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2025.10.07 UP

第19回 続・eスポーツでよく使われる訳しにくい韓国語

第19回 続・eスポーツでよく使われる訳しにくい韓国語

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)

より良い訳を目指して、感覚を研ぎ澄ます

連載第16回で書いた「eスポーツでよく使われる訳しにくい韓国語」記事が思いのほか学習者層に好評だったので、続編をまとめてみました。今回もeスポーツに限らず、競技全般に共通する用語に絞っています。

*第16回の記事はこちら
https://tsuhon.jp/interpretation/column/esports16/

VALORANT
2025年8月にLaLa arena TOKYO-BAYで開催された『VALORANT』のアジア大会「VCT Pacific Stage 2 Finals Tokyo」の模様
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ちょっとトリッキーな要注意単語

연패「連敗」「連覇」
こちら「ヨンペ」と読み、なんと同音異義語です。綴りも発音もまったく一緒なのに意味は正反対。単語だけでは韓国人でも区別がつきません。
「빛나는 연패 기록(輝かしい“ヨンペ”記録)」なら「連覇」だし、「연패의 늪에 빠졌어요(“ヨンペ”の沼にハマってしまった)」だったら「連敗」、という具合に文脈で判断するしかないのです。知識がある場合も助けになるので、連覇の記録がかかっているかどうかなど事前にチェックしておくといいでしょう。

무승부(無勝負)「引き分け」
「勝負が無い」のではなく「勝負がつかない」のほうです。一見わかりそうで、知らないと想像だけでは訳すのが困難な韓国語かなと思います。
同じ意味で「비기다」という単語もありますが、ちょっと口語的な言い方です。ちなみに「부전승(不戦勝)」「부전패(不戦敗)」は直訳そのままになります。正直eスポーツだと引き分けはあまりないのですが、ゼロではないからこそたまに出ると慌てやすいのでしっかり押さえておきましょう。

直訳でもいいけれど、より自然な言い回しがある言葉

열심히(熱心に)「一生懸命」「頑張る」
よく使われるのが「열심히 하겠습니다(熱心にやります)」のような言い方です。日本語的には自分の決意を表すのに
「熱心に」を使うとちょっと違和感があるのかもしれません。「一生懸命頑張ります」みたいな訳のほうがしっくりきます。
一応「頑張る」の直訳には「힘내다」があるのですが、こちらは「頑張ろう」とか「頑張って」「元気出して」の文脈で使われることが多いです。これはもはや、決まり文句として対訳を覚えてしまっていいかもしれませんね。

최선을 다하다(最善を尽くす)「ベストを尽くす」
上記と一緒によく使われるのがこちらの決まり文句。「최선을 다해서 열심히 하겠습니다(最善を尽くして熱心にやります)」のような形で使われますが、訳すときは「ベストを尽くして一生懸命頑張ります」のようにすると自然です。
日本語の直訳は「最善を尽くす」ですが、スポーツでは「ベストを尽くす」のほうがより使われている印象があります。「最善を尽くす」には複数の選択肢のなかから一番良いものを選ぶニュアンスが含まれており、ビジネスの場面で多用されています。一方「ベストを尽くす」は自分の力をすべて出し切るというニュアンスが強いため、競技においてしっくりくるというのがわたしの解釈です。

아쉽다(残念だ)「悔しい」
こちらは例えば「아쉬운 결과가 나왔습니다(残念な結果となってしまいました)」のような客観的な言い回しでは直訳のほうがしっくりきます。ですが、「실력을 발휘하지 못해서 아쉬웠어요(実力が出しきれず残念でした)」のように自分の気持ちを表すときなど主観的な言い回しでは「悔しい」のほうが近いニュアンスだと感じることが多いのです。
直訳でも違和感はないので好みの問題もある気がしますが、「悔しい」の直訳とされる「분하다」の使用頻度がそれほど高くないせいもあるかもしれません。ただし、この2単語が同一文章内で使われるときはきちんと区別したほうが良いでしょう。

直訳するとぼんやり曖昧になってしまう言葉

변수(変数)「想定外のこと」
これはずっとあやふやだった言葉のひとつです。自分でもいつか整理しないといけないなと思っていたので、これを機にきちんと考えてみました。使われ方としては「변수가 일어났어요(変数が起こりました)」「변수가 있을 수 있어요(変数があるかもしれません)」などがあります。直訳だと、わかったようなわからないような、イマイチはっきりしません。
辞書で調べると「状況を左右する要因」と出てきます。なるほどなとは思うのですが、個人的にはもっと驚きや慌てるニュアンスが含まれている気がするのです。今回改めて考えてみた結果、「想定外のこと」という訳が一番広く使えるかもしれないと思いました。

ちなみにこれをそのまま直訳しているインタビューも聞いたことがあるのですが、インタビュアーの方が「きっとこういうことが言いたいんでしょうね」のようにフォローを入れていました。通じれば問題ないという考え方もありますが、スムーズな会話をつくりあげるのも通訳者の腕の見せどころではないでしょうか。

 

さて、今回は以上となります。このような一般的な語彙はネット上にも色々な情報が載っているので、皆さんなりの答えを探してみてみるのもいいかもしれません。もしこれがeスポーツや特定のゲームの専門用語となると、情報量も格段に減るため基本ひとりで訳を考えることが多くなります。

というわけで、次回は知らないと絶対に訳せないeスポーツならではの用語をご紹介しますのでお楽しみに。

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。