第1回 クレイジーなキャラの魅力を出す! 『ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル』

アメコミ翻訳ならではの工夫を紹介!

皆さまはじめまして。私はアメリカン・コミックの翻訳をしてはや12年、翻訳した冊数は90冊以上に至る…というと大層な大御所かと思われがちですが、如何せん奥が深いのがアメリカン・コミックの世界。まだまだ駆け出しの心持で日々精進しております。
このコラムでは、毎回異なるアメコミ作品を取り上げて、特徴的・印象的な台詞や表現を紹介していこうと思います。

さて、私は発注がくると身構えるアメコミジャンルが3つほどあります。1つは科学や軍事などの専門知識が頻出する「アイアンマン」や「ファンタスティック・フォー」などの専門系ジャンル、2つ目は連載年数が長く、前後の流れを深く理解していないと翻訳に挑めない「アベンジャーズ」や「スーパーマン」などの大御所ジャンル、そして3つめが「ハーレイ・クイン」や「デッドプール」などの登場人物自体に一癖も二癖もあるクレイジーなキャラのジャンルです。
今回はその中でも3つめのジャンルから、拙訳『ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル』を取り上げていこうと思います。

『ハーレイ・クイン:ビッグ・トラブル』
カール・ケセル 著/テリー・ドッドソン 画/御代しおり 訳
ヴィレッジブックス(Webサイト
TM & © 2021 DC. All Rights Reserved.

ハーレイ・クインというと、もはや解説の必要もないほどのビッグネームかと思いますが、念のため彼女のプロフィールをご案内しましょう。彼女が誕生したのは1992年、バットマンの宿敵ジョーカーの情婦として、バットマンのアニメシリーズで登場します。登場回数を重ねるごとにみるみる人気を獲得した彼女はアニメからコミックに「逆輸入」される形で、DCコミックスの世界で活躍の場を広げます。

中でも、彼女の人気が爆発したのは2016年公開の映画「スーサイド・スクワッド」がきっかけではないでしょうか。キュートで小悪魔なキャラクター像と演じたマーゴット・ロビーの魅力が見事に融合して、一躍知名度も上がりました。

そんな彼女の性格はと言えば、悪の王子ジョーカー一筋の恋する乙女。しかし、恋愛というのは怖いもので、彼のためならどんな犯罪もやってのける恐ろしい悪女でもあります。

台詞に洒落や言葉遊びが満載

そんなハーレイ・クインの台詞の特徴はというと、とにかく洒落が多い!
これはジョーカーやデッドプール、スパイダーマンなども同じですが、癖のあるキャラクターの演出上行われるパターンだと推察しています。それというのも、日本語は少年なら「〜だぜ!」女性なら「〜なのよ」というように多くの役割語が存在しますが、英語はその辺りがフラットで、役割語でキャラを出すことができません。なので、通常ならもっと単純な言い回しで済むところを、すぐにおどけてみせるのだと思います。

そのあたりのキャラ作りは日本語でも反映させてあげたいところ。例えば“sounds like feast or famine”(いちかばちかみたい)という台詞を「波瀾の人生ってかんじ〜」と訳すのです。彼女の良くも悪くも「かる〜い」人間性を出すように心がけます。

また『ビッグ・トラブル』の中で彼女は自分のチーム名を“quinntets”と名付けますが、これはチームメンバーが全部で5人(quintet)なのと自分の名前(Harley Quinn)をかけているのでしょう。これは特に日本語訳せずに「クインテッツ」とそのまま載せましたが、こういったこだわりが彼女のコミックにはそこかしこにみられます。

また、アメコミの特殊性を表すものとして「オリジナルの武器」というものがあると思います。これに関してはハーレイ・クインより彼女の恋人ジョーカーがよく使いますが、結果的にハーレイも手にする事が多いです。

例えば“Cabana Kabooma”。これはコミックの絵柄とkaboon(爆発)から「ドッカン葉巻」という訳に。また“50.000 volt joy buzzer”はジョーカー好きにはお馴染みの武器で「5万ボルトのビリビリブザー」と訳します。このように定訳があるものもあれば、その場で訳を生み出すものもあり、後者はなかなか緊張感を伴うものの、実にやりがいのある瞬間です。

ほかの訳例も紹介!
〇癖のあるキャラを表す台詞(トゥーフェイスという「2」にこだわるキャラクターにハイタッチをねだる時)
Gimme five…gimme…gimme two!
⇒5本の指でハイタッチ! あ…両手でハイタッチしましょ

〇独特のネーミングセンス
freestyle boosting
⇒窃盗自由型

 

*『通訳・翻訳ジャーナル』2021年夏号より転載*