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2023.12.29 UP

第3回 日本の「eスポーツ」における海外との関連

第3回 日本の「eスポーツ」における海外との関連

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(**毎月末ごろ更新)

日本のeスポーツの現状&通訳・翻訳需要について解説!

前回は韓国のeスポーツの歴史や流行をメインにご紹介しましたが、日本のeスポーツには少ししか触れられませんでした。そこで今回はあらためて、日本を中心とした目線でeスポーツについて見ていきたいと思います。

日本独自のeスポーツの存在

まず知っておいてほしいのが、日本には国内だけの独自のeスポーツがたくさんあるということ。なぜかと言うと、日本では昔からゲームメーカー各社が発売するコンシューマーゲーム機(例:ファミコン、プレイステーションなど…)でやるゲームが人気だからです。

海外に興味を持っている『通訳翻訳ジャーナル』の読者の皆さんなら、ここでピンと来た方もいるかもしれません。海外ではPCゲームで遊ぶ人が圧倒的に多く、そもそもゲーム機を持っている人は少ないのです。日本で人気のゲームに海外プレイヤーが少ないということもあって、結果的に日本国内だけの独自のeスポーツ大会が開催される、といった形になるのです。

前回、eスポーツでは国や地域によって流行りのゲームジャンルが違うというお話をしました。しかしそれはあくまでも世界のeスポーツの中心となっているPCゲームにおける話であり、日本のゲーム事情とはマッチしないことも多いのです。

世界で人気のeスポーツ種目の国内注目度

では、ここ数年世界で一番人気のあるeスポーツはと言うと、前回もご紹介したLeague of Legends』(リーグ・オブ・レジェンド)です。
相手の陣地にある建物を破壊すれば勝利となる戦略ゲームで、5対5のチームで戦います。最近は韓国と中国が飛びぬけて強く、欧州、アメリカがそこに続いている感じです。日本のプロチームも頑張ってはいますが、実力的に追いつくのはなかなか難しいのが現状。とは言え世界最高峰のeスポーツと言われるだけあって、日本でも比較的注目度が高いのが特徴です。

もうひとつ、昔から世界で人気を博しているeスポーツにCounter-Strike』(カウンターストライク)シリーズのゲームがあります。テロリストとカウンターテロリストに分かれて、5対5で戦うシューティングゲームです。主にヨーロッパやアメリカが強さを発揮しているのですが、日本ではほとんどの選手が『VALORANT』に移行してしまったこともあって、残念ながら日本国内での注目度は世界の盛り上がりと比べるとそれほど高くないのが現状です。

世界も認める日本のeスポーツ種目は?

では、世界での注目度が高く、かつ日本でも人気のあるeスポーツは何かと言うと、先にも触れたシューティングゲームのVALORANTでしょう。

『Counter-Strike』と似たゲームですが、こちらはキャラクターごとに様々なスキルが使えるのが特徴です。欧州や南北アメリカなどのチームが非常に強く、日本を含めたアジア各国がその後ろを追いかけているような構図です。アジアではシンガポールに強いチームがあるものの、韓国の選手層が厚く平均的に実力が高いのが特徴。ここに日本も食らいついていこうと頑張っています。

2023年6月24~25日に幕張メッセで開催された『VALORANT』の世界大会「VCT 2023 Masters Tokyo」
©2023 Riot Games. All Rights Reserved.

もうひとつ、触れておきたいのが格闘ゲーム。いわゆる『ストリートファイター』『鉄拳』のような1対1の対戦ゲームです。世界において日本のプロゲーマーの強さが知られていますが、スポーツで言うところの野球のようにポピュラーな国や地域が限られているため、世界全体における注目度は上記の『VALORANT』に比べるとどうしても低くなってしまいます。日本以外だとアメリカや韓国の選手が強いですが、『鉄拳』ではパキスタンの選手も強かったりします。

日本のeスポーツ業界で使える言語

当たり前かもしれませんが、日本国内における通訳・翻訳業の有無は日本での需要と密接な関係にあります。最初にご紹介したような日本独自のeスポーツでは、外国語を使う場面がほぼありません。次にご紹介した世界で人気のeスポーツの場合、日本での注目度によって仕事量が違ってきます。つまり『League of Legends』に比べると『Counter-Strike』関連の通訳・翻訳業は少なめと考えて良いでしょう。

その次にご紹介したような、日本が国内外から注目されているeスポーツだと、通訳・翻訳業の需要は比較的あるほうだと言えます。言語としては英語、韓国語、中国語あたり。実際に第2回で紹介した『League of Legends』の世界大会の記者会見でも、上記3か国語が使われていました。

とはいえ東南アジアやロシア、南米など非英語圏の人にも英語で対応することは珍しくありません。第一言語ではないけれど英語を喋ってもらうケースや、現地語と英語と日本語の二重通訳になることも。ですから、もしあなたが英語以外の言語、具体的には例えばウルドゥー語ができるなら、先に触れた『鉄拳』でなにかオンリーワンの活躍ができるかもしれません。

今回のお話はここまで。次回は、日本におけるeスポーツの通訳・翻訳業の種類についてご紹介していきます。

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。