Vol.5 会議通訳者 関根マイクさん「いろんな本を読んでいると 点と点が意外なところでつながる」

通訳者に必要な表現力を演劇本から学ぶ

通訳者になって以降、好奇心の赴くままに本を読んできた。たとえば「アメリカ最高裁もの」。大学時代、現役裁判官の授業を受けたことで法律が好きになり、これまでに読破した米最高裁判事の評伝や有名訴訟をめぐるノンフィクションは何十冊にものぼる。

おもしろくてはまったという、アメリカ法曹会のノンフィクション。中央の2冊は最高裁判事(左がS・D・オコーナー、右がA・スカリア)の評伝。左端『The Oath』の著者ジェフリー・トゥービンは「最高裁ウォッチャーとしてすごく有名」。右端の『How Judges Think』は、裁判官が弁護士向けに書いた、法廷での立ち回りハウツー本。

また、大学での専攻だった哲学への関心は消えることなく、在学時に英訳で読んだ『大衆の反逆』(オルテガ・イ・ガセット)は、通訳者になってから日本語訳で再読した。いまは東浩紀など、同時代を生きる思想家の著作にも手を伸ばしている。

「哲学を学ぶと、誰かの主張を盲目的に信じるのではなく、裏を取り、自分で考えたうえで判断するようになります。いま世界を見渡してみると、オルテガが『大衆の反逆』で看破したように、民主主義や多数決が正しいとは限らないって、よくわかるじゃないですか。こんな世の中だからこそ、『まず疑う』という姿勢が、以前にもまして大事なんじゃないかと思いますね」

哲学・思想系の本が並ぶ一角。東浩紀さんは好きな作家の一人で、『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』(講談社現代新書)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン)、『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎)の3冊は「特におもしろい」。

いろんな分野の本を読んでいると、「意外なところで点と点がつながる」。先日も、あるIT 企業で通訳した際、スピーカーが社会学者マックス・ウェーバーの話を始めたが、たまたま著作を読んでいたため、スムーズに訳すことができた。だから、通訳者としての能力を高めるための読書であっても、ほかの領域にヒントを求める。

「こう言ったら怒る人もいるかもしれないけれど、正確性だけを追求していたら、通訳はあまりうまくならない。語尾を工夫したり、声色を変えたり、リズムをとったり、そういった表現力が必要になってくるので、そのあたりを演劇から学んでいます。ある程度キャリアを積んでくると、通訳から離れたほうがむしろ勉強になりますね」

『“役を生きる”演技レッスン』(フィルムアート社)を読み、間の取り方といった「通訳の表現力」を学んでいる。一方の『プロレスラーは観客に何を見せているのか』(草思社)はというと、「観客の心を一瞬で掴んでしまうプロレスラーの技術はすごい。通訳をしていると、強くそう思います」

知りたいことがあるから、本を読む。それは「空気を吸うようなもの」と関根さん。通訳の閑散期には1テーマでまとめ読みをしており、次は「証券取引法」の本をと考えているそうだ。

雑誌の連載や著書の執筆に加え、通訳団体の理事を務めるなど、いま最も発信力のある通訳者。最後に、通訳者・翻訳者志望者への「推し本」を聞いてみた。

「通訳の全体像を知りたいなら、小松達也さんの『通訳の技術』と鳥飼玖美子さんの『通訳者と戦後日米外交』。技術については、『Conference Interpreting Explained』が一押しです。翻訳のほうは、先ほど挙げた2冊に加え、土方奈美さんの訳書を読まれるといいと思います。翻訳が上手なので、英語と日本語の語順の違いを意識して読むと、いい勉強になるはずです」

通訳の技術を学ぶ上で一押しの本、『Conference Interpreting Explained』(Routledge)。『会議通訳』(松柏社)のタイトルで訳書も出ているが、原著者の言葉や息遣いを感じられる原書のほうが、よりおすすめとのこと。

 

(『通訳・翻訳ジャーナル』2020年夏号より転載)

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