右)ヨーロッパで開催されたバレーボールの国際大会「Global Challenge 2023」にも通訳者として参加。

そのつながりで、ヨーロッパのバレーの国際大会にも通訳者として呼んでもらうようにもなり、今ではバレーを通して世界中に知り合いができました。

「次もこの人に頼みたい」と
思ってもらえるよう努力する

こんなこともありました。

バスケ選手に食事指導をしていた日本人のアスリートフードマイスターの方がいて、私はプライベートで料理を教えてもらったり、仲良くさせていただいてました。
その方から急に電話がかかってきて「スキークロス選手の女の子が、海外遠征に一緒に来てくれる人を探しているらしいの。まりえちゃん行ったら?」と。

数日後に選手本人とお話しして、お仕事を引き受けることが決定。その数週間後にはヨーロッパのアルプスの遠征に一緒に行きました。

スキークロスFISカップで、日本人選手のヨーロッパ遠征に帯同。

また、1年前からサッカーにも関わらせて頂いています。
そのきっかけも、私が現在講師をつとめている専門学校の先生からの紹介でした。

「英語が話せる人を探しているサッカー関係者がいるので、紹介しても良いですか?」と聞かれ、その数日後には沖縄でオーストラリアの女子サッカーチームの合宿の受け入れを担当しました。

急遽担当することになった、オーストラリアチームの沖縄合宿の仕事にて。

これをきっかけにサッカーのお仕事も入るようになり、オーストラリアチームの合宿の直後にはインドからもサッカーチームが来てくれたり、去年(2023年)の夏にはタイで大会があったので、そこに呼んでもらったりしました。

(左)インドのサッカーチームの引率も担当。日本の観光地も案内した。
(右)タイで開催されたサッカーの大会にも、チームのサポート役として参加。

また、仕事の幅を広げるためには、紹介だけではなく、公開されている求人に自分から応募してみることも大切なアクションです。私も求人サイト通じて単発のお仕事に応募をすることがいまだにあります。
たとえスポーツ以外のお仕事でも、何か自分の興味に触れるものがあれば応募するようにしています。

フリーランスで活動している場合、待っているだけでは情報が集まりません。
自らどんどん求人を探して、いろんな人に会い、自分の存在を知ってもらうことはとても大切です。

そして、紹介でも公募でも、一度引き受けた案件は「次もあなたにお願いしたい!」と思ってもらえるように頑張ることが大切です。

それは、簡単なようで簡単ではないことです。たとえ短期間であっても、遠征に帯同しているとこちらも疲弊します。
疲れていると、気持ちに余裕が無くなり、優しいサポートをしてあげられない場合だってあります。こちらも人間ですから…。

結局は、普段から優しさを持ち、コミュニケーションがしっかり取れるか、共にする時間を良いものにする努力ができるか、仕事場だけではなく、日頃からそういう姿勢でいることが、次のお仕事を運んできてくれるのではないかと思います。

スポーツ現場でよく使う英語表現

discipline
→規律

海外のチームが日本のチームと関わった時に驚くのが日本の規律の正しさです。
例えば、荷物がきれいに並べて置いてあること、時間になったら選手たちがきちんと並んで挨拶すること、試合の準備や片付けがとてもスムーズなこと。
最近受け入れたチームも、「I was surprised at how displined the Japanese players were. I want our players to learn that.」(日本の選手の規律正しさに驚いた。うちの選手にもそれを学んでほしい) と言っていました。日本のスポーツの文化を説明する時の頻出単語です。

★佐々木真理絵さんの連載一覧はこちら!

佐々木真理絵
佐々木真理絵Marie Sasaki

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。