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2024.08.02 UP

第8回 通訳者から見た、文武両道のアスリートたち

第8回 通訳者から見た、文武両道のアスリートたち

会議通訳者、兼、スポーツ通訳者として活躍されている、平井美樹さんによる連載コラム!
日本スケート連盟の通訳者として数多くのフィギュアスケートの大会で通訳を務めるほか、五輪やサッカーW杯、ラグビーW杯にも通訳として関わる平井さんが、フィギュアをはじめとするスポーツの通訳の仕事について語ります。
(※隔月更新予定)

通訳のみ、スポーツのみにならない視野の広さを持つために

学問もしっかりこなすスポーツ選手が増えている

最近のアスリートはソーシャルメディアでの発信力や自己プロデュース能力も高く、自分の商品価値をしっかりと把握している方が多くなってきました。日本人アスリートも日本に限らず、世界に向けて情報を発信していて、頼もしい限りです。

いまはSNSを通じて、選手のオフの様子や競技以外での関心事など、色々なことを知ることができます。私もたまに拝見していますが、そこで気がついたのは、選手たちによる試験や論文提出、大学の卒業報告など、学問についての投稿をよく見ることです。

フィギュアスケート界では、特にアメリカ人選手の多くが大学進学をしていて、まさに文武両道です。それもアイビー・リーグ(Ivy League)などの名門校で普通に学生をしながら競技している選手も多いのです。
最近の日本人選手も負けていません。世界チャンピオンの坂本花織選手も学業とスケート選手としての活動の両立を実現し、三原舞依選手は大学院進学も果たしています。羽生結弦さんの卒業論文も素晴らしいという評価ですし、何より町田樹さんはスポーツ科学の研究者の道に進んでいます。

大学(イメージ)
大学や大学院に進学し、学問と競技の両方に力を入れるアスリートも増えている。

アスリートも通訳者も幅広い教養が必要

最近、日本中が驚いたのが野球の佐々木麟太郎選手のスタンフォード大学への進学です。プロではなく、アメリカの名門大学へ自らの力で進む姿を見て嬉しくなりました。アスリートというとその競技にだけ没頭してきた方々が多いと思うのですが、やはり人間として文武両道の方々は魅力的です。別に学歴が必要というわけではありません。知性が必要で、知性を養うためには学びが必要ということです。

アスリートとしてのキャリアは期間限定というのが厳しいですよね。現役選手として過ごす時間は一生の中でも限られ、さらに、怪我のリスクから不調など、いつキャリアが終わるかわからない恐怖と戦っている。そんなアスリートのセカンドキャリアをどう作っていくか? 指導者や解説者などになり、ずっと競技に携わることももちろんありますが、全く違う分野に進んで成功なさる方もいますよね。例えば中田英寿さん、本田圭佑さんのように。

通訳者もある意味アスリートと同じで、通訳の勉強に専念すれば、ある程度のパフォーマンスをこなせるようにはなります。実力のみで自分の価値が決まるという面もありますので厳しい世界です。そんな中でも、ありとあらゆる知識や考え方に触れて自らを研鑽している通訳者は別格だなと感じます。知識、教養、好奇心、いわゆる「学ぶ力」がある方は、通訳のアウトプットに深みがあるだけでなく、人間としてもおもしろい方だらけです。

スポーツ通訳者も、気をつけないと視野がその競技やその世界のことばかりになってしまう恐れがあります。一つのことを深く究めることはもちろん大事ですが、やはり教養だとか、人間性の方が大事なのではないかと思います。

フィギュアの世界で有名な海外のアイスダンスコーチの言葉を私は自分ごとと思って大切にしています。今回は最後にその言葉を紹介します。

「自分の選手たちにはもっといろんな文化に触れて感性を磨いてほしい。文学を通じて物語を、オペラやバレエにドレスアップして行ったり、国際社会の問題について考えたり、人とお話をするときに、スケート以外に語れるものがないとね。人間としての土を豊かにして耕していかないと何も育たないから」

*通訳者の英語学習法を紹介*
野球に関する記事から表現を学ぼう!

以下にご紹介する佐々木麟太郎選手に関する記事と、記事内のリンクにあるスタンフォード大野球部に関する記事2本(1) (2)は表現の宝庫です。このように当たり前に聞いたり読んだりしている表現も、通訳の際にすっと出せるようになりたいもの。あえて今回は訳語もつけませんが、野球でもどの競技でも、このようにスポーツ関連記事なども活用して自分だけの表現集を作ってみてください!

*記事のリンクはこちら*
https://www.cbssports.com/mlb/news/rintaro-sasaki-japanese-home-run-phenom-commits-to-play-college-baseball-at-stanford/
(CBS Sports Digital Rintaro Sasaki, Japanese home run phenom, commits to play college baseball at Stanford 2024.2.14)

【チェックしたい野球関連用語】
・Japanese Home Run phenom

・Forgo/forwent the NPB league draft

・Most high-profile international prospect

・His power bat plays right into our style of play.

・Prep career

・Sasaki’s calling card

・Thunderous raw power which comfortably grades out as a 70 on the 20-80 scouting scale
(*参考:https://www.baseballamerica.com/stories/explaining-the-20-80-baseball-scouting-scale/

・Premier tool

・He has a knack for consistently finding the barrel

・Great feel to hit.

・“buggy whip”

・Advanced approach

・Walking twice as many times as he struck out

・Prepster

・Rikuu Nishida (11th round pick, Chicago White Sox)

・National Letter of Intent with Stanford

・He posted an impressive slash line of .413/.514/.808
(*参考:https://www.mlb.com/glossary/miscellaneous/slash-line

★前回(第7回)の記事はこちら

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平井美樹
平井美樹Miki Hirai

会議通訳者兼スポーツ通訳者、 日本スケート連盟通訳者。学生時代にESPN Sports Centerを翻訳するアルバイトから通訳の道に入る。NHKの大リーグ、NBA、NFL放送の通訳スタッフ、広告代理店の社内通訳を経て、現在はニュース、国際関係、安全保障、企業買収からエンタメ、相撲の英語放送までをこなす放送・会議通訳者。五輪やサッカーW杯、ラグビーW杯にも通訳として関わるほか、日本スケート連盟の通訳者でもあり、数多くのフィギュアスケートの大会で通訳を務める。日本から海外へのPR、エグゼキュティブ向けグローバルコミュニケーションコンサルタント、企業からアスリートまでのメディアトレーニングも手がける。