第1回 長野県~地獄谷野猿公苑をご案内~

現役通訳ガイド(全国通訳案内士)が実際にお客様をお連れしたツアーの様子や観光地の魅力を紹介します。
今回は通訳ガイドの福田誠さんが担当します。

●3月某日
クルーズ船プレツアー
お客様:主に欧米からのお客様 20名
・日本を巡るクルーズ船に乗船する前のツアー
・2泊3日で、都内観光、長野、山梨をめぐる
・ツアーの目玉として
 長野県の地獄谷野猿公苑で世界的に有名になったSnow Monkeyを見に行く

通訳ガイドの福田誠です。
通訳ガイド歴は約10年で、主に東京を拠点にガイドをしています。
現在はロングツアーが多いですが、FITや日帰りなどさまざまな業務に携わって、現在も日本全国を駆け回っています。
コロナ禍によって2020年春から3年もの間、身動きが取れませんでしたが2023年春になってガイド需要が復活し、3月頃から大忙しとなっています。

世界的に有名なSnow Monkey

3月某日、2泊3日のツアーでお客様を都内観光と長野県の地獄谷野猿公苑、さらに山梨県の河口湖周辺にお連れしました。
移動距離もなかなか長いツアーです。

●ツアーの行程(2泊3日のツアーの2日目)
朝8:30に都内のホテルを出発 → バスで長野県へ
午前中・長野市内の善光寺を見学 → 昼食
→ 地獄谷野猿公苑を見学 → 近くの旅館へ


公苑までの道のりはなかなかハード

今回のツアーの目玉は地獄谷野猿公苑です。
そのポイントは何といってもそこで日本猿が温泉に浸かっている様子を見ることができるかどうかにつきます。
雪の中、猿たちが温泉に浸かる風景は、長野オリンピックの頃からSnow Monkeyとして紹介されるようになり、外国人観光客の方が「一度は見てみたい!」と思うものの一つになりました。
今では数多くのツアーやFITが選ぶ人気の観光地となっています。

このように非常に人気のあるスポットですが、通訳ガイドとして案内する際にはいくつか注意しなければならないことがあります。

まずは開園時間です。
地獄谷野猿公苑の通常の営業時間は8:30〜17:00(最終入場16:30)なのですが、冬の期間は9:00〜16:00(最終入場15:30)に短縮されます。
この冬時間はだいたい3月の終わりまで継続されるため、桜に合わせて訪日客がぐんと増える春の繁忙期にも影響があります。

もう一つの注意点は移動時間です。
すでに下見や業務で行かれた通訳ガイドの方はよくご存知だと思いますが、大型バスの乗降場所である志賀高原ロマン美術館駐車場から地獄谷野猿公苑までは片道で徒歩約40分ほどかかるのです。

最初にとても長いい坂道を10分ほど上ってさらに野猿公苑入口のライブカメラがあるゲートから野猿公苑まで、林道のような道を約30分歩きます。
これだけ長く歩くのはお客様にとっても負担となりますので、あらかじめたくさん歩くことをお伝えしておいたほうがスムーズです。

もちろん雪のある時期は道がさらに滑りやすくなっていたり、雪が溶けてドロドロになることもありますので、公苑までかかる時間も道の状態に左右されます。
ちなみにトイレは志賀高原ロマン美術館、坂の途中の一般車駐車場、地獄谷野猿公苑内の3カ所しかありません。
どの観光地であっても、トイレの情報は通訳ガイドにとっては必須知識です。

最後の注意点は猿が出勤(公苑まで来ているか)しているかどうかです。
地獄谷野猿公苑の猿たちは野生の集団であり、毎日、野猿公苑にやってくるわけではなく、季節(特に秋など)によっては一日中、やってこないこともあるので、事前に情報を収集しておく必要があります。
幸いにも野猿公苑の公式SNSで、猿が公苑にいるのかどうかを毎日発表をしてくれるので訪問する際にはフォローしておくことをおすすめします。

入園する際には、お客様に対して、ここの猿たちはあくまで野生の猿であり、野猿公苑はその猿の生態を観察する場所であること、猿に食べ物をあげたり、触ったり、脅かしたりしてはいけないという注意事項を、改めてお伝えすることも必要です。

猿に会えたお客様は歓喜!

さて3月にご案内したツアーですが、その日は土曜日ということもあり、行きの高速道路が混雑しており、長野市に着いた時には12:30を回っていました。
昼食をとって、そこからバスの乗降場である志賀高原ロマン美術館まで約1時間。
さらに野猿公苑まで約40分、最低でも30分は園内でお客様は過ごしたい……。
さまざまなことを考慮すると、遅くとも14:45には志賀高原ロマン美術館に到着したいわけです。
ということは13:45には昼食の場所を出発する必要があるという、かなりギリギリの行程になってしまいました。

このツアーでは、善光寺の参拝なども組み込まれている場合が多いのですが、行程の最重要ポイントは地獄谷野猿公苑ですから、昼食場所の到着前にエージェントに連絡をして、状況を説明、善光寺をスキップすることになりました。
もちろんお客様にはその場ですぐに詳しい状況を説明します。
This tour’s the most important priority is to see the Snow Monkey.
皆さんが猿を見られる可能性をできる限り高めたい、そのため善光寺はスキップするとお伝えしたところ、スムーズにご了承いただき、行程を進めることができました。

この日の地獄谷野猿公苑では猿が出勤して、しっかり温泉に浸かっていてくれました!
お客様は閉園まで滞在し、たくさんの写真を撮ることができました。
野猿公苑をめざして歩く道中、お客様は「こんな道を行くの〜?!」と息を少し切らしながら、疲れと期待が入り混じった表情をされます。
森の中を進んでいき、硫黄泉のにおいがしてくる頃にはかなり疲れが見えるのですが園内に一歩足を踏み入れて猿を間近で見た瞬間には満面の笑顔になる、そんな素晴らしい場所です。


地獄谷野猿公苑
https://jigokudani-yaenkoen.co.jp

福田  誠
福田 誠Makoto Fukuda

全国通訳案内士。2013年全国通訳案内士資格を取得後、通訳ガイドとして個人客から団体まで幅広く日本全国を案内し、通訳業務も含めて現在に至る。新人研修ほか各種の通訳ガイド関連研修の講師も務める。