《特別企画》 日本通訳翻訳フォーラム2020 Special Report①
一般社団法人 日本会議通訳者協会(JACI)は毎夏、過去5回にわたり通訳者向けのイベントである「日本通訳フォーラム」を主催しています。今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、また、通訳・翻訳業界全体を元気づけるため、「日本通訳翻訳フォーラム」と名前を変えて8月1日から31日の1か月にわたり、完全オンラインで開催。合計50以上の通訳・翻訳関連のセッションが企画されています。オンラインでのこの規模の通訳・翻訳関連イベントは過去にはなく、“日本初”といえる取り組みです。
そのセッションの様子を、一部リポートいたします!
日本通訳翻訳フォーラムについて
https://www.japan-interpreters.org/news/forum2020-program/
8月11日(火)19:00~
クリス・ダーバン
「プレミアム市場で活躍する翻訳者・通訳者になるには」

セッションの情報はこちら↓
https://www.japan-interpreters.org/news/forum2020-durban/
講演者のクリス・ダーバン氏は米国出身で、フランスでビジネス向けの仏英/英仏翻訳を行うベテラン翻訳者。
ダーバン氏が取引をするクライアントは、コストの安さよりも翻訳の質を求めており、また高品質な翻訳に対して相応の対価を支払う予算のある企業・団体が多いという。セッションは英語で、JACI会員の通訳者による同時通訳が行われた。
「良いクライアント」と出会うためには
機械翻訳の急伸で、世界的に翻訳のコストダウンへのプレッシャーが増している中、新型コロナの流行による経済へのダメージがあり、翻訳市場は今後、より厳しい状況になるだろう。そんな中で、翻訳の価値を認識し、翻訳に対してしっかりと予算を確保するクライアントと出会うにはどうすれば良いのか。ダーバン氏はそのような顧客がいるハイエンドマーケットを「プレミアム市場」とし、そこで活躍する翻訳者となるために必要なことを解説した。

まず、「TranslatorLand」と「ClientLand」という例えを使い、「ClientLand」、つまりクライアントのコミュニティに積極的に入っていく翻訳者が少ないことを指摘。
“While bulk-market translatos’ heads are buried in dictionaries, premium market translators buried in their client’s head.”(低価格市場の翻訳者が辞書にかじりついている間、プレミアム市場の翻訳者はクライアントの頭の中を覗き込んでいる。 ※bulk-market=低価格市場)という、著名な露英翻訳者の言葉も紹介し、翻訳者同士で交流するだけではなく、クライアントが何を考え、何を欲しているのかを理解しなくてはならないと強調した。
たとえば、自分の専門分野の企業や団体が参加する会議に出席し、そこでクライアントになりそうな企業・団体に名刺を渡して挨拶するなど、実際に対面して話をし、相手の印象に残るようにする。このような活動をすれば、業界の情報を得ることができ、クライアントに自分の存在を知らせることもできる。
「どんな価値を提供できるか」が問われる
また、フリーランス翻訳者が生き残るためには、専門分野を作ることと、翻訳の質を向上させることが欠かせないと解説。クオリティの低い翻訳があふれており、クライアントが高品質な翻訳を得るために苦労しているというフランスの現状を紹介し、専門分野を持つ腕の確かな翻訳者の需要は高いと語った。
翻訳の品質を向上させるためには、自分の翻訳を他の優れた翻訳者のものと比較するなど、客観的に評価する目がなくてはならない。また、ただ内容を訳すだけではなく、クライアントがどんな意図でその文章を書いたのか、言葉の裏の意図を伝えるような、機械翻訳ではできない翻訳をめざす必要があるとした。
プレミアム市場では、価格の安さよりも、「自分がどのような価値を提供できるのか」が重要となる。高品質な翻訳を提供する能力を身につけ、また、積極的にクライアントへ自分が何をできるのかをアピールすることが、翻訳の価値を認識し、質の高い翻訳を求める「良いクライアント」と出会う道となる。
セッションの最後には、参加者からチャットで多くの質問が寄せられ、活発な質疑応答が行われた。フリーランスの通訳者・翻訳者にとって、今後仕事を続けていくための戦略を考える上で、大いに参考になるセッションとなったのではないだろうか。
日本会議通訳者協会(JACI)のWebサイトはこちら https://www.japan-interpreters.org/