Vol.3 宇野和美さん「考えることを止めないために本を読み続けていきたい」

導き励ましてくれる須賀敦子の著作

大人になって以降も、人生で大きな意味を持つ本に出会ってきた。
たとえば、スペイン児童文学の名作といわれる『La Tierra Del Sol Y La Luna』。翻訳者になりたいと思いつつ、まだ出版社に勤めていた1988年、新婚旅行でスペインを訪れた際に買い求めた1冊だ。

「16世紀のグラナダを舞台にした歴史ものの児童文学です。子どもの本を翻訳できないかと思い始めた頃、そもそもスペインにどんな本があるんだろうと思い、本屋さんで児童書の定番を10冊教えてもらったんです。そのうちの1冊がこの本で、読んでみたらすごく面白くて、胸に響きました。それから約30年後の2017年に『太陽と月の大地』として訳書を出せたので、感慨深いですね」

特に思い入れの強い訳書『太陽と月の大地』(福音館書店)とその原書『La Tierra Del Sol Y La Luna』。「スペインは1939年から75年まで独裁政権だったため、自由な出版活動ができませんでした。その反動で80年代に入っていろんな作品が書かれるようになり、これもその一つです。キリスト教徒がイスラム教徒を追放した歴史が、批判的な目で描かれています」

ある意味、それ以上に特別なのが『ヴェネツィアの宿』。著者の須賀敦子さんは好きな作家の一人で、須賀さんが残したある言葉に背中を押され、1999年、3人のお子さんを連れてスペインのバルセロナ自治大学に留学した。その際、日本から持っていったのがこの本だった。

「人生の断片とともに、ヨーロッパで暮らすことの困惑や苦悩、女性としての葛藤が綴られたエッセイです。今でも何かあるとページを繰っています。必ず読むくだりがあって(下記写真キャプション参照)、そこを読むたび、『前を向いていこう』という気になります」

大きな影響を受けた2冊。思い出の『高校二年の四月に』(講談社)は数年前に古本で探して手に入れた。『ヴェネツィアの宿』(文藝春秋)のほうは、「私たちの話題は、勉強のことをのぞくとほとんどいつもおなじで、女が女らしさや人格を犠牲にしないで学問をつづけていくには、あるいは結婚だけを目標にしないで社会で生きていくには、いったいどうすればいいのかということに行きついた」というくだりを必ず読む。

学校に行くのが辛かった中学生の頃、「今ここ」とは違う世界、違う価値観を見せてくれる本が「心の支え」になった。違いは驚きであり、救いだった。視界が広がれば、それまで見えていた現実が違ったふうに見えてくる。問題が問題でなくなったり、解決策が見つかったり、あるいは逆に新たな問題が見つかったり。だから、スペイン語圏の人や社会のさまざまな姿をこれからも伝えていきたいという。

「未知の世界、自分にはない視点や考え方に出会えるのは、やはりインターネットより本だと思います。本は豊かです。読書は、思考停止に陥らないために必要なこと。考えることを止めないために、私にとって本は頼りになる相棒です」

ミランフ洋書店
www.miranfu.com
宇野さんが厳選したスペイン語の児童書をメインに扱うネット書店。1冊から購入可能で、毎月新しい本を入荷している。

 

(『通訳・翻訳ジャーナル』2020年春号より転載)

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