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2025.02.03 UP

第12回 eスポーツの「字幕翻訳」の種類や特徴とは?

第12回 eスポーツの「字幕翻訳」の種類や特徴とは?

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)

eスポーツにおける字幕翻訳についてご紹介

このeスポーツ連載ではこれまで様々なテーマでお話をしてきましたが、そのどれもが主に通訳に関する内容となっていました。
そこで今回は、今まで少しずつしか触れてこなかった翻訳について、なかでも「字幕翻訳」にフォーカスを当ててご紹介していきたいと思います。

eスポーツ関連の字幕翻訳の種類

そもそもこれまであまり翻訳に触れてこなかった大きな理由として、eスポーツにおいてメインとされているのが生放送だからという点があります。選手たちがリアルタイムで戦う様子を生中継し、試合終了直後にインタビューを実施するというのが一般的なeスポーツ大会の放送の流れです。したがって、基本的にeスポーツのメインは動画コンテンツではなく配信コンテンツということになります。

2023年に幕張メッセで開催されたLeague of Legendsの国内プロリーグ『LJL 2023 Summer Split Finals』の様子。
2023年に幕張メッセで開催されたLeague of Legendsの国内プロリーグ『LJL 2023 Summer Split Finals』の様子。
©2023 Riot Games. All Rights Reserved.

とはいえ、eスポーツに関連する動画も決して少ないわけではありません。本当にさまざまな動画が日々作られているのですが、比較的注目度が高いのはメインコンテンツの中に組み込まれるタイプの動画。具体的には、試合開始前に流れるチーム紹介事前撮影された選手インタビューなどがあります。その日戦うチームがどんなチームなのかを客観的に紹介したり、選手が直接試合への意気込みを語ったりすることにより、これから始まる試合への期待感を高める役割を果たします。なかには、対戦相手との因縁や関係値を前提としたプロレス的な煽り動画などもあったりします。

こういった動画に全編字幕がつけられるとすれば、海外チームの試合を日本語で中継する場合でしょう。また、日本の大会に海外選手が出場する場合も字幕がつけられます。ほかにも数は少ないですが、企画モノのバラエティ番組やスペシャルインタビュー、ドキュメンタリーなども時々ありますし、私が把握しきれていない種類の動画もきっと色々あると思います。

ちなみにeスポーツでは試合後に「ハイライト動画」がまとめられる文化がかなり定着してきていますが、スーパープレイや決定打の瞬間を見せるのがメインとなっており、実況解説が何語であっても字幕はつけられないことがほとんどです。

eスポーツ字幕翻訳の特徴は「専門用語」の多用

これまでも何度かお話してきましたが、eスポーツではゲーム用語をはじめとした専門用語がかなり多く使用されます。ですが、eスポーツの試合を見る人はある程度の知識が備わっていることが多いため、翻訳時でも専門用語はそのまま記載したほうが自然な文章になりやすいです。

また、略称もよく使われます。そもそもゲームの名前自体が長く、略称が正式のように扱われることもしばしば。私がメインのお仕事として長年やっているゲームタイトル「League of Legends」は「LoL」という略称で世界中から親しまれていますし、「PUBG」のように当初の正式名称「PlayerUnknown’s Battlegrounds」から略称へ正式名称を変更するという事例もあったりします。

このほかにも、略称が使われやすいのが大会名。「~チャンピオンシップ」や「~インビテーショナル」のようなそもそも長めの単語が使用されることも多く、字幕にするとそれだけで文字数を大幅に取られてしまいます。「~トーナメント」や「~リーグ」「~シリーズ」「~カップ」のような大会名も一般的ですが、ここへ地域や年度、シーズン、スポンサー名などが尾ひれのようにくっついてくるので大会名は全般的に長くなりがちです。口頭では略称を使っていなくても、字幕にする際に略称で表記することもあります。

「字幕翻訳」ならぬ「テロップ翻訳」

スイニャンさんが翻訳を担当した、日本語字幕(テロップ)が入った動画の例。
スイニャンさんが翻訳を担当した、日本語字幕(テロップ)が入った動画の例。
©2023 Riot Games. All Rights Reserved.

私が以前に担当した字幕翻訳のお仕事がちょっと特殊でかなりおもしろかったので、最後に簡単にご紹介しておきたいと思います。「LoL」の韓国プロリーグ「LCK」の日本語配信を、韓国のストリーミングサービスであるアフリカTV(現SOOP)が実施していた時期があるのですが、そのときに試合と試合の合間に流れるミニコーナーのような番組の字幕翻訳を担当したことがあります。番組は、選手たちがゲーム中にボイスチャットで話した内容を公開するというものでした。

選手たちは早口かつ複数人が同時に話すこともあるため、すべてを字幕にするのはほぼ不可能です。したがってわたしが翻訳を依頼されたのは、韓国語で書かれたテロップの部分のみという「字幕翻訳」ならぬ「テロップ翻訳」という感じの動画でした。しかもテロップは日韓併記だったので、長さを合わせる必要があります。また、選手の言葉のみならず擬音語・擬態語がテロップ化されている場合もあり、字幕翻訳というよりはコミックスの翻訳に近い感じだったように思います。

番組の内容もとてもおもしろく楽しいお仕事だったのですが、同社の日本法人の解散に伴い、日本語放送も終了してしまいました。リーグ自体は続いているので、ぜひ日本語放送が再開されることを願っています。

 

さて、次回は「eスポーツ通訳奮闘記!」という連載名にふさわしく、私の近況を中心にeスポーツ界の通訳周りの動きなどをお伝えできればと思っています。お楽しみに!

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。