
通訳・翻訳の初仕事を得る方法はさまざまあるが、未経験者でもデビューの可能性が開けるのが「コンテスト」だ。特に、志望者が多く狭き門である出版翻訳においては、コンテストやオーディションからデビューを叶えた人も多い。コンテストがきっかけでデビューしたり、仕事が増えたりといった経験をした通訳者・翻訳者のリアルな声を紹介する。

つるた・ちか/大学在学中にアメリカの大学へ交換留学、帰国後は通訳学校に通う。大学卒業後、SEとしてソフトウェア開発会社に入社。その後、精密機器の研究施設でグループセクレタリ、大手自動車メーカーで社内通訳翻訳者(主に翻訳)として勤め、2010 年に契約満期でフリーランスに。現在は主にリモートで週5 ~ 8件稼働。
●受賞したコンテストと結果
JACI同時通訳グランプリ
第3回 社会人部門 準グランプリ
●主な翻訳の分野
自動車、IT、ビジネス、経営会議など
●翻訳者歴
約18年
客観的な評価を得られたことで
エージェントに応募する自信を得た
フリーランスの通訳者として稼働する鶴田千佳さんは、大学在学中に多文化共生の実態を学ぶためアメリカに留学し、帰国後は英語力を維持するために通訳学校に通っていた。
「まだ学生で、通訳の訓練が初めてだったのでまったく授業についていけませんでした。通訳の仕事には、言語能力だけでなく、広範な知識や経験、話を即時に理解して相手に伝わる形にまとめ直す能力が必要だということを知りました。打ちひしがれながらも心はとてもわくわくしていて、これこそ自分がつきたい職業だと思いました」
大学卒業後は、ソフトウェア開発会社のSE、精密機器の研究施設のグループセクレタリを経て、派遣の社内通訳翻訳者に。契約満了後に長女を妊娠したのがきっかけで、フリーランスの通訳者に転向した。フリーランスになってからの稼働は、週に2~3日程度だったという。
「当時、地方在住で育児中ということもあり、思うように仕事が受けられなかったのですが『通訳の仕事は、育児が終わったら本格的にやろう』と思っていました。ところが、転倒事故で頭蓋骨を骨折し、改めて自分の人生について考えると、『通訳の仕事において、挑戦しなければ後悔する』と感じるようになりました」
そんな時に、JACI(一般社団法人 日本会議通訳者協会)の同時通訳グランプリがコロナ禍でオンライン開催になるとの告知を目にし、思い切って参加することにした。
クライアントと通訳分野の幅が広がる
「初めてのオンライン開催ということで、一次選考では指定された手順で時間内に音源を提出できるようにシミュレーションをしました。また、コンテストのテーマが決まってからは、事前調査にかなり多くの時間を費やしました。最終選考でも、テーマについて事前に勉強し、準備をして臨んだので、あとは自分なりにベストを尽くすことに集中しました」
その結果、社会人部門で準グランプリを受賞。それまで自分自身で決めてしまった限界を突破するきっかけとなった。
「準グランプリという客観的な評価をいただけたことで、東京や海外のエージェントに応募する勇気を得ることができました。また、もともと仕事をしていたエージェントに受賞の報告をすると、とても喜んでもらい、オファーの数も増えたように思います。このようなプラスの動きが重なり、コロナ禍も次第に収まってきたこともあって、リモートの通訳案件の依頼が急増しました。案件数が増えると仕事の分野やクライアントの幅も広がり、『経験ある通訳者』という印象を、エージェントに与えられるようになりました」
現在は、ITやビジネス、自動車関係の仕事が多く、週に平均5~8件の通訳を担当している。
「リモートワークが可能になり、数年前までは考えられなかったライフワークバランスの取れた生活を送ることができています。まだ育児中なので、あと数年は家族を優先しながらになりますが、これからも通訳の仕事を続けたいと思っています。今後の目標は、継続して分野を広げていくこと、そして求められる通訳者になることです。知識と経験を増やして、クライアントに貢献できるような通訳者になれるよう精進します」
コンテストへの応募を考えている人へ📣
コンテストに挑戦することが、自分の実力を知るきっかけの一つになるのではないでしょうか。受賞してもしなくても、よい刺激になります。受賞できた場合は、ただの記念にしてしまうのはもったいないので、エージェントに登録する自信につなげたり、受賞したことを自分からアピールしたりと、うまく活用すると良いと思います。
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