プロ通訳者に必要な能力とスキルを体系的に養成
ISSグループのトータルキャリアサポートも

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1966年に日本初の同時通訳者養成スクールとして設立された伝統校。「英語通訳者養成コース」は8段階のレベルに分かれており、実力と目的に応じたクラスを受講しながら着実にスキルアップが図れる構成になっている。在校生・修了生にOJTや仕事の機会を提供するなど、ISSグループ全体で受講生のキャリアアップをサポートしている。

訪問クラス 英語通訳者養成コース「本科3」

単語の意味を理解して覚え使える語彙を増やす

英語通訳者養成コース「本科3」は、基礎的な通訳訓練を修了した人を対象に、発展的な訓練を行い、プロ通訳者として稼働するために必要な逐次通訳の土台を固めるクラス。今回は、放送通訳者としても活躍中の柴原智幸先生による授業をレポートする。

「皆さん、お立ちください」の掛け声で全員起立。冒頭の単語テストは、柴原先生が英単語を読み上げ、受講生がその訳語を答えるという形でテンポよく進む。答えられた人は着席でき、答えられなかった人は次の順番が回ってくるまで起立したままだ。

この日のテスト範囲は「医療・健康」分野で、単語表には専門的な難しい用語がズラリと並んでいる。しかも、柴原先生の単語テストはただの一問一答ではない。prognosis に対して「予後」と答えた受講生に、間髪入れず「反対語は?」と質問が続く。

「prognosisを暗記するだけで終わらせないで、反対語のdiagnosisとも意味をつなげて覚えること。意味がわかっていないと、訳出にも説得力が生まれません」と、単語テストをきっかけに、いかに使える語彙を増やしていくかのアドバイスがある。

attention deficit hyperactivity disorder の日本語の病名は「注意欠陥多動性障害」だが、数人の受講生が正確に答えられなかった。これに対して柴原先生は、「ADHDやAIDSなどの正式な病名は、即座に出てこないかもしれないが、一度は正確に覚えよう」と促す。また、折にふれ欧州の医療事情や宗教、文化的背景についての解説があり、デリバリーに関する指導もある。単語テストに費やした時間は40分に及び、単なるウォーミングアップにとどまらない、濃密で学ぶことの多いテストだった。

意味的等価を念頭に聞き手に伝わる訳を目指す

続いて授業は、前回教材「The Demise of INF Treaty」の復習に移る。この教材は、トランプ米政権がINF全廃条約から離脱表明したという内容を5分程度のスピーチにまとめたもので、受講生は各自、あらかじめ配布された音声を基に自宅で逐次の訳出練習をしてきている。柴原先生の「暗記のテストではないので、その場でメモを取り、聞き手を意識して訳出しよう」との投げ掛けを受け、一斉に逐次通訳の吹き込みが始まった。

2~3センテンスに区切られた音声を聴き、“聞き手に伝わる”訳出を心がける受講生たち。復習教材とはいえ、人名や兵器などの固有名詞や専門用語が頻出するため、メモを取るのも難しそうだ。

15分程度かけて吹き込みが終わると、柴原先生から講評とフィードバックがある。初めに、東西冷戦時代の核兵器拡大や、その後の核軍縮の流れなどについて解説があり、次いで受講生一人ひとりの訳出についてコメントがなされた。
 
「スピーカーが『モスクワは……』『ワシントンの……』と言っているところは、『ロシアは……』『アメリカの……』と言い換えて訳す」「『自国』という訳語は、話し言葉ではわかりにくいので避けたほうがいい。通訳は“話し言葉”だということを常に意識すること」「if Russia reverses course and returns to compliance, …は、『180度方針を変えれば』などとかなり強めの意味を込めて訳してもいい」など、訳出の際の注意点から訳語の選択の仕方まで、実践的できめ細かな指導がある。

受講生からは、「howeverやon the other hand などの接続詞がなくても、『一方で』と入れたほうがわかりやすい場合は、加えて訳してもいいのか」などの質問が寄せられる。柴原先生は、「形式的等価」「意味的等価」という翻訳の等価理論を紹介した上で、「通訳者は積極的にコミュニケーションに関わるべき。話し手の意図が聞き手によく伝わるよう、意味的等価を大事にしてはどうか」と、通訳に臨む際の姿勢にも言及してアドバイスをしていた。

その後、初見教材の「Ebola Outbreak in Congo」の吹き込みをして、この日の授業は終了した。通訳技術のスキルアップと背景知識の習得には、並々ならぬ努力が必要と実感した2時間15分。現役通訳者であり教育者でもある柴原先生の授業は、楽しさと厳しさが共存する、活気に満ちた内容だった。

講師コメント

英語通訳者養成コース 「本科3」 柴原智幸先生 しばはら・ともゆき 上智大学外国語学部英語学科卒業。英国University of Bath大学大学院通訳翻訳コース修了。BBC放送通訳者を経て、2011年より2017年までNHKラジオ講座「攻略! 英語リスニング」講師。現在は、大学講師、NHK放送通訳者・映像翻訳者として活躍中。

英語通訳者養成コース
「本科3」
柴原智幸先生
しばはら・ともゆき

上智大学外国語学部英語学科卒業。英国University of Bath大学大学院通訳翻訳コース修了。BBC放送通訳者を経て、2011年より2017年までNHKラジオ講座「攻略! 英語リスニング」講師。現在は、大学講師、NHK放送通訳者・映像翻訳者として活躍中。

教室をパフォーマンスとその軌道修正の場と捉えベストの状態で臨みましょう
 
私が担当する「本科3」の英日授業では、特に復習教材に力を入れて指導をしています。というのも、初見での通訳力をつけるには、まずは復習に徹底的に取り組むことで長所を伸ばし、弱点を克服することが大切だからです。教室は、パフォーマンスとその軌道修正の場です。できることはすべて事前に準備するという意識を持ち、自宅で単語を覚え、背景を調べ、授業では最大限にまで高めたパフォーマンスを披露していただきたいと思います。

そのパフォーマンスに対する評価は、可否両方あるでしょう。よい評価であれば、実践で使える武器が一つ増えたということ。いま一つの評価であれば、弱点を克服するチャンスができたということ。どちらに転んでもいいので、教室でのパフォーマンスの結果を冷静に分析して、自分で自分を引っ張り上げられる力を身につけてほしいです。

通訳の勉強を始めようかと迷っている方は、迷う前にやってみましょう。スクールで正しい方法論を学んだら、あとは努力を積み重ねていくだけです。最初は難しいと感じるかもしれませんが、とにかく幅広く学び続けるうちに、難しいと感じたところが自分の腕の見せ所だとわかるようになります。

勉強を続けるコツは、学習の中に自分の好きなものや趣味などを絡めること。琴線に触れるポイントは人によって異なりますが、「日本語にして伝えたい」と思える素材が見つかるよう、日頃からアンテナを張っておくことが大切です。心が震える素材に触れれば触れるほど、それが勉強を継続するエネルギーになります。