翻訳者になるには?仕事ジャンル別にデビュールートを解説
マンガで紹介! 翻訳者の1日
翻訳とは、ビジネス文書のほか書籍や映画など、外国語のあらゆる文字情報を現地語化する仕事です。訳すものは幅広く、グローバリゼーションの一端を担います。主に、「産業翻訳」「出版翻訳」「映像翻訳」という3つのジャンルに分けられます。以下よりこの3つの種別にのっとって必要なスキルやどうやったら仕事をえられるようになるかをまとめました。
出版翻訳者になるには
出版翻訳者になるために必要な4つのスキル
① 日本語表現力
訳書を手がける出版社の編集者に「繰り返し依頼する翻訳者像」について聞いたところ、最も多い回答は「豊かな日本語表現力のある人」でした。原書の魅力を引き出し、読者に伝えられるかどうかは、訳者の日本語表現力にかかっています。基本的な文法が正しい、自然な日本語が使えるのはもちろん、原書の雰囲気に合った語彙や表現を駆使できる豊かな表現力が必要となるのです。
② 原文読解力
ネイティブの読者と同じ感覚で原文を読めて、著者の意図や微妙なニュアンスも正確に理解できるのが理想です。ベースとなるのは外国語の能力。まずは文法を理解できる語学力が必須になり、その上で内容や表現まで読み込む力が求められます。
③ 調査能力
翻訳作業の中で調べ物が占めるウエイトは大きいです。不明な語彙のほか、背景知識や事実確認など、細かく調べ上げる能力は必須。専門性の高いノンフィクションなどでは、その分野の知識が必要になり、調べ物も増えます。
④ 文章構成力
日本語表現力にも連動しますが、文章構成力は“翻訳力”ともいえるスキル。逐語訳でも意訳でもない、読者対象に合った文章にするためのコツやノウハウを身につけることが必要です。自分の訳文を客観的に判断し、ブラッシュアップする力が求められます。
まとめ
出版翻訳に必要な主なスキルは上記の通りで、これらを身につけるには勉強やトレーニングが必要となります。特にベースとなる読解力や表現力は日々の積み重ねが大きく、一朝一夕では身につきません。一方で、翻訳の「作法」や「コツ」を学ぶには、プロの翻訳者の指導を受けられる翻訳スクールや翻訳者主催の勉強会などを活用するといいでしょう。そうした場でプロの翻訳者との縁ができることは、後々プラスになります。
また、独学で行える勉強法としてプロが推奨するのは、優れた訳文と原文の比較です。ジャンルを絞って比較を続けていると、そのジャンル特有の文体や専門用語も自然と身につきます。また、学習者は扱う分野をある程度絞ることも必要。編集者が繰り返し依頼する翻訳者のタイプには「特定ジャンルに強い人」との回答もありました。「どんな作品も訳します」というタイプの翻訳者の需要もありますが、現在活躍している翻訳者のほとんどが、ミステリ専門、ノンフィクションが得意、児童書が得意……など、自分のジャンルを確立しています。翻訳者をめざす段階から「得意」や「好き」は意識しておきたいところです。
出版翻訳者になるための3つのルート
① プロの翻訳者に師事
翻訳のノウハウについての指導を受けられるだけでなく、翻訳者の人脈から仕事のチャンスが広がる可能性も高いです。翻訳者に師事するには①専門スクール、②翻訳者が講師を務める大学の授業、③翻訳者主催の勉強会に参加するとよいでしょう。当サイトでは専門スクールリストを掲載しているので、ぜひチェックしてみください。
② 出版社に企画を持ち込む
翻訳したい未邦訳の原書を出版社に持ち込みます。編集者が「売れる」「おもしろい」と判断すれば出版が決まり、訳者に抜擢。企画が通らなくても、リーディングの仕事を依頼されるケースもあります。
③ オーディションやトライアルに参加
出版予定の作品の訳者や下訳者を募るため、オーディションやトライアルを実施する機関と提携する出版社もあります。
例:◎ トランネット「出版翻訳オーディション」 https://www.trannet.co.jp
◎ アメリア「スペシャルコンテスト」 https://www.amelia.ne.jp/special_contest/
まとめ
仕事は出版社から依頼されますが、出版社には翻訳会社のように翻訳者を登録しておいて翻訳を発注するようなシステムはなく、編集者の人脈の中から依頼されます。そのため、新人は出版業界につながりがないと、デビューの足掛かりはなかなかつかむのが難しいところ。ひたすら勉強を続けていても仕事をする機会に恵まれず、頭を悩ます人も少なくないです。
時間をかけて学習を続けても、受け身のままではいつまでも仕事に結びつきません。業界との縁やコネクションがないなら、出版社に企画を持ち込む、業界関係者が集まるイベントに出席する、プロの翻訳者の勉強会に参加するなど、積極的な行動が必要です。
編集者やプロの翻訳者とのコネクションができれば、下訳やリーディングの機会が得られるチャンスが増え、実力が認められれば共訳など次のステップに進めます。現在活躍する翻訳者の多くは、そうした努力の末に自分の名前で訳書を刊行し、プロデビューに至っています。
産業翻訳者になるには
産業翻訳者になるために必要な5つのスキル
① 日本語力
複数の訳が浮かぶ語彙や表現力が必要です。専門分野についての文書を理解し、専門分野にふさわしい用語や言葉遣いで文章を書けるスキルが求められます。
② 語学力
専門性の高い文章に対応する力が必要です。専門分野についての書籍や資料を理解でき、ビジネスシーンに応じたコミュニケーションや書類作成ができるスキルが求められます。
③ 調査能力
的確な情報を効率的に得るために、どういったメディアやリソースを使い、どのようにリサーチすればいいのか把握していることが必要です。
④ 知識力
広い一般知識+深い専門知識のどちらも必須です。調べ物をスムーズに行うための一般常識、特定の業界における業務内容や文書、用語などに関する専門知識の習得をしましょう。
⑤ IT リテラシー
Word、Excel、PowerPointなど基本ソフトを使いこなせ、セキュリティ対策が取ることが求められます。ネット検索や翻訳支援ツールを使いこなせるようになることもポイントです。また、機械翻訳(MT)の利用が増えています。それに伴い、機械翻訳の訳文を修正する「ポストエディット(PE)」という仕事が発生しています。翻訳とは違う作業になりますが、今後確実に増えていくと予測されています。機械翻訳についての知識を持つこと、PEにも対応できるようになることも仕事を増やすチャンスとなるでしょう。
まとめ
産業翻訳者にはどんなスキルが必要で、どのレベルまで身につければいいのでしょうか。まず、「語学力」は大前提ですが、ビジネス用語や専門的な文書まで外国語で理解できる力が必要になります。「日本語力」は専門文書を読み解く「読解力」と、文書に合わせて適切な言葉で訳出する「表現力」が求められます。「知識」は、一般常識と専門知識の両方を兼ね備えておきたいところです。一般常識は、調べ物をする際の手がかりとなります。また、プロとして活躍するには専門分野の知識も必要で、該当分野のバックグラウンドがない人は学習や仕事を通じて蓄積していきたいところです。
「調査能力」は、専門文書や未知の分野の文書を取り扱う産業翻訳では必須。翻訳作業の7~8割は調べ物と言われ、効率的なリサーチが求められます。また「ITリテラシー」も必要。ペーパーレス化が進み、すべての作業でPCを使い、データのやり取りもネット経由が一般的な今、普通の人よりは一歩踏み込んだITの知識がないと、産業翻訳の仕事をすることは厳しいともいえます。
産業翻訳者として活躍するには、医薬や金融、特許など各分野の専門知識も必要です。これから翻訳者をめざす人は、専門分野をどのように決めるべきでしょうか。パターンとして多いのは、製薬メーカーで働いていた人が医薬翻訳者に証券マンが金融翻訳者に、というように会社勤めの実務経験を生かすケースです。ですが、専門業界での勤務経験がなくても、翻訳スクールの専門分野講座を受講したり、該当分野の専門書を読み漁ったりして、知識を身につけて翻訳者になる人も多いです。まずは、興味のある分野を明確にすることから始めてみましょう。
産業翻訳者になるためのステップ
①自分にあったワークスタイルを選ぶ
フリーランス、社内翻訳者、派遣スタッフなど、働き方を決めましょう。
②求人情報をさがす
翻訳会社や派遣会社探しには求人サイトや新聞の求人欄や、各社のHPを確認しましょう。通訳翻訳ジャーナルでは「求人情報」や「エージェントリスト」のページもありますので、ぜひ仕事探しにご活用ください。
③エージェントにアプローチ
ファーストコンタクトはメールや各社サイトの求人応募フォームや問い合わせから。電話での問い合わせは避けましょう。
④応募書類の準備
履歴書や職務経歴書については、翻訳の実務経験があれば詳しく記載しましょう。翻訳サンプルを提出する場合もあります。
まとめ
産業翻訳の仕事をしたいと思ったら、まずはワークスタイルを選びましょう。その上で、翻訳者の求人情報を見つけるのがよいです。当サイトでも「求人情報」や「エージェントリスト」を掲載しているので、仕事選びにご活用ください。
フリーランスをめざして、翻訳会社に登録を希望する場合、ほとんどの会社で「トライアル」が行われます。トライアルとは翻訳の実技試験のことで、実際の仕事に則した内容の文書が課題として出されます。翻訳会社はトライアルで応募者の実力を測り、登録時の判断材料にします。人材派遣の場合は、トライアルがないことも多いですが、面接があります。合格は簡単なことではありません。編集部のアンケートによると産業翻訳者がトライアルを受けた会社の数は平均12・9社で、合格率(トライアルを受けた会社の数と合格した数)は67%でした(2023年調査)。
翻訳会社のトライアルに合格すると、その会社の翻訳者として登録され、プロとしてのスタートが切れます。ただし、フリーランスの場合、登録されても、すぐに仕事を依頼されるわけではないので、焦らないことが肝要です。
スクールでの学習歴や検定試験も効果あり
仕事を始める際には、人脈やコネも大切な要素。会社を退職した人が、会社員時代の縁で仕事を受けるケースは少なくありません。「翻訳者をめざしています。何かあったらよろしくお願いします」とアピールしておきましょう。
翻訳関連の検定も仕事につながります。例えば、日本翻訳連盟主催の「ほんやく検定」は1級を取得すると、希望者は連盟のWebサイトに氏名を掲載でき、翻訳会社から声がかかるケースも少なくありません。
また、翻訳スクールの中には、成績優秀者に仕事を紹介するシステムを持つ学校も。そうしたシステムがない場合も、翻訳会社では登録の際にスクール受講歴をチェックしていることもあるので、履歴書でアピールしましょう。
映像翻訳者になるには
映像翻訳者になるために必要な5つのスキル
① 日本語表現力
映画やドラマであれば作品の内容やカラー、登場人物のキャラクターに適した台詞づくりが必要。決められた字数に台詞を収めたり、リップシンクできる台詞を作る際には、言葉のセンスも問われます。
② 語学力
外国語のスクリプトを読み、台詞を理解できること。また、番組制作のための映像素材やテレビ番組などはスクリプトがないケースもあり、音声をもとに翻訳するため、リスニング力が求められます。
③ 調査能力
翻訳するジャンルは幅広いです。専門性の高いドキュメンタリー番組はもちろん、歴史や医療など専門的な分野を題材にした映画やドラマもあり、スラングや新しい言葉も登場。情報の裏取りや調べ物は欠かせません。
④ 字幕や吹替のテクニック
字幕の字数制限、吹替のリップシンクなど、映像に合わせた台詞を作るためのコツやテクニック、業界特有の専門用語を習得する必要があります。
⑤ 字幕や吹替の工程とルールの知識
字幕や吹替の作業工程やルールを知っておきましょう。吹替翻訳では声優のための台本作りも翻訳者の役目。映像翻訳の仕事では、翻訳以外の作業も大きなウエイトを占めます。
まとめ
映像翻訳者には、外国語の台詞を理解する語学力や豊かな日本語表現力は必須となります。さらに、映像翻訳独特のルールと作業を学ぶ必要もあります。例えば、字幕なら「ハコ切り」や「スポッティング」、吹替なら「ブレス切り」といったものがあります。こうした独特のルールや作業方法は、実際に映像素材を使用して一連の作業を行うことで身につくもので、参考書を読むだけではイメージしづらく、独学で習得するのは難しいものです。そのため、映像翻訳の専門スクールで、日本語版制作の現場経験が豊富なプロから指導を受ける人が多いです。実際、現在活躍中の若手の翻訳者には専門スクールに通った経験のある人が多く、業界にコネがない人は、スクールに通うことが映像翻訳者になる最短ルートだといえるでしょう。
字幕と吹替は作業内容が異なり、かつては映像翻訳業界には字幕専門、吹替専門と翻訳者に棲み分けがありました。しかし、最近は吹替やボイスオーバーのニーズが高まっており、これからの映像翻訳者は字幕、吹替、ボイスオーバーのすべてに対応できることが求められつつあります。実際に「字幕も吹替もできる」という翻訳者が増えてきているのです。
また、大手動画配信サイトなどでは、「字幕翻訳は1秒4文字、1枚6秒まで、横13〜14文字×2行」などの従来のルールにはとらわれず、独自のルールでの字幕翻訳を指示するケースが増えているといいます。映像翻訳者に求められる基本的なスキルは同じですが、メディアやクライアントに応じた対応も必要になってきています。
映像翻訳者になるためのステップ
① スクールで学びトライアルにチャレンジ
専門スクールの紹介で受けた制作会社のトライアルに合格。ネット動画のボイスオーバーの仕事を受注。その後、DVDの特典映像、CS・BSの短いドキュメンタリー番組などを経験。
② 翻訳会社や制作会社に応募
翻訳会社や日本語版制作会社の登録に応募し、トライアルに合格。CS・BSの番組、ドラマ出演者のインタビューの字幕翻訳を経て、いよいよドラマシリーズの仕事の依頼が!
③ ドラマから劇場公開の映画へのチャンスが!
ドラマシリーズを手がけるようになり、古い映画のDVD本編や映画祭上映作品などの依頼も。配給会社とのつながりもでき、ミニシアター上映の劇場公開作品の仕事をゲット。
まとめ
配給会社や放送局から直接仕事を得られる可能性は低いので、新人翻訳者がアタックできるのは、日本語版や字幕の制作会社、そして映像翻訳を扱う翻訳会社となります。まずは、それらへの登録をめざしましょう。しかし、登録に際して「実務経験○年以上」の条件を設け、さらにトライアルを課す会社が多いうえ、会社の数もあまり多くないのがネック。そこで、最近の若手映像翻訳者の多くは、映像翻訳の専門スクールで実践的なトレーニングを積み、仕事を始めています。修了生に優先的に仕事を紹介しているスクールもあり、デビューのチャンスは広がります。
また、最近は動画配信サービスやビジネス用途の映像、さらにはYouTube用の動画まで、さまざまなタイプの映像翻訳案件が増え、従来とは異なるルートで仕事が発生することもあります。映像を扱う小規模な翻訳会社や新しい会社を探し、登録の機会を探りましょう。
現在、人手不足の映像翻訳業界では、トライアルなどで実力が認められさえすれば、経験が乏しくても登録ができ、仕事を開始できる可能性は高いです。長尺の映像はベテランの翻訳者に依頼されますが、ジャンルとコンテンツの増加で10分以下の短尺の仕事が増えています。そうした案件は新人でも対応できる可能性は高いです。
また、番組素材(取材映像など)の素訳(全訳)の仕事は、若手でも依頼されやすいです。音声を聞き取るヒアリング力が必要ですが、仕上がりが良ければ、その後、字幕や吹替の翻訳へステップアップするケースもあるので、どんな仕事にもチャレンジしましょう。
近年、仕事量は非常に多いビジネス系も急増
劇場公開用も動画配信用も日本語版制作の予算は総じて厳しいですが、コンテンツの数は増えています。映画製作、配給など、エンタメ業界におけるコロナのマイナス影響もひと段落し、翻訳需要は安定しているようです。一方、スポーツ番組、観光系動画などはコロナ禍の影響を受けましたが、その代わりに海外のニュース番組やドキュメンタリーの放送は増え、映像翻訳ニーズにつながっています。また、前述のビジネス映像翻訳のニーズは一層増えており、担い手不足が生じ、エンタメ系の映像翻訳者がビジネス系の仕事を受けることもあるようです。
また、翻訳手法に関しては、ネット動画でのドキュメンタリー番組の増加により、ボイスオーバーが増えているようです。動画配信の翻訳が増える中で「予算が厳しいと、比較的規模の大きな作品でも、安い料金で受けてくれる若手に回ってくる」という翻訳者の声もあります。単価はやや低めになるが、動画配信の増加により、若手にも仕事のチャンスは十分にある状況になっています。
現役で活躍している通訳者や翻訳者にインタビュー!