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2024.06.25 UP

第8回(最終回) オーバーツーリズム / Overtourism に関する英語表現

第8回(最終回) オーバーツーリズム / Overtourism に関する英語表現

長年にわたり国際会議での各国首脳の通訳をはじめ、国際訴訟・裁判、オリンピックなどで活躍されてきたベテラン通訳者の右田アンドリュー・ミーハンさんが、最新の時事ニュースや、エンタメ、スポーツ、カルチャーなど旬なトピックスに関する英語表現を解説。
知っているとビジネスや国際交流で役立つ&おもしろい! そんな英語の知識をお伝えします。

訪日旅行者が増える一方で、表面化している問題も

通訳・翻訳会社ミーハングループの右田アンドリュー・ミーハンです。本コラム「通訳者がレクチャー!最新ニュースで学ぶ英語表現」では、月に1度、ニュースやスポーツ、エンタメなど、その時々の旬な情報に関連した英語表現を紹介しています。

第8回目は「クッション言葉」そして「外国人 / Foreigner と言う言葉」をテーマに、最近メディアでも報道される事が多くなった オーバーツーリズム / Overtourism (観光がもたらす弊害・公害)について、英語表現も含めてご紹介したいと思います。

オーバーツーリズム / Overtourism

このところ日本でも、観光地に旅行客が押し寄せ、そこに住む人々の生活もままならない状況になる「オーバーツーリズム / Overtourism (観光がもたらす弊害・公害)」が、頻繁に報じられる様になりました。
最近ニュースで話題になった、富士山の見えるコンビニエンス・ストアの問題についてはBBCも紹介しています。


Japanese town blocks iconic Mount Fuji view to deter tourists(BBC News)

もちろん各自治体や関係機関は、ポスターやパンフレットを作成したり、呼びかけをしたりして注意喚起をしているようですが、全ての観光客にマナーやルールを知らしめるのは難しいですし、さらに、それらを完璧に守らせるのは不可能と言えるでしょう。

この様な Overtourism (観光がもたらす弊害・公害)は、海外を含む観光が気軽に出来るようになった=観光の大衆化 / mass tourism(マスツーリズム)により引き起こされた問題です。

[参考記事]
マスツーリズムとは?大衆観光の変遷から次世代の観光を解説(2021年11月30日 訪日ラボ)
https://honichi.com/news/2021/11/30/masstourism/ 

残念ながらこのような状況は、何も日本に限った事ではなく、世界各国の観光地で同じような問題が起きており、その対策に各国が頭を抱えています。

海外からの観光客の中には、事前に訪れる国の文化・日本の文化やマナー、ルールについて学び、理解した上で旅行に来る人もいますが、全ての人がそうだとは限りません。特に最近は、本来観光地ではなかった場所に観光客が集まり、地域住人の方々の迷惑になったり、問題が起きるケースも多発しています。

そのような場所には、海外観光客向けの注意喚起ポスターやパンフレットが無かったり、あったとしても文化や常識の違いから、そのようなマナーやルールの必要性や、守らなければいけない理由を理解できない人もいます。

そんな人たちが、日本の常識では考えられない行動をしていた場合、思わず何か言いたくなったり、注意したくなったりする人もいるでしょう。その際に思い出してほしいのが「クッション言葉」です。

「クッション言葉」とは

「クッション言葉」とは、ビジネスシーンにおいて、会話の前置き等に良く使われる言葉で、「ビジネス枕詞」と呼ばれたりもします。

特に、相手に依頼をしたり、逆に依頼を断ったり、言いにくい内容を伝える際に前置きとして添えると、「クッション」のように、相手への印象を和らげる言葉を指します。

[参考記事]
クッション言葉とは? 場面別の一覧や役立つシーン、例文、注意点を紹介 (2023/03/22 マイナビニュース)
https://news.mynavi.jp/article/20230322-2599290/

さて、日本語における「クッション言葉」的表現の英語版として、パっと思いつくものと言えば、丁寧な表現の代表例 “Please”でしょう。言葉の頭や最後に Please を付けることで、確かに印象が柔らかくなります。しかし多用し過ぎるとあまり良い印象を持たれない場合もあります。

*参考記事:“Please” の使い方について

“Any generic rule – like saying “please” and “thank you” – doesn’t take into account the specific situation, and may not always indicate respect or politeness,” said Andrew Chalfoun, a graduate student studying sociology and lead author of the study. “It may also not be very effective.”

Saying “please” could even be harmful in a given situation.

“In the wrong context, saying ‘please’ may run the risk of sounding pushy or dubious about another’s willingness to help,” Chalfoun said.

from the article “Beyond Politeness: Is “Please” a Politeness Marker or a Strategic Tool?” (May 18, 2024, Neuroscience News.com)
https://neurosciencenews.com/strategic-politeness-psychology-26134/

Please 以外の表現では、何かを尋ねるときなどに Excuse me / Sorry / Sorry to bother you / Sorry for interrupting you. 等の表現を使って「すみません / お邪魔してすみません」と伝える事があります。

Sorry は「謝罪の言葉」と日本では教えられる事が多いですが、「すみませんが…」的なニュアンスで、伝えたい言葉の前に添えて使うこともあります。また Do you have a moment? / Please give me a moment. / May I have a moment of your time? などの、「少しお時間を頂けますか?」という意味の相手を気遣う言葉を、本来伝えたい事(言葉)の前に添える場合もあります。

ちなみに Do you have time? とよく混同される Do you have the time? 「何時かわかりますか?」の丁寧な言い方です。これより婉曲(丁寧)な言い方としては Sorry, could you tell me the time please? もあります。これらの表現は、学校で習う What time is it now? よりも、ビジネスシーンや目上の人に聞く際には適しています。

また、その他のクッション言葉的な英語表現としては I would / if possible / I was wondering 等を使って、ソフトな言い方にする場合もあります。例えば以下のような使い方です。

I would be delighted if you were able to attend the event if at all possible.
可能ならば、イベントに参加頂けると嬉しいです

I would be so happy if we had the opportunity to meet again.
またお会いできる機会があれば嬉しいです。

I was wondering if you could give me a little bit of help.
もしよかったら、ちょっと手伝ってもらえませんか。

こういった I would / if possible / I was wondering または Could you と言った丁寧な表現・婉曲表現は、クッション言葉として英語ではよく使われます。(※もちろん言い方や文脈により、丁寧な表現であってもそう伝わらなくなる場合もありますから、その点は注意が必要です。)
以下の動画では、丁寧な英語表現の例を紹介しています。


Speaking: Being polite – how to soften your English(BBC Learning English)

いきなり要件だけを言うと問題が拗れることも…

何か不快な思いをした、または相手に何か注意をする場合、いきなり要件だけを言ったり、文句を言われたら相手も驚きますし、そもそもルールやマナーを理解していない人にしてみたら、「何を注意されているのか」を理解できず困惑したり、ときには攻撃的な態度に出る場合もあります。

相手が日本語を理解せず、こちらも相手の言語がわからない時には、翻訳アプリを使って意思疎通をする場合もありますが、そんなときでも伝えたい内容だけを翻訳するのではなく、クッション言葉を添えた、丁寧な言葉使いの日本語を翻訳する事をお勧めします。

例えば「すみません。子供が眠っているので少し静かにしてもらえませんか?」を、Google翻訳を使って英訳すると“Sorry. My child is sleeping, so could you please be a little quiet?”と最初にクッション言葉が付きます。あまりにも婉曲な表現だと誤訳が発生しやすくなりますから、その点は注意が必要ですが、丁寧かつシンプルな短い文章であれば、大抵の場合は問題無く訳せると思います。

もちろん、相手の行動や状況、または言語の問題などで、スムーズに会話が出来ない場合や、直接注意をするのが難しい場合もあるでしょう。そんなときは、速やかに公共機関(警察や施設関係者)に相談したり、専門家に頼ることも大事です。

異文化コミュニケーションでは、言語だけではなく、背後にある文化や常識の違いを踏まえて、こちらの意思や意図を伝えないと、拗れる場合があるので細心の注意が必要です。

「外国人」という言葉

訪日観光客のことを、「外国人」や「外国人観光客」などと言う場合があります。外国人という表現が意味するのは、日本ではない、外の(他の)国の人です。

外の国の人を意味する英語表現として、一般的に知られているのは“Foreigner”だと思いますが、実はForeigner には「よそ者」と言ったニュアンスもあり、あまり感じの良い表現とは言えません。

「地球以外の生命体」=異星人を指すことが多い Alien / エイリアンという言葉も、「性質の異なる」や「外国人」と言った意味があり、アメリカ合衆国法典では“Alien”「米国の市民権も国籍も持たない人物」と定義されていました。

とはいえ、この Alien と言う表現は、バイデン大統領が就任した2021年以降は、移民法が改正され“noncitizen”(非市民)と言う表記に改められています。また日本でも特に外交案件(官公庁案件)の場合は、Foreignerではなく“Non-Japanese(非・日本人)”と言うのが一般的になってきています。

その他、日本国籍を持たない人の英語表現としては、“a person or people from abroad, guest(s) in the country”等と言う事もあります。

観光客の場合は“Tourist”“Visitor”、海外からの観光客と言う場合は、国が複数の場合は Tourists / Visitors from overseas countriesOverseas Tourists / Visitors. 決まった国やエリアからの来訪者が多い場合は Tourists / Visitors from (国名やエリア名:例 Asia )と表現する事もあります。

意識や表現のアップデート

観光のために訪日する外国人も増えていますが、日本に在留する外国人も2023年12月末の時点で、およそ341万1000人と過去最多を記録しています。

[参考記事]
在留外国人 去年12月末時点で340万人超 過去最多に(2024年3月22日 NHK NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240322/k10014399281000.html 

彼らは、報道上は「外国人」と一括りに表現されていますが、さまざまな国の出身者であり、様々な文化や常識、宗教等を持つ人々です。日本に住んでいる理由も、またさまざまでしょう。つまり「外国人」と一括りにされがちな人々にも、多様な背景があるということです。

日常の中でも、いわゆる日本人とは異なる外見の人々を目にすることも、最近は多くなりました。しかしパッと見で、その人が観光客なのか、日本に住んでいる人なのか、はたまた両親のどちらかが日本以外の国にルーツを持つ人なのか、外国にルーツはあるけれど日本で生まれて育った人なのかは、分かりません。

そのような人々を、単に「外国人」と一括りにするのではなく、それぞれの背景を考慮しながら接していくことは、大切だと思います。

私は東京地裁にも通訳者・翻訳者として登録していますが、民事含め、文化や風習、考え方の違いが原因で起こる揉め事や、トラブルも増加傾向にあります。

[参考記事]
“人種など理由に繰り返し職務質問は差別” 外国出身3人が提訴(2024年1月29日 NHK NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240129/k10014339361000.html 

オーバーツーリズム / Overtourism の問題だけではなく、多文化共生・多様性社会の実現の為にも、異文化コミュニケーションをはじめとした、外国人を取り巻く状況に関する意識や表現のアップデートは、これからますます重要になると思います。ミーハングループも「言語だけに留まらない 文化・ビジネス・心の橋渡し」を合言葉に、異文化コミュニケーションを、通訳・翻訳と言う専門スキルを駆使し、サポートしてまいります。

 

コラム「最新ニュースで学ぶ英語表現」は今回で最終回となります。ご愛読いただき、ありがとうございました。
ミーハングループのWebサイトでは今回ご紹介したような、英語や言語、異文化、そして通訳や翻訳に関連した話題を紹介するブログも運営しております。ご興味のある方は、併せて読んで頂ければ幸いです。
https://meehanjapan.com/category/blog/ 

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右田アンドリュー・ミーハン
右田アンドリュー・ミーハンAndrew Migita-Meehan

株式会社ミーハングループ代表。米アリゾナ大学を卒業後、住友銀行ニューヨーク支店に入社。1994年より翻訳者・通訳者としての活動を開始。ニューヨーク、ワシントンDCで住商事件(1997-2001)、山一證券破綻事件(1998-1999)等、大型訴訟案件の通訳・翻訳を担当。2004年より日本を拠点とし、数多くの国際会議、国際訴訟・裁判、オリンピック等で通訳を務める。また翻訳者、スクール・大学院講師としても活躍中。
株式会社ミーハングループWebサイト:https://meehanjapan.com