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2023.12.20 UP

第4回  どんな経験も役に立つ「通訳」というお仕事

第4回  どんな経験も役に立つ「通訳」というお仕事

スポーツ通訳者として、バレー、バスケ、スキーなどさまざまな競技の通訳を務める佐々木真理絵さんが、スポーツ通訳というお仕事の内容と、その現場で出会った印象的な出来事について紹介します。通訳をする上で欠かせない、スポーツ専門用語の解説も!
(※隔月更新予定)

チーム付き通訳者はまさに縁の下の力持ち!

外国籍選手の身の回りのサポートも

私はこれまで、バレーボールVリーグのパナソニックパンサーズ、そしてバスケットボールBリーグの京都ハンナリーズなどでチーム専属の通訳をしてきました。
“スポーツ通訳”といっても、様々なパターンがありますが、今回はチーム専属通訳の場合のお話を書かせていただきます。

パナソニックパンサーズ時代の様子。選手の要望に応えてオフの日に買い物などに連れていくこともしばしば。

チーム付き通訳というのは、練習中や試合中の通訳や、ミーティングなど、戦術に関わる部分を任されるというイメージがあると思います。しかしそれだけではなく、外国籍選手・コーチが心地よく日本で過ごせるように、私生活のサポートもお仕事に含まれます。

外国籍のメンバーが車を持っていない場合は、毎日自宅から体育館まで送り迎えをしていました。1日に何往復もすることもありましたが、この時間はとても貴重で、車内で今日の練習でお互いに感じたことや、プライベートの近況などを報告し合っていました。

夕食に「お寿司が食べたい」と言われたら、もちろんお店まで連れて行きます。
買い物にも付き合います。週1回は“コストコデー”があり、私の運転でコストコまで行き、生活に必要なものを一緒に揃えてあげていました。

楽しそうに聞こえるかもしれませんが、練習や試合の遠征をチームについて一緒にこなし、空いた時間はほとんど外国籍メンバーたちのサポートに時間を費やすという日々はかなりハードです。
夜中でも何かトラブルが起きて電話がかかってきたら対応しなければいけません。24時間体制で気が抜けないお仕事です。

また、選手たちの家族のサポートもしなければいけないので、お子さんが風邪を引いた時は病院まで連れて行ったり、薬を買いに行ったりもします。奥さんがネイルサロンに行きたいと言えば、そのお手伝いもしていました。

練習後に外国籍選手と一緒に訪れた寿司店にて。

あらゆる経験が役に立つ
通訳という仕事

そんなチーム付きの通訳として働いていたある日、こんなことがありました。
オフの日に、電気屋に出かけたアメリカ人選手から「店員さんに英語が通じないから訳してほしい」という電話がありました。新しいテレビを買いに行ったようで、製品の詳細を確認したいとのことでした。
私は電化製品の知識がなく、選手が欲しがっている商品がどんなものかイマイチ分からないまま、とりあえず店員さんに伝えました。
結局、欲しかった商品がお店に置いていなかったようで、本人は何も購入せずに帰ったようです。

ヘアサロンから電話がかかって来たこともありました。
美容師さんに「サイドは短めにしますか? もみあげはどうしますか? 髭のスタイルは?」などと質問され、本人へ通訳しました。しかし、そもそも男性のヘアスタイルについて全然理解のない私・・・、どこをどうしたいと聞かれても、全くイメージが沸かないので、ピンとこないままとりあえず訳しました。

「そんなの直訳すればいいだけでしょ? 何が難しいの?」
と思われがちですが、頭の中でイメージが上手くできないことや知識のないことは上手く言葉にできません。

もしも私の前職が電気屋さんの店員であれば、家電の知識があるため、選手の言っていることがスムーズにわかったかもしれません。
もしくは前職が美容師であれば、上手くヘアスタイルの希望を伝えてあげられたかもしれません。
日々どんな言葉に出会うかわからないため、過去のあらゆる経験が役に立つ可能性がある、それが通訳の仕事なのです。

私はスポーツ業界に入る前、英会話スクールの営業職をしていました。
毎日毎日、何人もの初対面のお客さんとお話をする仕事です。短い時間でお客さんのニーズを聞き取らなければいけないので、初対面の方とどうすれば仲良くなるかを考える日々でした。
通訳者を含め、スポーツ業界でお仕事をすると、たくさんの人に会ってご挨拶する機会が多いです。初めて会う人との会話が苦手ではなくなったのは、営業のときの経験があったからでした。

“若くないと新しい挑戦をするのは難しい”と感じる気持ちはとても分かります。
確かに、若くて元気で頑張ってくれる前向きな通訳を必要としているチームもあるでしょう。

ただ、社会経験があるからこそ、それまでに得た知識やスキルが通訳で役に立つ場面は必ず訪れます。

いざ通訳の仕事を始めたら、毎日が反省と勉強の日々です。
何歳になっても、どれだけキャリアを積んでもそれは変わりません。
「もう○○歳だけど、スポーツ通訳に挑戦してみたい!」という方も、
年齢がネガティブな数字ではなく、ポジティブな経験値となるように、一緒に頑張りましょう!

選手との買い出しの日に、コストコでランチタイム。

スポーツ用語&よく使う表現の訳し方

Actions over words
→言葉より行動

スポーツのチーム内で「言葉より行動」という表現はよく出てくるのではないでしょうか。通訳者は“言葉”を大切にする仕事ですが、チームメイトと信頼を築くには“行動”も大切ですよね。

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佐々木真理絵
佐々木真理絵Marie Sasaki

大学卒業後、一般企業への就職を経て、2013年 日本プロバスケットボールリーグチーム「大阪エヴェッサ」の通訳兼マネージャーとなる。バスケットボールチーム、バレーボールチームで経験を積みながら猛勉強し、現在はフリーランスのスポーツ通訳者として活動中。世界バレーなどの大会での通訳のほか、NCAAバレーボール日本遠征、日本の大学生チームの海外遠征、スキークロスFISカップ ヨーロッパ遠征などへの帯同も行う。