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2024.10.03 UP

第9回 海外遠征をサポートする「引率通訳」の仕事とは?

第9回 海外遠征をサポートする「引率通訳」の仕事とは?

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末ごろ更新)

関係者や選手のアテンド・案内を伴う通訳のお仕事について

前回までは、韓国人選手へのインタビューの通訳に関連したお話をしてきました。今回は、引率通訳についてご紹介していきます。

簡単に言うと、一般のビジネスにおけるアテンド・案内のお仕事に近いと言えるでしょう。目的がeスポーツ関係者の海外視察等であれば一般のビジネスと同じような感じですが、eスポーツチームや選手が試合に参戦するのための海外遠征となると、その通訳は少し特殊なものになります。

eスポーツ関係者の視察アテンド通訳

筆者が今までに経験したeスポーツ関係者のアテンドは会議、会食、イベント出演、展示場視察、取材、観光などがありました。日本から海外へ行く場合と海外から日本へ来る場合の2つのパターンがありますが、割合としては費用面を考えても来日するお客様をおもてなしする側の方が多い気がします。
筆者の場合、イベント出演で来日するプロゲーマーの通訳であれば慣れているものの、こういったアテンドはビジネスマンはもちろん大学教授から政治家の先生まで、比較的お堅い職業の方々が多いのでいつも緊張してしまいます。

とはいえ、そういった方々がお互いの国のeスポーツの現状について情報交換をしたり、eスポーツやゲーム関連のイベントに出演したり、展示場へ視察に行ったりするのをサポートするお仕事ですから、業界に詳しい人が通訳したほうがスムーズなのは間違いありません。普段からeスポーツやゲームに関する見分を広げておくと役に立つのですが、突然このような仕事が舞い込んできた場合は、広く浅くで構わないので業界全体の大まかな動きを知っておくと良いでしょう。

eスポーツチーム国際大会遠征時の引率通訳

引率通訳
今年2024年4月、韓国・ソウルで行なわれた『Overwatch Champions Series 2024 Asia Stage 1』の日本代表チーム「INSOMNIA」の引率通訳を担当(前列右から2番目が筆者)

さて、ここからが本題です。eスポーツチームや選手の国際大会遠征時の引率通訳についてお話していきましょう。
海外チームが来日する場合、空港出迎えをしてホテルまで連れて行くか、ホテルまで来てもらって合流のどちらかが一般的です。日本チームを海外へ連れて行くときは筆者が日本在住のため同行することが多いですが、日本全国各地からバラバラに渡航する場合は、現地で待ち合わせしたり出迎えたりすることもあります。ホテルから試合会場までの引率は、徒歩圏内のときもあれば交通機関を利用することもあります。貸し切りバスが手配されている場合は道案内の必要はないですが、何時にどこでどのバスに乗るかなどの指示をきちんと伝える必要があります。

国際大会では、各地域からチームが集合する試合前日ぐらいに撮影やインタビューをすることが多く、そこでの通訳が発生します。写真撮影はポーズの指定や立ち位置の指示などがメインになるので、専門性はそれほど高くないでしょう。ですが映像撮影でインタビューが入ると、通訳の内容もぐっと専門的になってきます。

リハーサルでは段取りや立ち位置の確認がメインになりますが、eスポーツの場合、かならず機材セッティングの時間が設けられています。選手たちは自分の使い慣れたマウス、キーボード、イヤホン等を持ち込むのが一般的なので、PCとの互換性に問題がないかなどをチェックします。問題があったら、技術班に向けて状況を通訳する必要が出てきます。

その他よくあるのが食事の手配です。大会当日は会場の控室に食事が用意されていることが多いですが、試合のない日は食事の用意がないことも多く、どこかへ連れて行ったり買い出しに行ったり注文したりする必要があります。このとき、選手たちの希望をある程度聞いてあげると喜んでもらえるでしょう。

一番ハードルが高いのは日本から海外へ行く場合

引率通訳の難易度で一気にハードルが上がるのが、日本から海外へ行く場合です。
韓国語通訳の筆者はソウルに5年住んでいた経験があるため困ったことはほとんどないのですが、いつかは土地勘のない地方の街や方言のある地域に行く可能性もあるでしょう。英語通訳の方などは、自身も初めて行く場所で引率通訳をしなければならないということも出てくると思います。

もうひとつ慎重になりたいのが食事。海外へ日本人選手を引率する場合、日本人の口に合うものを選ぶ必要があります。せっかく海外に来たんだから現地の美味しいものを、という気持ちもありますが、選手たちのコンディションに配慮することも大切です。特に韓国はからい食べ物が多く、苦手な人はお腹を壊すなど体調に支障が出る可能性もあるので注意が必要です。

また、慣れない海外では思わぬトラブルも出やすいもの。誰かが忘れ物や落とし物をしてしまった場合は、代わりに対応しなければならない部分がかならずと言っていいほど発生します。eスポーツの選手は若い人が多いのもあって、海外慣れしていない人の割合も高いです。トラブルのひとつやふたつはあって当たり前、ぐらいの気持ちで構えていた方が良いかもしれません。

 
さて、次回はちょっと趣向を変えて、日本語を勉強中の韓国人選手の通訳について、わたしの経験から得た考え方について語りたいと思います。

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。