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2025.06.04 UP

第16回 eスポーツでよく使われる訳しにくい韓国語

第16回 eスポーツでよく使われる訳しにくい韓国語

韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末~翌月初旬ごろ更新)

直訳はラクだけど、もう一度考えてみませんか?

今回は久しぶりに、通訳者・翻訳者をめざす韓国語学習者向けの内容です。

eスポーツでよく使われる韓国語のなかで、ちょっと訳しにくいなと思う用語をご紹介します。とは言ってもここでは一般のスポーツなど、競技全般に共通する用語に絞っています。eスポーツならではの専門用語もたくさんあるのですが、今回は除外しました。

私個人の感覚で訳しているものもあるので、これを機会に皆さんにも良い訳を一緒に考えてもらえたら幸いです。

『League of Legends』の国際大会「First Stand」決勝戦
2025年3月に韓国で開催された『League of Legends』の国際大会「First Stand」決勝戦の模様
©2025 Riot Games. All Rights Reserved.

直訳でもいいけれど、より自然な言い回しがある言葉

・경기(競技)→「試合」
まずひとつ目はこちらです。よく使われるのが「오늘 경기는 굉장히 중요해요(今日の競技は非常に重要です)」「경기 내용에 대해서 여쭤 보겠습니다(競技内容についてお伺いします)」などの言い回し。日本語の文脈的には「試合」と訳すほうが自然な場合が多いです。一応「試合」の韓国語の直訳として「시합」という言い方もあるにはあるのですが、あまり使われません。

・경기장(競技場)→「試合会場」
上記に派生してこちらも良く使われます。この場合、「서울 월드컵 경기장(ソウルワールドカップ競技場)」のように固有名詞であれば直訳がベストかと思います。日本語でも「国立競技場」とか「○○陸上競技場」とかいろいろありますよね。ただ、韓国語だと「온라인 보다 경기장이 더 긴장돼요(オンラインより競技場のほうが緊張します)」のような使われ方が多いため、この場合は「試合会場」と訳したほうが日本語としては自然だと思います。

・현장(現場)→「会場」
試合会場を指す韓国語と言えばこれもあります。じつは日本語でも「オタク用語」として似た使われ方があるのですが、一般的には事件や事故の現場の印象を持つ人が多いと思います。工事現場や建設現場などを思い浮かべる人もいるかもしれません。「현장에서 응원해주신 팬분들 정말 감사합니다(現場で応援してくれたファンの皆さん本当にありがとうございました)」などの文脈であれば、やっぱり「会場」と訳すのが良いでしょう。
ちなみに「会場」の韓国語の直訳で「회장」という言い方も一応ありますが、使用頻度は低いです。「회장」と聞くと同音異義語の「会長」が先に頭に浮かぶのも、「会場」の意味ではあまり使われない理由かもしれません。

直訳するとぼんやり曖昧になってしまう言葉

・경기력(競技力)→「パフォーマンス」「調子」
こちらは韓国語で非常によく使われている表現です。「안좋은 경기력을 보여드려서 죄송해요(良くない競技力をお見せしてしまってすみません)」とか 「요즘 경기력이 올라간 것 같아요(最近競技力が上がっていると思います)」のように使われます。
「競技力」をネットで調べてみたところ、日本語でも一応直訳の表現があるようなのですがあまりピンときませんでした。競技をするための力という感じで、日本語の場合は種目ごとに訳が変わってきそうですね。eスポーツの場合は、「パフォーマンス」がしっくりきます。困ったときの外来語です。どうしても日本固有の言葉にするなら「調子」あたりでしょうか。

・기본기(基本技)→「基礎」「基礎力」「基本的なスキル」
これも韓国語でかなり広範囲に使用されている言い方です。「기본기가 탄탄한 선수입니다(基本技がしっかりした選手です)」のような表現や「기본기 중심으로 연습했어요(基本技を中心に練習しました)」といった言い回しがeスポーツではよく出てきます。日本語に直訳するとしたらそもそも「きほんぎ」なのか「きほんわざ」なのかすら迷ってしまうほど、一般的な言葉ではないですよね。これは文脈に合わせて「基礎」「基礎力」あたりの訳が妥当かなと思います。「基本的なスキル」のように説明してしまっても良いかと思います。

直訳すると誤解される可能性がある言葉

・각오(覚悟)→「意気込み」
インタビューの締めくくりなどでよく使われる言葉です。「다음 경기에 대한 각오 한마디 부탁드립니다(次の試合に向けて覚悟をひとことお願いします)」のように直訳してしまうと、ちょっと物々しい雰囲気になってしまう気がします。もちろん「負けたら引退します」など人生の覚悟を決めたような答えが返ってくる可能性もゼロではありませんが、「頑張ります」ぐらいの軽めの返しでも問題ないというニュアンスを出したいところ。これは日本語でも韓国語でも決まり文句なので「意気込み」を対訳としてまるっと暗記してしまいましょう。

・직관(直観)→「会場で直接観戦すること」
これは辞書には出ていないかもしれない新しめの言葉という認識です。「많은 분들이 직관하러 오셨습니다(大勢の方々が直観しに来ています)」のような感じで使われるので、直訳自体がもう変ですよね。「直接観戦」とするか「会場で観戦」などにすると誤解がなくわかりやすいです。ちなみに韓国語にも日本語と同じく「直観=感覚的に物事をとらえること」という意味もきちんとあります。どちらの意味かは文脈で判断します。

 

今回は以上になります。紹介しきれなかった言葉もまだまだあるので、またの機会にご紹介できればと考えています。次回はパイオニアになることについて、eスポーツ黎明期の活動を振り返りつつ私なりに紐解いていきたいと思います。

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スイニャン
スイニャン韓日通訳者・ゲーム(eスポーツ)ライター

留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。