双方向性重視のディスカッション形式で
現役翻訳者がプロの視点で実践的指導を行う

naruhon_2020_ISS_honyaku_zyugyou

第一線で活躍するプロの指導の下、優秀な翻訳者を多数輩出しているアイ・エス・エス・インスティテュート。英語翻訳者養成コース「総合翻訳科」「ビジネス英訳科」「専門別翻訳科」では、実務に必要な翻訳スキルを体系的に学ぶことができる。全クラスにインターネットクラスを併設。グループ会社で、日本最大級の翻訳会社である㈱翻訳センターとの連携により、「仕事につながる」クラスを開発・開講している。

訪問クラス 英語翻訳者養成コース専門別翻訳科「金融・IR翻訳」

株主総会招集通知を素材に実践をイメージした日英翻訳

専門別翻訳科「金融・IR翻訳」は、金融市場の動向やIRに焦点をあて、同分野に特化した専門知識や翻訳スキルを習得するクラスだ。決算短信や株主総会招集通知などのIR関連文書、景気動向や物価情勢に関するレポートなどを素材に翻訳演習を行い、プロの翻訳者として通用する力を身につけることを到達目標としている。今回は、「金融・IR翻訳」のスペシャリストである小林久美子先生の授業をレポートしよう。

第7回の課題は、日本の大手機械メーカーの株主総会招集通知(和文)から一部抜粋したものが取り上げられている。受講生はあらかじめ英訳文を提出しており、授業開始前、添削済みの訳文と受講生全員分の訳文を受け取る流れになっている。このほか、当該企業の「定時株主総会招集通知」全文とその英訳文、小林先生作成の課題解説や参考資料などが配付され、授業が始まった。

冒頭、小林先生が話題にしたのは、resignとretireの使い分けについて。これは今回の課題の翻訳に直接必要な知識ではなかったが、受講生から質問があり、それに応じる形で解説がある。小林先生は、英語のresign,retireと日本語の「辞職」「辞任」「退職」「退任」の辞書上の意味を改めて説明した上で、「自分の意思で辞めたのか、そのほかの理由で辞めたのかで、使うべき用語が異なる。翻訳にあたっては、その人物が辞めた理由を確認すること」と、訳語を選択する際のポイントを示す。また、「調べてもわからなかった場合はコメントを付ける」など、実際の仕事を意識した実践的なアドバイスもなされた。

本課題に入ると、まずは株主総会招集通知の形式や用語について詳しい解説がある。「剰余金」「処分」「定款」「議案」「監査等委員会設置会社」などの専門用語が頻出するが、そのたびに小林先生は、辞書や参考資料を使いながら、用語そのものの意味や適切な訳語の選び方を説明した。さらに、「海外在住の株主に配慮し、日時の後に(Japan Time)と付記」「電話番号には日本の国番号(+81)を入れる」「正式な文書において、数字はSix(6)のようにスペルアウトしてアラビア数字を括弧書きで添える」など、学習者にとってすぐに役立つ具体的なアドバイスが多くなされた。

解釈の違いによる訳文の違いを徹底的に議論する

この日、最も時間が割かれたのは、第1号議案に関する次の一文の解釈だ。
『……「将来事業への投資」と「自己資本強化」とのバランスを常に考慮しながら、連結配当性向30%を目処に株主還元を行う基本方針を策定しました。』

ここで問題になったのが、「基本方針」は端的に言うと何かということ。小林先生は、『連結配当性向30%を目処とした株主還元と「将来事業への投資」と「自己資本強化」とのバランス維持が同格で、両方が基本方針となる』という解釈と、『連結配当性向30%を目処とした株主還元を基本方針とする。ただし、「将来事業への投資」と「自己資本強化」とのバランス維持に配慮』という2つの解釈を提示し、それぞれの解釈に基づく訳例を示した。

この箇所に関して、当該企業が公開している英文は、前者の解釈に基づいた訳文になっている。受講生からは、「文中のすべての要素が同格であり、すべて基本方針に含まれるのではないか」との発言もあり、活発な議論が展開される。小林先生は、「同じ原文を読んでも、翻訳者によってこれだけ解釈が分かれることもある。仕事で翻訳する時、解釈の仕方が複数ある場合は、『~と解釈したので、このような訳文にしました』と申し添えること」と結んだ。

金融・IR分野の翻訳は、高い専門性が求められると言われる。本クラスの授業も、専門別翻訳科だけあって、かなり高度で実践的な内容である。このジャンルを熟知している小林先生からは、需要が高いのはどんな文書か、翻訳者の繁忙期はいつごろか、などの業界情報を聞くこともでき、プロとして仕事をするための心構えも教わることができる。「金融・IR翻訳」に特化して学びたい人には有益な翻訳講座だといえるだろう。

講師コメント

英語翻訳者養成コース 専門別翻訳科 「金融・IR翻訳」  小林久美子先生 こばやし・くみこ ニューヨーク大学大学院(スターン・スクール)修了。外資系金融機関の人事シニアマネージャーを務めるとともに、業務(人事、財務、オペレーション、およびM&A)関連の文書の翻訳、通訳に携わる。独立後は、豊富な実務経験を生かして、㈱翻訳センターの専属翻訳者として金融・IR分野の案件を担当している。

英語翻訳者養成コース
専門別翻訳科
「金融・IR翻訳」
小林久美子先生
こばやし・くみこ

ニューヨーク大学大学院(スターン・スクール)修了。外資系金融機関の人事シニアマネージャーを務めるとともに、業務(人事、財務、オペレーション、およびM&A)関連の文書の翻訳、通訳に携わる。独立後は、豊富な実務経験を生かして、㈱翻訳センターの専属翻訳者として金融・IR分野の案件を担当している。

よいコミュニケーターになるためにクライアントの希望をイメージしましょう

専門別翻訳科「金融・IR翻訳」は、講座修了後、すぐに現場の即戦力となれるような力をつけることを目標にしています。カリキュラムは、金融・IR翻訳の仕事をすることを念頭に組まれており、決算短信や株主総会招集通知など翻訳需要が高い文書を使って実践的に学んでいきます。これらのドキュメントは、各企業が実際にウェブサイトで公開している生きた情報ですので、金融・IR分野の専門知識や翻訳スキルをマスターするには最適の教材だといえます。

金融・IRの翻訳者は、情報を発信する側の企業と、情報を受け取る側の投資家の間に入るコミュニケーターです。仕事をする際は、クライアントと同じ立場に立って考え、共通理解の下で文書を翻訳する必要があります。そのため、原文に少しでも疑問があったり、二通りの解釈ができる場合は、まずは徹底的に調べ、それでもわからない時は必ずコメントを付けて納品します。実際の翻訳作業は、リサーチが7割と言ってもいいくらいで、とにかく調査力が求められます。授業では、この調査力をつけるためのコツもお伝えしますので、ぜひ受講中に効果的な調査方法を学んでいただきたいと思います。

優れた翻訳者、すなわち、よいコミュニケーターとは、クライアントがどんな仕上がりを望んでいるかをイメージできる人です。クライアントの希望に沿うには、金融・IR分野のさまざまな訳文のパターンにふれ、訳出表現の裾野を広げていくことが一番です。翻訳課題に取り組む時は、複数の会社の同様の文書を確認することを心がけるとよいですね。それを習慣にすると、自分の中で表現の引き出しが増えていきます。