韓国でeスポーツに魅了され、ライターとして取材・執筆活動を行うほか、eスポーツ関連の韓日通訳者・翻訳者としても活躍されているスイニャンさん。韓国と日本のeスポーツ業界の状況と、まだ専門とする人が少ないeスポーツの通訳・翻訳の仕事について語っていただきます!
(*毎月末ごろ更新)
通訳もできるインタビュアーへのステップアップ
今回は急きょ予定を変更して「eスポーツ通訳奮闘記」という連載名にピッタリな、私が今まさに奮闘中の通訳のお仕事について語っていきたいと思います。
まずは、私がこれまでどのような形で通訳のお仕事をしてきたのかをご紹介してから本題に入っていくことにします。
LoLの国内プロリーグにおける通訳形式の変遷
私は『League of Legends(以下LoL)』の国内プロリーグ「LJL」の公式日韓通訳のお仕事を2017年から継続して担当しています。LoLのほとんどの国内チームには2~3名の韓国人選手またはコーチが在籍しており、試合の勝利インタビュー時に通訳が必要となる場合が多いです。野球やサッカーのプロチームにいる助っ人外国人のヒーローインタビューを思い出してもらえれば、理解が早いかと思います。
2017年当初はスタジオで選手の隣に立って通訳として出演という形からスタートし、有観客で試合が行われるようになってからは、ステージに立ってお客さんの前で通訳をしました。このころは日本人視聴者向けということもあり、時間短縮のため質問部分はウィスパリングで韓国語通訳を行ない、マイクを通すのは選手の答えを伝える日本語通訳の部分のみでした。
ところがコロナ禍の影響により、無観客を経てついに大会自体がすべてオンラインで開かれるようになったのです。選手たちは各チームのゲーミングハウスで試合を行ない、インタビュアーはスタジオから中継をつないでインタビューを実施。当然、通訳も遠隔で実施せざるを得ない状況となり、日本語と韓国語を交互に話す逐次通訳へと変更。また、このときから通訳の出演方式も声の出演のみに変わり、この形式が今年2024年の「Spring Split」(春の国際大会への出場権をかけた国内大会)まで続きました。
アジア圏のスタンダードは「インタビュアー兼通訳」
そして2024年6月上旬に開幕した「Summer Split」(夏季国内リーグ戦)で、私はひとつの転機を迎えました。
そもそも今年からリーグのフォーマットや運営方法が変更となり、もともとひとつの独立した地域だった日本が「Pacific Championship Series (PCS)」の一員として組み込まれることとなりました。そのPCSの運営をしているのが台湾の会社であるため、日本もそちらの管轄となったという背景があります。
これによってLJLはほぼすべての面でガラリと変化を遂げることとなったのですが、視聴者の皆さんにもわかりやすかった変化が、インタビュアーでした。今まではインタビューを担当する方が別にいたのですが、今年の「Spring Split」からは実況解説陣が直接インタビューを実施していました。しかしこれでは彼らの負担が大きすぎるということで、「Summer Split」から、通訳者の私がインタビューを担当することとなったのです。
*上のインタビューはこちらの動画の2:26:40から見られます!
LJL 2024 Summer Split Day 1 | SG vs AXC – SHG vs V3 – BCT vs DFM(LoL Esports JP)
https://www.youtube.com/live/wUbVd7KeTtM?t=8798
この変更に伴い、それまで声の出演のみだった私が久しぶりに画面に登場しただけでなく、突如インタビュアーとなり進行と同時に通訳まで行なうということで、そういった場面を見慣れない視聴者の皆さんにとっては、非常に大きな変化と捉えられたようです。しかしこの変更は、PSC側にとってはさほど大きなものではなかったと考えられます。
というのも、PSCではすでにPatty Yuさんという方がインタビュアー兼中英通訳として出演していたからです。さらにLoLの強豪国・韓国で現在インタビュアー兼韓英通訳として活動しているJeesun Parkさんはこの業界では非常に有名ですし、先月中国で開催された「MSI 2024」では、インタビュアー兼中英通訳をやっているIrisさんという方が中韓通訳も完璧にこなしたことで話題となりました。
それ以外にも過去に担当していた方や別のゲームタイトルで活躍中の方々もおり、少なくともアジア圏ではもはや、「通訳者がインタビュアーも務める」という形がスタンダードですらあるのです。PCS側が私に担当させようと考えるのも、当然の流れではありました。
個人的な一番の課題はリテンション(短期記憶)
とはいえ、やはり日本ではインタビュアー兼通訳という形にはなじみがなく、当然私にとっても初めてのチャレンジとなります。インタビュー内容は今年から私と実況解説の皆さんで一緒に考えていたのですが、日本語での台本読みや時間調整などは今までにやったことがなく、まだまだ試行錯誤中です。カメラ目線を意識することもなかなか慣れないですが、徐々にスムーズにできるようになってきたのでこの調子で精進したいと思います。
また、通訳の部分では正しい発音の外国語で相手にわかりやすく質問内容を伝える能力と、外国語の聞き取り能力、そしてその内容を記憶してわかりやすく訳して伝える能力が必要になってくるかと思いますが、インタビュアーと並行する際に問題となるのがリテンション(短期記憶)です。個人的にはこれが苦手で今もメモを取る形でその部分を補ってきておりますが、今はメモなしでできる部分を少しでもいいから増やせるようにしていこうとまさに奮闘中なのです。
以上、今回は予定を変更して私の現在のお仕事について書かせていただきました。通訳のお仕事に興味を持っている読者の方はもちろん、リーグ形式の変更によってLoLコミュニティの皆さんの間で様々な憶測が飛び交うなか、私はこのお仕事に前向きな気持ちでチャレンジしているということを知っていただければ幸いです。
【eスポーツ大会情報】
スイニャンさんが通訳兼インタビュアーを務めている「LJL 2024 Summer Split」は
6月29日(土)~28日(日)、また7月13日(土)~7月28日(日)の毎週土日に試合が開催中!
以下の公式チャンネルで無料で視聴可能です。
Twitch:https://www.twitch.tv/riotgamesjp
YouTube:https://www.youtube.com/@LoLeSportsJP
★スイニャンさんの連載一覧はこちら!
留学を含めた5年間の韓国在住時にeスポーツと出会い、『StarCraft』プロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2008年から「スイニャン」のペンネームで取材・執筆活動を開始。2017年からは『League of Legends』の国内プロリーグ「LJL」で韓国人選手のインタビュー通訳としてネット配信の生放送に出演。近年は『VALORANT』や『PUBG』などのeスポーツ大会でも通訳をこなしている。ただし自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ「観戦勢」。