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2025.12.29 UP

第21回 ゲーム・eスポーツ用語から派生した言葉

第21回 ゲーム・eスポーツ用語から派生した言葉

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)

その韓国語、ゲーム用語が由来かも?

この連載で二度にわたって書いた「eスポーツでよく使われる訳しにくい韓国語」(第16回第19回)が好評だったのもあり、今回はここからさらに踏み込んでeスポーツならではの用語をご紹介しようと考えていました。

ですが、ゲームやeスポーツから派生して一般に広く使われるようになった用語のほうを先にご紹介したいなと思い、テーマに若干のマイナーチェンジを加えております。幅広く使える言葉なので、韓国のeスポーツに興味を持っている皆さんはもちろん、韓国語学習者の方々も要チェックです!

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©2025 Riot Games. All Rights Reserved.

荷物とは関係がない「キャリーする」の意味を知ろう

・캐리하다 = キャリーする

英語のCarryが由来ではありますが、オンラインゲームで使われるようになった言葉で、チームゲームにおいて勝利に導くプレイのことを指します。日本のeスポーツ界でもよく使われる言葉なので、「○○선수가 캐리했어요(○○選手がキャリーしました)」のように直訳でOKです。もし意訳するなら「大活躍する」「勝利の立役者になる」などが良いでしょう。ちなみに大活躍には「대활약(大活躍)」、立役者には「일등공신(一等功臣)」という直訳もあります。

このキャリーするという表現が韓国では一般にも浸透し、リーダーシップをとって導くといった意味合いで使われるようになりました。ニュース記事でも「주연배우가 드라마를 캐리했다(主演俳優がドラマを”キャリーした”)」といったタイトルを見たことがあります。ですが日本では、よほど韓国文化に精通していないかぎり直訳だと通じないので「牽引した」、「成功させた」のように意訳する必要があるでしょう。

ちなみに「하드캐리(ハードキャリー)」という言い方もよく使われます。英語のHardが由来で、意味としては不利な状況や絶体絶命のピンチから救うといった、より強調したニュアンスになります。eスポーツではこちらも直訳でOK。一般の用語としてであれば、「大きく牽引した」とか「一番貢献した」のように強調して訳すと良さそうです。

日本ではあまりなじみのない外来語「アグロ」

・어그로를 끌다 = アグロを引く

語源は諸説ありますが、一般に英語のaggressiveから来ているとされています。オンラインゲームでは、『League of Legends(LoL)』のようなチームゲームで体力の高いキャラクターが敵の攻撃を自身に引きつけることで味方に攻撃がいかないようにするプレイを指します。eスポーツ界では「어그로를 잘 끌었네요(アグロをうまく引きましたね)」のようにそのまま直訳でも大丈夫ですが、心配なときは「フォーカスを集める」などの表現で意訳しましょう。

韓国ではここから派生して一般にも使われるようになったのですが、ゲームと違って主にネガティブなニュアンスで使われています。炎上や騒ぎを起こして注目を集めることを指し、例えば「釣りタイトル」は直訳の「낚시성 제목」のほかに「어그로를 끄는 제목(”アグロを引く”タイトル)」のようにも表現されます。韓国式の発音だと「オグロ」に近いので直訳時は気をつけたいところですが、一般の用法では直訳の「アグロ」も使えないのであまり気にする必要はないかもしれません。

ちなみにカードゲームでは、序盤からアグレッシブに攻める速攻タイプのデッキのことを「アグロ」と呼ぶので少し注意が必要です。『Magic The Gathering(MTG)』という物理カードゲームから生まれた言葉ですが、今ではオンラインカードゲームでも使われるためeスポーツの現場で聞く機会も増えています。

「Worlds 2025」決勝戦
『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会「Worlds 2025」決勝戦
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知らないと絶対に訳せない韓国語「カク」とは?

・각 = チャンス、タイミング

こちらは韓国語を語源とする言葉で、「각(カク)」のような発音になります。ビリヤードで打つときの「각도(角度)」を見ることが由来の用語です。これがオンラインゲームでは、「각을 보다(チャンスやタイミングをうかがう)」という意味で使われるようになりました。そこからさらに流行語として広まり、ゲーム以外にも色々な場面で使われています。

また、「~각(~カク)」という言い方もあります。例えばeスポーツタイトルによくある攻撃してキルを取るタイプのゲームでは、「キルチャンス」のことを「킬각(キルカク)」と言います。ちょっと特殊な例として、『PUBG』の「치킨각(チキンカク)」「1位(ドン勝)がとれるチャンス」という意味ですが、これがそのまま一般の用語として「チキンを食べるのにちょうどいいタイミング」という意味でも使われるようになりました。

ただし、ことeスポーツにおいて日本は韓国の影響をかなり受けているため、日本人プロゲーマーが「カク」という直訳をそのまま使っているのを何度か聞いたことがあったりします。もしかしたら日本にそのまま輸入されて定着する可能性もあるため、こういった新語は今後の動向を見守る必要があるでしょう。

さて、今回は以上となります。今後もeスポーツに関連する用語のご紹介や海外取材や通訳の現場のレポートをしていきたいと思っておりますので、また次回お楽しみに。

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。