グループ全体で連携し「仕事につながる」クラスを開講
双方向で多面的な授業スタイルが学習効果を高める

キャリアにつながる高い翻訳スキルを養成し、優秀なプロを多数輩出しているアイ・エス・エス・インスティテュート。「総合翻訳科」「ビジネス英訳科」「専門別翻訳科」は、英語実務翻訳者に必要な能力とスキルを体系的に養成する実践的なコースだ。全クラスの授業動画を受講生向けに配信するなど、受講しやすい環境が整う。グループ会社の㈱翻訳センターのサポートにより、修了生にプロデビューの機会を提供している。

訪問クラス 「英語翻訳者養成コースビジネス英訳科・本科」

マーケティング文書には訴求力・説得力が必要

ビジネス英訳科・本科は、ニーズが拡大し続けるビジネス文書の英訳スキルを高めるための講座だ。各専門分野に精通した現役のプロ翻訳者が分担して授業を行い、ビジネス一般、IR、技術、マーケティングなど多彩な分野の翻訳課題に取り組むことで、「通じる英訳」から「商品としての英訳」へ移行することを目標とする。見学したのは岩木貴子先生が担当するマーケティング翻訳の初回の授業。Zoomを利用した双方向型オンラインクラスが始まった。

授業冒頭、岩木先生が説明したのは、マーケティング文書の特徴だ。他のビジネス文書と違い、広告文の読者は不特定多数の一般人であることが多く、必ずしも「読もう」という意思を持っているわけではない。そのため、広告文には、興味のない人にも読んでもらえるような訴求力・説得力が必要なのだという。岩木先生は、「マーケティング翻訳では、原文の意味を理解し、書き手の意図を読み取ることに加えて、クライアントのねらいを別の言語で効果的に表現することが求められます。ただ単に言葉を訳すのではないということを覚えておいてください」と強調し、マーケティング翻訳のポイントを示した。

今回の課題文は、調理用品メーカーの製品情報だ。和のものを扱った日本的な文章だけに、文化的な面も含めて訳さなければならず、その点でかなり訳しづらい課題文だといえる。受講生はあらかじめ訳文を提出しており、授業開始前に全員分の添削済み訳文と岩木先生の訳例を受け取っている。岩木先生は、一人ひとりの訳文を講評しながら、複数の受講生に共通して見られる誤訳や改善点について特に丁寧に解説していく。

「日本料理の文化を支える多様なラインナップ」という見出しには、〈Great line-up to support culture of Japanese cuisine〉〈Various line-up supporting Japanese cuisine culture〉など、「支える」を〈support〉と訳した人が多かった。岩木先生はこれらの訳文に対し、「支える= supportと安易に訳さないようにしましょう。この文脈だったら、例えばembodyを使ってみてはどうでしょう」と提案し、〈Diverse product portfolio that embodies the culture of Japanese cuisine〉の訳例を示した。

原文の字面から離れて意味を訳す

支える= support が典型的な例だが、学習者が訳文を作るとき、辞書にある一番目の単語を訳語として使ってしまうことはよくある。岩木先生は、「樹脂製桂を配した構造を引き続き採用しました」の原文を〈continued to adopt a polypropylene resin collar〉と英訳した一例を挙げ、「ここでは『採用する』に〈adopt〉を使うとしっくりきませんね」とコメント。辞書に収載されているadoptの用法を画面で共有し、用法の一つひとつを確認しながら、「採用する= adopt というように言葉を変換するのではなく、原文の意味を捉えて訳すようにしましょう」と注意を促す。ちなみに岩木先生の訳例では、〈using resin ferrule like the standard model〉とシンプルにuse が使われている。「原文の字面から離れて、意味を訳す」ということがどういうことなのか、受講生は「支える≠support」「採用する≠adopt」の2例で実感し、納得したようだった。

日本的な価値観を表した「奥ゆかしい」という言葉もまた、受講生の頭を悩ませたらしい。原文「日本料理の奥ゆかしさや繊細さ」に対しては、複数の受講生が〈The depth and delicacy of Japanese cooking〉のように〈depth〉を用いて訳していた。この訳語選択について岩木先生は、「一つの訳文として完成しているので悪くはありませんが、書き手がなぜここで『奥ゆかしい』という言葉を選んだのか、言葉のイメージをもう一度考えてみましょう」と投げかける。その後、画面共有して「奥ゆかしい」の辞書上の語義、一般的なイメージを確認し、さらに話は「奥ゆかしい」の反対語に及ぶ。「反対語を想像すると、書き手が言いたいことが見えてきます。ここでは『下品』『派手』などが反対語に相当しますから、訳文には〈elegant〉や〈profound〉などを使ってみてもいいですね」と続け、反対語を想像して言葉のイメージをつかむというテクニックを披露していた。

この後もポイントを押さえた解説が続き、2時間の授業が終了。現役プロから直接指導を受けた受講生は、マーケティング翻訳がどんなものか、初回の授業で確かな手応えをつかんだようだった。

講師コメント

英語翻訳者養成コース
ビジネス英訳科・本科
岩木貴子先生

早稲田大学文学部卒業後、ダブリン大学文学部で4年間、英文学を修める。帰国後、通信および通学で実務翻訳・出版翻訳を学び、トライアルや翻訳オーディションを経てフリーランスの翻訳者に。書籍およびマーケティング分野を中心に日英・英日翻訳者として活躍している。

仕事に臨むような緊張感を持ちつつ訳文づくりでは冒険をしてください

ビジネス英訳科・本科では、即戦力となる英訳者を育てることを念頭に、「商品としての訳文」を作るための翻訳スキルを学びます。私が担当するマーケティング分野は、翻訳ニーズの高いプレスリリースやウェブサイト、ブログ記事などから教材を選んでいます。典型的なマーケティング文書であり、かつ訳しづらい文章を取り上げていきますので、課題に取り組むなかでマーケティング翻訳の特徴や難しさにふれ、訳文の品質に高みや深みを加えるにはどうすればいいかということを学んでいただきたいと思います。

マーケティング翻訳の場合、消費者の心に響く広告文にするために、大胆な意訳が好まれる傾向があります。ですが、実際の仕事になると、どこまで意訳していいのかさじ加減がわからず、無難な訳に収めてしまいがちです。スクールで学んでいる間は、仕事に臨むような緊張感を持ちつつも、訳文に関してはどんどん冒険をして、効果的で魅力のある広告文とはどういうものかを探る機会にしてください。それができるのがスクールで学ぶ利点でもあります。

私自身は英訳・和訳の両方を手がけていますが、和訳に比べて英訳ができる日本人翻訳者が少ないので、英訳に対応することで仕事のチャンスが広がったと実感しています。それに、何といっても英訳は楽しいです。原文から離れてある程度自由に訳文が作れるという意味で、翻訳者の腕が試されますし、翻訳の醍醐味を存分に味わうことができます。「原文の言葉を訳すのではなく意味を訳す」という原則はマーケティング翻訳にも通じるところがあり、これをダイレクトに感じられるのが英訳です。翻訳学習者のみならず、和訳翻訳者にも英訳の学習はお勧めです。