現場を熟知した翻訳者や日本語版制作スタッフが実践ノウハウを伝授
映像作品の日本語版制作で50数年の実績をもつ東北新社運営の映像翻訳スクール

映像テクノアカデミアでは、着実に学べる段階的なコース体系のもと、映画やドラマ、ドキュメンタリーなど多様な作品に対応できる映像翻訳スキルを伝授している。講義や演習に加え、アフレコ実習やSST-G1実習、同校声優科とのコラボレーション授業など、現場を体感できる特別授業も充実。即戦力を目指せる、映像業界直結のスクールだ。

訪問クラス 映像翻訳科本科「Advanced Class」

用語用字辞典を使い字幕の表記をチェック

映像翻訳科「Advanced Class」は、多様な映像作品を教材に演習を重ね、トライアル(東北新社が実施する翻訳者採用試験)突破を目指すコース。字幕・吹替・VO(ボイスオーバー)の基礎を習得している人を対象に、応用力を養う指導が行われる。

見学したのは、字幕演習の授業。講師を務める高山龍一先生は、本校を卒業して東北新社で字幕演出に携わった後、映像翻訳者になった経歴を持つ。授業でも翻訳者と字幕演出家、両方の目線で指導しているそうだ。

授業が始まると、高山先生は自己紹介を兼ねて自身の来歴にふれ、字幕演出の仕事内容を紹介。その1つ、表記チェックがいかに重要かを説明する。
「字幕の表記は『朝日新聞の用語の手引』に従います。翻訳者がそれをせず、平仮名にすべきものを漢字にしていた場合、字幕演出のほうで直しますが、字数が増えることで字幕全体を修正する必要が生じたりします。そういう手間を押し付けてしまっては、いい翻訳者とは言えません。表記チェックがどんなものか、実際にやってみましょう」

『朝日~』を使い、練習問題に取り組む受講生たち。答え合わせをしてみると、「素敵→すてき」「辿る→たどる」あたりはできていたが、同音異字の「(のどが)乾く→渇く」を見落とした人が多かった。高山先生は「外来語や外国地名の表記も『朝日~』に従う」と補足した後、「幅広い層の人が読めないと意味がないので、字幕では常用漢字以外は使わないようにしてください」と締めくくった。

表記に対する意識が高まったところで、課題の検討が始まる。素材はブラックユーモアの効いたファンタジー。受講生たちは、注意事項や提出期限、納品形態がまとめられた指示書に沿って翻訳し、事前に提出している。授業で検討するのは、高山先生が事前に選んだ3人の字幕(提出課題は全員分、添削して返却)。字幕を載せた映像を確認しながら、一つ一つ字幕をじっくり吟味していく。

字幕を載せた映像を見ながらいい字幕のポイントを学習

まず着目したのは、字幕と映像のマッチング。酒場で発せられるLights up! という第一声を、受講生は「ライトを」(指定字数は5文字)とした。一見問題なさそうだが、改めてそのシーンを映像で確認してみると、この字幕が出た後も一向に照明は灯らない。
「見ている人は『あれ?』と思うはず。ここは映像に合わせて『盛り上がっていこう』というニュアンスの表現に意訳してかまいません」

シーンが進んで字幕が切り替わるたび、先生の指導も変わっていく。13字以下の場合、なるべく2行にせず1行にする。1枚の字幕の中で同じ言葉の繰り返しはしない。「~を」で終わる字幕は避け、文章として完結しているきれいな字幕を心がける。「『探す』ではなく『捜す』ですね」と、表記ミスを指摘することも忘れない。

こうした字幕演出目線の指導に加え、翻訳上の問題点の指摘にも熱がこもった。女性キャラがMy name’s ○○. Miss ○○. と自己紹介するシーン。高山先生は「なぜ、わざわざMiss ○○と言い直しているのか」と問いかけ、「独身だと伝えたいから」という受講生の返答にうなずくと、こう続けた。

「そのニュアンスを字幕で出せると、キャラクターの心情が伝わります。Aさんの『○○様よ』、Bさんの『ミス○○よ』だと、独身であることがわからない。Cさんの『まだ独身なの』はいい意訳です。『独り身よ』とした人もいましたが、この言葉には寂しい響きがあり、キャラのイケイケな態度にそぐわない気がします」

場面が変わって、主人公とその執事が会話するシーン。執事の台詞がタメ口である点を俎上に載せ、「二人の主従関係が崩れることで、作品の世界観そのものが壊れてしまう。これは致命的なミスです」と語気強く指摘した。

その一方で「非常によくできています」「おもしろい」などと訳を褒めたり、「思い切って勝負しましたね」と姿勢を評価したり。指導はとても丁寧かつ的確で、よりわかりやすい字幕にするためのコツや考え方が幅広く示された。

訳の方向性が異なる3作に絞って検討したため、違いが際立ち、字幕翻訳の奥深さとおもしろさ、難しさを十分に実感することができた。この日のような授業を1年を通して受講し、学んだことをモノにできれば、トライアル突破は決して夢ではない。

講師コメント

映像翻訳科
「Advanced Class」
高山龍一先生
(たかやま・りゅういち)

獨協大学外国語学部卒。シンクタンクに勤めながら映像テクノアカデミアで映像翻訳を学ぶ。㈱東北新社で2年間、字幕演出に従事した後、2006年2月に翻訳者として独立。代表作に「デッドサイレンス」「ビッグ・バグズ・パニック」(劇場字幕)、「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」(字幕)など多数。

大切なのはドラマを読む力
意識的に映画やドラマを見てください
Advanced Classは、1年目のBasic ClassとIntermediate Classで学んだ基礎を土台に、しっかり応用できる力を養います。特に字数制限については、わかっていてもなかなか守れない人が多いので、あれこれ頭を悩ませて1文字を減らすような経験を、たくさん積んでいただきたいと考えています。

映像翻訳においては、語学力よりもドラマを把握できる力が大切です。いくら英語ができても、文字どおりに訳してしまったのでは、キャラクターの心情が正しく伝わらなかったり、言葉の選択を誤って登場人物どうしの人間関係がおかしくなったりと、脚本家や製作サイドの意図を損ねてしまいかねません。ドラマを読む力を磨きたいのであれば、登場人物の性格や人間関係、話の展開などを意識しながら、小説を読んだり、映画・ドラマを見たりすることをおすすめします。

字幕には字数制限があり、ある種の要約力を問われますが、最近は「インスタグラム」のように字数の多いカタカナが増え、要約だけでは対応しきれない難しさがあります。そのあたりを現役のプロがどう処理をしているか、批評的な目で映画やドラマを見るようにしてください。

日本語版製作の現場で求められるレベルはかなり高く、すぐにプロになれるものではありません。ですが、結果が出なくても諦めずに続けていれば、必ずチャンスがめぐってきます。そのチャンスを逃さないためにも、腰を据えて勉強に取り組むことが大事。好きな映画やドラマシリーズを訳せる充実感、すべて訳し終えたときの達成感を、皆さんにもぜひ味わっていただきたいですね。