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2025.04.02 UP

第14回 韓国の「とあるeスポーツ事情」と日韓通訳

第14回 韓国の「とあるeスポーツ事情」と日韓通訳

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)

eスポーツ強国・韓国の意外な側面とは?

前回は私の近況を中心に、最近のeスポーツ通訳事情をお伝えしました。今回は韓国の「とあるeスポーツ事情」についてと、それに関連した日韓通訳のお話をしていきたいと思います。

私がこのタイミグでこの話題を書こうと思ったのは音楽ゲーム、いわゆる音ゲーの大会の通訳を担当したことがきっかけでした。

トッププレイヤーは年俸億超えも……華やかな韓国eスポーツ

『通訳翻訳ジャーナル』の読者の皆さんはあまりご存知ないかもしれないのですが、eスポーツ界隈では「韓国」と言うと「強い」というイメージを持っている人が多いです。実際に『League of Legends(LoL)』では世界大会で韓国チームが何度も優勝を果たし、世界中から注目されています。推定年俸が数億円と噂される世界的スーパースター・Faker(イ・サンヒョク)選手も韓国人で、彼がまさに現在の『LoL』eスポーツの顔と言っても過言ではありません。

「MOBA(Multiplayer Online Battle Arena)」と呼ばれるいわゆる陣取りゲームのような『LoL』に対し、「FPS(First-person shooter)」「TPS(Third-person shooter)」と呼ばれるシューティングゲームでも韓国の強さが年々増しています。
『PUBG』という2017年にリリースされた韓国産のバトルロワイヤルでかなりの韓国人選手が活躍を見せていましたし、その前年にリリースされた陣取り且つシューティングの『Overwatch』においては、韓国人メンバーで構成されているチームが常に上位を占めています。

韓国人のグローバルな活躍を受けて、韓国メディアが大きく報道。それを見て「将来プロゲーマになりたい」と思う若者が増加。韓国の大企業がプロチームを運営したり、海外チームがこぞって韓国の選手を取り込んだりして世界で名を上げています。さらにアマチュア選手の育成も体系的に行われ、政府も積極的にeスポーツを支援しています。

2023年11月に韓国で開催されたLoLの世界大会「Worlds」
2023年11月に韓国で開催されたLoLの世界大会「Worlds」で、Faker選手率いる韓国のプロチーム「T1」が優勝したときの様子。
©2023 Riot Games. All Rights Reserved.

韓国eスポーツが抱える不人気種目問題

ところがそんな華やかな世界は、上記に挙げたようなごく一部の種目だけのお話。人気種目以外のeスポーツは注目されにくく、アマチュア選手のみでひっそりと行なわれています。
とはいえeスポーツ文化が深く根付いているのもあって、少しでもプレイ人口がいれば国際大会でそれなりの成績を出してくるのが韓国の特徴です。海外からは、「こんなに強い選手がいるのだから国内でさぞかし人気なのだろう」と思われやすく、内部事情がなかなか見えづらい背景となっています。実際はほかのeスポーツでも行なわれるようなストイックな練習を当然と考える一部のプレイヤーが実力を発揮しているだけ、ということが多々あります。

様々な要因が重なってのこととは思うのですが、eスポーツがプレイヤーやファン層の盛り上がりありきで動いているところが大きいと考えられます。人気があるから投資しよう、人気があるからメディアで取り上げよう、といったボトムアップ型で企業が動くのです。

対して日本は、トップダウン型が多い傾向にあります。「海外のeスポーツはすごい、日本は世界から遅れをとっている」という認識からスタートし、なんとかして盛り上げようと頑張っている人たちがたくさんいます。上記に挙げたような世界で人気のeスポーツにおいてどうすれば日本が盛り上がるか、どうすれば日本が強くなるか、そんなことを考えながら企業が動いています。

日本に活動の場を求めてやってくる韓国人プレイヤーたち

また、家庭用ゲーム機やゲーセン文化でゲーム大国として名を上げてきた日本の企業が、自社のゲームでeスポーツをやろうという動きも別の流れとして存在します。冒頭で触れた音ゲーの大会はまさにこのケース。「KING of Performai(KOP)」というセガの音楽ゲーム『maimai』『オンゲキ』『CHUNITHM』の3種目を扱う公式大会のInternational ver.で、韓国人選手が出場し私が通訳を担当しました。

そのほかにもカプコンの『ストリートファイター』や、任天堂の『大乱闘スマッシュブラザーズ』、ソニー・インタラクティブエンターテインメントから独立したポリフォニーデジタルの『グランツーリスモ』や、コナミデジタルエンタテインメントの『eFootball(ウイニングイレブン)』など、ゲームに詳しくなくても名前ぐらいは一度は聞いたことのあるような人気ゲームも、eスポーツを盛り上げていこうと頑張っています。

通訳という立場では、どうしても韓国が強い種目のほうが関わりが多くなりがちです。日本のチームが韓国から選手やコーチを呼んだり、日本のイベント運営会社が自社のイベントに有名選手を呼んだりして通訳が必要になる場合が多いからです。
一方で、韓国での大会が少ないことを理由に日本で活躍の場を求める韓国人選手もおり、そのサポートとして通訳につく場合もあります。通訳者はeスポーツ通訳の依頼が来た場合に念のためどちらのパターンなのか背景を知っておくと、訳す際に役立つことがあるかもしれません。

 

さて次回は、イベントにおける通訳の立場・立ち位置についてお話していきます。

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。