
韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)
通訳は演者なのか、それとも裏方なのか
皆さんはeスポーツの通訳者というと、どのような立場の職業と捉えていますか?
端正な装いでステージに立って外国語を操る華やかな職業でしょうか。それとも輝かしいスター選手の後ろで黒子のように喋る地味な職業でしょうか。
ちょっと大げさに言いましたが、これ、どちらも正解だと思うんです。今回はそんなお話です。
通訳者の立場は時と場合によって変わる
ひとことでeスポーツ通訳者と言っても、その仕事内容はさまざまです。ステージや放送で人前に立つこともあれば、声の出演のみのケースもあります。
人前に出る場合は衣装の細かい指定があったり、細かくなくてもきちんとした服装が求められたりします。プロのヘアメイクが入るときも多く、ほかの出演者と並んで香盤表に載ることもしばしば。
eスポーツイベントで訳す内容は、会場や配信で流れるケースだとそれこそインタビュー通訳がほとんど。外国人客が多い場合は会場ナレーションを行なうこともありますが、eスポーツではまだ少ないと思います。
逆に表に出ないケースは、リハーサルや会場内での移動の指示など。ほかにも試合直前のPCやデバイスのセッティングのように、大勢に見られているけどマイクは通さない通訳や、記者会見のように特定の人の前で行なう通訳など多岐にわたります。
このような業務の特性上、通訳の立場は時と場合によって変わってしまうのです。時には演者として振舞わなければならないし、時には裏方として動かなければなりません。
ただ、人によっては通訳に対してイメージが固定化されていることがあるため、注意が必要です。裏方として認識されている場合はステージに出るのにヘアメイクが入っていなかったり、逆に演者と見なされている場合は声の出演だけなのにヘアメイクが準備されていたり。そういう場合は遠慮なくこちらから指摘するのが良いでしょう。イベントを運営する担当者は、プログラムを回すのに必死で通訳者の仕事内容まで頭が回っていないことも多いのです。

撮影:Yoshida“HARRY”Takanori/©2025 Riot Games. All Rights Reserved.
立ち位置のスタンスは通訳者ごとに違う
では、通訳者自身の意識はどうでしょうか。裏方に徹するべきか、あるいは演者として振舞うべきか。これは、そのときの仕事内容によって分けて考えているケースがほとんどでしょう。
ただ、人によって状況は違うと考えられます。フリーランスとして通訳をしていたり、ほかにインタビュアーやジャーナリストを兼業している場合、たとえ裏方の仕事だったとしても活動を表に出すことで次の仕事の獲得につながる可能性があるからです。
逆に通訳会社所属で幅広く通訳をしている場合や、ゲーム・eスポーツ事業の会社所属のサラリーマンは、表に出る場合でも目立たないように動くことがあります。個人としてではなく会社の名前を背負って動く立場なので依頼者に満足してもらえれば問題なく、世間にまでアピールする必要がないからです。
私の場合はもちろん前者。最近はとくに執筆活動を精力的にやっているのですが、知名度が上がると内容に関係なく一旦記事を読んでいただけることも多いです。また、存在を知っていただけることで、別の通訳のオファーをいただける可能性も広がります。
最も重要な音質問題はしっかり主張すべき
最初の章で、イベントを運営する担当者が通訳者の仕事内容までなかなか頭が回らないというお話をしました。通訳という仕事ができる人は絶対数が少ないため、通訳者の立場で考えてほしいと願うのはかなり難しいことだと思います。それならば、通訳者自ら問題点を指摘するほうが早い、というのが私の考えです。
大きいステージに何度も立ったことがある人ならわかると思いますが、舞台上では声が聞こえにくい傾向にあります。多少聞こえづらくても演者さんはある程度ごまかしがきくけれど、通訳の場合は致命的です。かならずイヤモニを要求しましょう。私の経験上、事前に準備されていたことはほぼありません。
【参考】ゲーム大会や番組のMC/実況アナウンサーを務めるOooDaさんのポスト
真面目な話をすると大きなステージ上だとイヤモニが無いと会話が成立しない、聞こえづらい事が多々。
スタジオでも環境によっては難しいタイミングがある。
この瞬間僕は聞こえてなかった。
おそらく他のステージ上のメンバーも?
後で見返して本当に凹んだ。
これ以上は言及しません🙏 https://t.co/1mpEwjGt8s— OooDa (@OooDa) March 28, 2025
放送でオンライン通訳の場合も、音声チェックは念入りに行ないましょう。機材や回線の問題で途切れたりすることがあるからです。通訳の際の音量は、少し大きいぐらいでちょうどいいと思います。
ときどき配信で、通訳の精度の低さをコメントで指摘されることがあります。もちろん単なる通訳ミスの可能性もありますが、音質問題が絡んでいる可能性も結構あるんです。視聴者は静かな部屋でクリアな音質で聞けるのでいいですが、通訳者は同じ環境で音声を聞いているわけではありません。音質環境は本人にしかわからないことですが、聞こえにくいのかなと少しでも慮ってもらえると通訳者としてはありがたいです。
さて次回は、久しぶりに韓国語学習者に向けた内容を予定しています。eスポーツでよく使われる韓国語のなかで訳しにくいものをご紹介しますのでお楽しみに!
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留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。