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2023.10.04 UP

第3回  バスケットボールW杯に寄せて

第3回  バスケットボールW杯に寄せて

スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)

2022年女子バスケットボールW杯の思い出

プレッシャーと戦う選手たちと
ともに過ごした4カ月間

先日(2023年8月~9月)開催された男子バスケットボールのワールドカップが大いに盛り上がり、これまでお仕事でバスケに関わってきた身として、とても嬉しく感じました。
試合後の各選手のインタビューがたくさん報道され、その一言一言に重みを感じました。特に、比江島慎選手の言葉には考えさせられるものがありました。

パリオリンピックへ向けた選考がまた始まることについて彼は、「今は考えたくないです(笑)本当に疲れたし、ストレスもすごかった」と話していました。今回のワールドカップのメンバーが決まるまで、「毎日毎日、いつ落とされるか分からない中でストレスがすごかった」とも言っています。

* * * * *

2022年、私は女子バスケ日本代表チームにマネージャーとして帯同していました。女子バスケットボールは2022年の9月にオーストラリアでワールドカップが開催されました。そこに向けて、同年5月から合宿が始まりました。

最初の合宿では、ワールドカップに向けた日本代表候補選手が27名発表されました。しかし、ワールドカップに出場できる選手は12名のみです。ここから9月まで何度も合宿が行われ、最終メンバーの決定をします。

12名のメンバーに入れるかどうか、毎日の練習や合宿中の親善試合で判断されるのは、とんでもないストレスが選手にかかっていたと思います。

 


*2022年女子バスケットボールW杯のオープニングセレモニー

それぞれみんな、ワールドカップに出場したいという気持ちで毎日の合宿を頑張っていたはずです。ただその結果、無事に最終メンバーに選ばれた選手でも「自分が残れて良かった!」というような単純に嬉しい気持ちだけではなかったと思います。毎日一緒に練習をして、ミーティングをして、食事もして過ごしてきた仲間が途中で選考から外れるのは、見送る選手側も、悲しい気持ちや更なるプレッシャーなど、様々な気持ちを抱えていたでしょう。

私は、選手の数が減るたびに「自分自身はチームのために精一杯仕事ができているのか、役に立てているのか」と、自問自答していました。

多くの人の支えで
チームや大会は成り立っている

自分がチームに在籍していることや、ベンチに座って仕事ができることは“当たり前”ではありません。大会を迎えるまでに、とんでもなく多くの人たちが関わりあって試合の開催に至ります。

チームスタッフは「縁の下の力持ち」なんて言われたりしますが、私自身はこの言葉があまりピンときていません。競技を頑張る選手達がいて、試合の運営に携わってくださる沢山の方達がいて、遠征ではホテルの人やバス会社さんなど、挙げればキリがないほど多くの方々に助けて頂いてチームは活動しています。日本代表のお仕事でも、過去に在籍していたクラブでも同じです。
私自身は力持ちでもなんでもなく、むしろ、“一人では何も成し遂げることができない”と感じる事の方が多い日々でした。ですが、だからこそチームに関わったからには精一杯、通訳として自分の力を尽くしたいと、ワールドカップでの経験を通して気持ちを新たにしました。

パリオリンピックの出場を決めた男子バスケットボール代表の皆さん、本当におめでとうございます。ここからまた選手の選考や、ハードな合宿があると思うと、勝手ながら少し胸が締め付けられる気持ちにもなりますが、バスケットボールに関わる全ての皆さんが史上盛大に楽しめる大会となることを心より願っております。


*女子バスケットボールW杯の試合中のベンチの様子。左側でマスクをしているのが佐々木さん。

2022年にオーストラリアで開催された女子バスケットボールW杯にて、パーティで出てきたケーキ。

スポーツ用語&よく使う表現の訳し方

The results take care of themselves.
→結果はついてくる

スポーツチームのミーティングなどで、「自分たちのやるべきことをやれば、結果はついてくる」というフレーズをよく聞きます。「結果はついてくる」の表現はたくさんありますが、個人的に“かっこいい!”と思った表現のひとつがこちらです。

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佐々木真理絵
佐々木真理絵Marie Sasaki

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。