第4回JACI同時通訳グランプリ 受賞者インタビュー Vol.2
JACI同時通訳グランプリ 受賞者インタビュー
現在、第5回の参加者を募集している「JACI同時通訳グランプリ」の昨年度の受賞者インタビューを特別掲載! 予選・本選への準備や、受賞により変わったことなど、気になる点を伺いました。参加予定の方、参加しようか迷っている方は、ぜひ参考にしてください!
【Profile】
こうづま・つぐみ/アラスカ州立大学アンカレッジ校で学士取得後、大学院進学・フランス語習得のため渡仏。2019年にフランス・グルノーブルアルプ大学大学院多言語翻訳科を修了し、同年よりフリーランスの実務翻訳者として稼働し始める。コロナをきっかけに長年の夢であった通訳者の道をめざす。現在は日英仏のフリーランス通訳者として活動。
Q. 通訳者を志したのはいつから?
幼少期から父が海外で働いていたこともあり、昔から外国語に対する興味は強くありました。具体的には、小学生の時に「13歳のハローワーク」を読み、通訳という職業に憧れを持ち始めたことがきっかけです。
大学院卒業後、フリーランスの翻訳者として稼働し始めたと同時にコロナ禍になったため、幼少期からの夢を叶えるチャンスだと思い、通訳者の勉強をオンラインで開始しました。
Q. JACI同時通訳グランプリに参加したきっかけは?
2021年に3か月限定で行われたオンライン講座「関根マイクの英語通訳塾」の受講料無料の条件の一つが、JACI同時通訳グランプリへのエントリーだったため、参加しました。
最初にチャレンジした2021年は、ファイル送信先のアドレスを誤り、制限時間以内にファイルを送れず惨敗。失格となり審査対象にもなりませんでした。情けなさや悔しさをバネにして、2022年は必ずリベンジしようと心に決めていました。
また、通訳経験が浅く海外在住であることから、グランプリに参加することで日本の通訳者コミュニティとの繋がりを作りたいという気持ちもありました。そして仮に入賞することができれば、自分の通訳者としての信頼度や自信にもつながるとも思いました。
Q. 予選&本選はそれぞれどのようなテーマで、どう準備した?
予選テーマ:英日「趣味が通訳に与える影響について」
日英「今後の通訳業界とRSI:Post-COVIDを見据えて」
1時間という制限時間内に確実に二つの音源ファイルを送信するために、予選当日の流れを徹底的に練習し、録音デバイスとMP3変換アプリも複数用意して、万が一のトラブルに備えました。
英日は、的を絞りづらいテーマだったため、本番でどんな内容になっても平常心を保てるように、広範かつランダムなテーマで予習。専門用語の準備というよりは、とにかく実践練習を繰り返しました。内容を予想することが難しいトピックを扱うことで、言葉に詰まった時に出てしまう言い回しの癖を洗い出し、対策を練りました。
一方、日英に関しては、コロナ関連の用語や日本のコロナ対策方針といった背景知識を深めるなど、事前準備に時間をかけました。RSIに関しては、以前にボランティア通訳を務めた、米国の通訳会社CEOのナオミ・ボウマンさんのウェビナー(日本通訳翻訳フォーラム2021「RSIの音声設定:理想的な作業環境の作り方」)で得た知識を掘り下げていき、改めて彼女のブログを徹底的に読むなどしました。日本の通訳者のブログや論文にも一通り目を通し、予選本番のスピーカーの方が執筆された論文も偶然読んでいたため、本番のスピーチの全体の流れをすぐに掴むことができました。
英日・日英ともに、毎週通訳仲間と本番環境での練習を行い(メールにて通訳テーマのビデオリンク受信→各10分のビデオを視聴→通訳録音+ファイル送信)、フィードバックを行いました。この練習は、本選に参加することが決まった後も回数を増やし行いました(週3〜4回)。
本選テーマ:
英日「The joys of fatherhood: what being a father of two means to me」
日英「翻訳者を目指す人が悪徳翻訳講座に騙されないようにするためには」
本選では、テーマに加え、スピーカーの情報も知らされていたので、スピーカーの基本情報や関連情報(ブログ記事、LinkedIn、SNSなど)を調べ上げてインプットを行いました。アウトプットとしては、関連テーマの同通演習に加え、自分なりに各スピーカーになりきってプレゼンテーションを行い、最低でも30分は資料を見ずにそのテーマについて話せるようにしました。また、関連記事や動画を見る際も、一度目を通した後に、自分の言葉で再表現する練習を重ねました。
予選に向けた準備では、かなり幅広く色々な素材を使って練習していましたが、予選の通過通知の際にいただいた「精度に欠ける部分がある。原文の取り込みが若干あいまいな箇所がある」という講評を真摯に受け止め、同じ動画の通訳を複数回録音して自己分析を行うことで、訳文一つひとつに向き合う時間をより大切にしました。また、通訳の質に影響しない程度の丁度いいバランスで、自分らしさを出していけるように心がけました。
Q. グランプリ本選にはどのように臨んだ? 印象に残ったことは?
本選前は、当たって砕けろの精神で自分の力を出し切るパフォーマンスができればと思っていましたが、パートナーの方と練習を重ねるうちに、チームとして素晴らしい訳をオーディエンスに提供したいという気持ちが高まっていきました。本番を前に、沢山の方から激励の言葉をいただき、そんな仲間の存在に背中を押されて自分に過度なプレッシャーをかけずに本番に挑むことができたと思います。
本番当日は、日本に一時帰国中だったため実家のリビングを占領して通訳環境を整えました。家族は、通訳の邪魔にならないように実家の犬を連れて外出してくれており、結果発表にタイミングを合わせて帰ってきた家族と結果発表の瞬間を共有でき、感無量でした。
Q. グランプリを受賞した感想は? また受賞後に仕事面などで変化はあった?
本番中は、自分とパートナー以外の訳出は聞くことができないし、興奮状態で自分のパフォーマンスを振り返る余裕もなかったので、優勝時に自分の名前が呼ばれた時は本当に驚きました。優勝スピーチをすると同時に実感が湧いてきて、走馬灯のように今までお世話になった人の顔が次々と浮かびあがり、胸が一杯でした。
グランプリ受賞を受けて多くの人から温かい言葉をかけていただき、仕事のチャンスも少しずつ増えました。グランプリを取っていなかったとしても、今回の同通グランプリに向けて準備をしてきた時間は自分にとっての財産と自信になっていたと思います。予選も本選も、そしてこれからの通訳人生においても向き合うべきなのは自分自身なのだと教えられました。今回のグランプリ受賞は、長い通訳人生におけるスタートラインに過ぎないのだと思っています。
*参加を考えている人へのメッセージ*
私の同通グランプリへの挑戦は失敗から始まりました。あの経験がなければ、今回のように自分を奮い立たせることもなかったのだと今は思います。実務経験が少ないことが理由で参加をためらっている方がいるとしたら、挑戦しなかったことに後悔することはあっても、挑戦した自分を悔やむことは絶対にないと伝えたいです。私がそうでした。
努力の先にあるのが入賞ではなくても、このグランプリ参加を通して得られるのものは言葉にできないほど大きく、みなさんの通訳人生の柱になってくれるものだと思います。
第5回JACI同時通訳グランプリ 参加者募集中!
申込期間:2023年1月20日(金)~2022年5月12日(金)
※申込数が100名に達した時点で締め切り
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