映像作品の日本語版制作で50数年の実績をもつ東北新社が母体
第一線で活躍する翻訳者と現場スタッフがプロに導く映像翻訳スクール

映像テクノアカデミアの映像翻訳科は、着実に学べる段階的なコース体系が特徴。映画やドラマ、ドキュメンタリーなど、多様な作品に対応できる技能と知識を習得できる。講義や演習に加え、アフレコ実習やSST-G1実習、同校声優科とのコラボ授業など、現場体感型の特別授業も充実。人材登用制度も整備された、映像業界直結のスクールだ。

訪問クラス 映像翻訳科本科「Advanced Class」

毎回異なる講師が登壇し個性と専門を生かして指導

映像翻訳科「Advanced Class」は、多様なジャンルの作品で字幕・吹替・ボイスオーバーの演習に取り組み、東北新社のトライアル(翻訳者採用試験)突破を目指すクラス。基礎学習を終えた人が実践力を養う場であり、毎回、異なる講師が指導に当たる。

この日は映像翻訳者の廉田牧子先生が登壇する字幕演習の授業を見学した。前半は講義形式。廉田先生は「劇場作品を訳される大御所の方とは違うフィールドで仕事をしています」と自己紹介し、主にドラマシリーズを手がける自身のキャリアを振り返る。業界動向にもふれ、「3年ほど前から配信系の仕事が急増し、翻訳者を取り巻く環境が大きく変わった」と現状を説明。そうした変化に対し、4児の母兼翻訳者としてどう対応しているか、つぶさに明かした。

その上で、本校の卒業生であり、同じ道の少し先を行く先輩として「今のうちから『幅広い知識の習得』と『人のネットワークづくり』を始めてほしい」と助言する。どんな内容の仕事を依頼されるかわからず「本筋とは関係ないところでも、専門知識が必要になったりする」からだという。

「ある動物番組を訳した際、ママ友の一人である獣医さんに助けてもらいましたが、そういうことが多々あります。その意味で、ご近所さんであれクラスメートであれ、人との出会いや付き合いは大事にしましょう。また世の中の流行に身を委ねて、いろいろ見聞きしたり体験したりすることも大切。ネットとは得られる情報量が違いますし、その世界を知ったことで受注できる仕事もあったりします」

新人がどう取引先を見つければいいか、その情報収集についても言及し「そろそろ準備を始めてください」とアドバイス。親身の言葉に受講生たちは皆、じっと聞き入っていた。

プロならではの広い視点で字幕のポイントを解説

講義が終わると、課題の検討に移った。素材はコメディ映画の一部で、受講生たちは指示書に従って仕上げた字幕原稿を事前に提出している。廉田先生は「字幕に“唯一の正解”はありませんが、たくさんの訳のバリエーションを見ていると、正解らしきものがわかってきます」と伝えると、受講生たちの字幕を載せた映像を流し始めた。

続けざまに3人分の字幕を見たところで、「『ここはこれ以外にない』というのが見えてきませんか。その感覚を味わって」と一呼吸。その後、再び映像を流し、5人目の字幕を見終えたところで、ポイント解説に移った。

字幕を出すタイミングは適切か、セリフのニュアンスが十分に汲み取れているか、根拠を持って口調を決めているか、情報のダブリはないか、等々。廉田先生はプロらしい視点で、さまざまな角度から字幕を吟味していく。

改善点を指摘するだけではない。「仲間全員の写真を街中に貼り出せ」という意味のセリフを「指名手配しろ」と意訳した受講生に対し、「シーン全体がとてもわかりやすくなるので、このくらいやってもいいと思う。上手です」と称賛。また、スクリプトにはない微かに聞こえるセリフを拾って字幕にした受講生に対しては、「私もそうします。笑えるセリフだから」と賛同した。プロのお墨付きをもらった受講生は自信を深めたに違いなく、ほかの受講生は「どこまでなら許されるか/どこまでやるべきか」の一つの目安を得たことだろう。

そのほか、「『―』は1つの文章が2つの字幕に分かれるときにのみ使う」「実在する人物名については、表記の出典を必ず申し送りする」といった基本ルールの確認もなされ、学びの詰まった指導が続いた。

最後に添削済みの課題を返却し、受講生全員の訳、先生の訳、DVDの訳をすべて匿名にしてまとめた訳例集を配布。「これだけの訳のバリエーションに触れられるのは今だけ。常にみんなで訳をシェアして、表現や考え方の幅を広げてください」と結び、授業を終えた。

字幕の“正解”をめぐる、どこか統計学的な考え方は、理系出身の廉田先生ならでは。4人のお子さんを育てながら翻訳する姿は“ワーママ”そのものだ。そんな廉田先生を始め、毎回、個性や専門の異なる講師から学べるのが、本クラスの大きな魅力。正解のない世界だからこそ、その意味は大きい。

講師コメント

映像翻訳科
「Advanced Class」
廉田牧子先生
(かどた・まきこ)

映像翻訳者。大学では工業化学を専攻。大学院を自主退学した後、会社務めをしながら映像テクノアカデミアに学ぶ。東北新社勤務を経て、2009年よりフリーに。代表作に「サバイバー:宿命の大統領」「しあわせの処方箋」「ユーリカ~地図にない街~」「LAW&ORDER」「ハンド・オブ・ゴッド」(すべて字幕)など多数。

どんな経験も無駄にならない
ときには世の流行に乗ってみましょう

映像翻訳をする上では「愛情」も大事な要素です。添削して感じるのは、誠実に向き合って丁寧につくりあげた字幕からは一生懸命さが伝わってくるということです。仕事であれば、制作会社の人が好感を持つはずです。スキルや日本語力などはもちろん必要ですが「作品」と「見てくれる人」への愛情があれば、よりいい字幕になるのではないかと感じています。

ただし、翻訳者が作品に対する感情を引きずりすぎるのはよくありません。私の場合、字幕の漢字と平仮名が●と○に見えることがあり、その並びが幾何学的だと不自然なので、漢字と平仮名の配置やバランス、言葉のリズムを調整したりします。そのくらいの距離感で字幕を見直したほうが、いい字幕に仕上げられる気がします。

映像翻訳においては、どんな経験も無駄にはなりません。PTA 活動にしてもスポーツ観戦にしても、子どもと遊んでいるだけでも、そこで見聞きした情報や言葉づかいが役立ったりします。だから、たとえばワールドカップ開催でラグビーが盛り上がっているときには、試合を見てみる。世の流行は映画やテレビの題材になりやすいので、それをテーマにした仕事が来たときに、抵抗なく引き受けることができます。

翻訳の勉強は学校でできますが、知識は自分で身につけなければなりません。その意味でも、何かやりたいことがあるのなら一歩踏み出しましょう。人生が楽しくなると同時に、翻訳に生かせるときが必ず来るはずです。