韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)
eスポーツライターのリアルな中国取材の様子をお届け!
先日、eスポーツ大会の取材で中国に行ってきました!
それで前回の記事から少し期間が空いてしまったわけですが、『通訳翻訳ジャーナル』の編集担当さんから「次回記事の冒頭で現地の様子を少しご紹介いただけたら」とのお声が。
せっかく “奮闘記” と題しているし久々に私の活動をご紹介するのもいいかなと思い、今回はまるっと予定を変更して、私の海外取材奮闘記をお伝えすることにしました。通訳のお仕事とは少し違いますが、語学が役立つ場面は多いので是非参考にしてみてください。
海外大会取材オファーの経緯と背景
取材対象は『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会「Worlds 2025」の決勝戦。年に一度だけ行なわれる一大イベントです。今年の開催地は中国。約1か月半にわたって北京、上海を回り、最終決戦の地は四川省・成都です。
今回は、普段お世話になっているウェブメディアからオファーをいただきました。このメディアはゲーム会社と共同で開設されたニュースサイトで、記事の企画内容に関してはメディアの編集担当さんと、現地での実際の動きについてはゲーム会社の方とお話を進める形になります。
私にオファーが来た背景として、中国へ単独で渡って取材活動できることが挙げられます。日本チームは残念ながら予選で敗退したため、参加していません。それもあって今回のケースは引率者がついている記者団ツアーと違って、日本からの取材は私ひとり。当然ある程度の語学力が必要です。私の専門は韓国語ですが、中国語も日常会話レベルであれば可能なので、今回白羽の矢が立ったというわけです。
各国の錚々たるプロチームがトーナメントを戦い、最終的に決勝戦に勝ち上がってきたのはどちらも韓国チーム。韓国語ができる私であれば、彼らへの取材もバッチリです。メディアの編集担当さんは、本当に適材適所な人員配置が上手い方だなあと感心してしまいます。

©2025 Riot Games. All Rights Reserved.
APAC記者団とイベント取材ツアー
今回は単独渡航のため、航空券やホテルの手配など事前準備もすべて自分で行ないます。記者団ツアーのように空港出迎えや貸し切りバスなどは当然ないため、空港から市内への移動やホテルから会場までの経路なども考慮しなければなりません。私は個人的にこういう手配をするのが好きなので、むしろ自由度が高いほうが嬉しかったりします。
本来は完全なる単独取材の予定でしたが、ゲーム会社の方の計らいでAPAC(アジア太平洋地域)記者団を紹介していただきました。東南アジアとオセアニアからのメディアツアーで、基本のコミュニケーションは英語。私はお恥ずかしいことに英語があまり得意ではないのですが、引率の方がシンガポール人だったので私には中国語で話してくれました。英語ができればもっとほかの参加者ともコミュニケーションがスムーズだっただろうと思うと、やっぱり語学力は大事だなと痛感させられました。
成都の中心地では、決勝戦に先立って数日間にわたり様々なイベントを開催。APAC記者団ではこれらの催しを巡るツアーを行なっていて、特別に私もそこに参加させてもらうことができました。現地の盛り上がりを伝えるレポート記事の執筆も今回の取材に含まれており、ひとりで回っていては知り得ない情報や関係者以外は入れない場所にも行けたので本当にありがたかったです。

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プロゲーミングチームによる記者会見
取材のメインは、事前の記者会見と試合後の優勝インタビューです。事前の記者会見はいわゆる国際会議のような形式。後方のブースに各国語の通訳者が配置され、記者の手元にはイヤホンが配られました。質問を中国語、英語、韓国語の3か国語で受け付けるため、1~3番のチャンネルで各国語の通訳が流れます。
一方、優勝インタビューのほうは中国語と英語の質問のときだけ韓国語訳があり、あとはすべて韓国語。中国開催なのにこれでは不満が出ないのかなと心配になりましたが、中国メディアもそれに備えて韓国語ができる中国人記者を多く派遣していたようでした。とにかく優勝したのが韓国チームで本当に助かりました。
私の仕事はこの記者会見の書き起こしです。韓国語で行なわれた質疑応答の全編を日本語に翻訳してウェブ記事にするというもの。こういうタイプの記事は時間との勝負なので、ホテルに戻ってその日のうちにすべて書き上げます。通訳だけでなく、こういった海外取材でも語学力は非常に重要なものなのです。

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海外取材の模様は以上になりますが、いかがだったでしょうか。たまには現場のリアルが伝わる内容もいいですよね。機会があれば、国内での通訳現場のお話などもいつか書けたらと思います。
さて、次回は予定どおり「知らないと絶対に訳せないeスポーツならではの用語」をご紹介しますので、お楽しみに。
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留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。
