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季刊『通訳・翻訳ジャーナル』本誌で連載し、ご好評をいただいていた「通訳者のためのビジネス英語ドリル」がWeb版になって登場!
放送通訳者の柴原早苗さんがビジネス通訳の場面で役立つ表現を取り上げ、訳出のコツや関連フレーズなどを紹介します。
「可能」に関連した英語の表現
最近は自己啓発本がブームです。どのようにしたら効率的に仕事を進められるか、自己実現するにはどうすべきかなどが述べられています。私も英語学習などで行き詰まったり、時間の活用法が今一つになったりするとそうした本を読んでは元気をもらっています。
何事も「不可能」と思うと足踏みしてしまいますが、そうした本をきっかけに「必ずできる」とその「可能性」を信じると一歩が踏み出せるように思います。
今回は「可能」に関連した表現を見ていきましょう。
練習問題1 日→英 通訳してみよう!
1.私どもは新たな投資を行いたいと考えています。
2.そのためには事業に見合った融資が必要です。
3.資金がそろえば来年度に大幅な売上増が可能でしょう。
おそらくビジネス通訳の現場と思しき内容です。社内会議、あるいは取引先の銀行で融資を求めている場面かもしれません。通訳をする際、「どのような状況か」を把握したうえで的確な用語やデリバリーが求められます。堅い場面のときはきっちりしたフレーズを使う方が好感を抱けますよね。
まずは皆さんが訳文をノートなどに記入してみてください。
訳例1-1△
1.We think that we want to do a new investment.
2.In order to do that, it is necessary to have a loan which matches the project.
3.If the fund is prepared, it might be possible to have a huge increase in sales next year.
解説
1.残念ながら元の日本語文に引きずられています。英語は主語と動詞から成る言語ですので、we を主語にしたのは評価できます。ただ、全体として稚拙な印象がありますよね。want も単刀直入という感じです。
2.「そのためには」を冒頭で直訳しているのが分かります。通訳の際には機械翻訳の文章のようになってしまうと不自然さが出てしまいます。こなれた表現は何か、どうすればスッキリできるかを通訳者は常に考えねばなりません。たくさんの構文を通訳者自身がストックすることが日ごろの努力として求められます。上記の訳文は全体的に長々としてもいますね。
3.英語を口にする際、能動態か受動態かをあらかじめ考えることも大切です。英語では確かに受け身の文章がたくさんありますが、どうしても長くなってしまいます。また、説得力を増すという観点であれば、能動態の方が力強くなります。最後の next year は「来年」のことであり、原文の「来年度」とは異なります。正しくはfiscal year で、ここは間違いやすい個所です。
訳例1-2◎
1.
We’d like to make a new investment.
2.
Therefore, we need a loan to match the project.
3.
With the fund, we can drastically increase our sales in the next fiscal year.
解説
1.主語を we にしてかなりスッキリしているのが分かります。make an investment (投資をする)もこのまま覚えてしまいましょう。ちなみに話し言葉では we’d と略して we would をつなげていますが、メールやビジネスレター、報告書などの書き言葉では省略せずに書くのがフォーマルな方法です。また、数字も10以下であれば nine や four のように単語として綴るのが正式なスタイルです。
2.原文では「事業」とありますが、ここでは「計画」「プロジェクト」と通訳者が推測して project と訳しています。通訳において大切なのは、元の単語に引っ張られ過ぎず、あくまでも「話者の一番イイタイコト」を把握して、聞き手に通じやすいよう訳すことです。意訳が飛躍しすぎて「創作」してしまうのはいけませんが、ある程度の「編集作業」がかえって理解を促せるのであれば、そこは勇気を持って行う部分だと私は思います。
3.ここでは原文の「可能でしょう」をあえて we can と断定し、「可能」に相当する英単語は出てきません。TPO にもよりますが、たとえばこれが銀行融資をお願いする会議場面であれば、多少の大胆さを出したいというのが話者の本音とも言えます。話し手の主張を理解する上では、通訳者があらかじめ取り組むべき課題がたくさんあります。たとえば通訳業務の前にその企業について徹底的に調べること、話し手のプロフィールを把握しておくこと、事業計画を読んでおくことなどです。事前準備が当日の成功のカギを握ります。
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同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。