Vol.1 夏目 大さん「読書は“ごはん”であり“おやつ”
ないと死んじゃうし、あると楽しい」

開高健や玉村豊男ら”四人衆”の文章が好き

東京・青山の青山ブックセンターや横浜の有隣堂など、あちこちに好きな書店があり、週に数回はそのいずれかに足を運ぶ。「本屋さんに行くと、体に溜まった何かが浄化されるので」。

月に買う本は平均して10冊ほど。最近はすぐ入手困難になる本も多く、お気に入りの出版社がツイッターで推している本は買わずにはいられない。とはいえ、限られた時間のなかで「あれもこれも読みたい」から、最初の100ページを読んで切り上げることが増えてきた。

読書傾向は限りなく雑食に近いが、目がないのは紀行文や食の本。前者は「うまく言えないけれど、読んでいてサラサラっと流れていく感じが好き」で、後者は「料理やお酒には、人間がその土地その土地でどうやって生きてきたかが刻まれていておもしろい」。もちろん旅や食を書く作家たちが大好きで、特に玉村豊男、椎名誠、開高健、山口瞳の4人は特別な存在だ。

料理とお酒の本がとにかく好き。玉村豊男さんの『料理の四面体』は「人生観を変えてくれた本」で、『美味礼讃』(ブリア=サヴァラン著)は「玉村さんが翻訳したから買った」という。『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(石井好子)は『暮しの手帖』の連載をまとめたもの。『cook』は「著者の坂口恭平さんが躁うつで、躁状態のときに開発したレシピが手書きで紹介されている」。また、お弟子さんたちと共訳した『CHOCOLATE:チョコレートの歴史、カカオ豆の種類、味わい方とそのレシピ』も「すごくいい本」だそうだ。

「彼らの文章が好きで、何でも読みます。一番好きなのは、玉村さんの『料理の四面体』。開高健さんの『最後の晩餐』とか『ずばり東京』もすごくおもしろいです。この四人衆は私にとって文章の先生だけれど、あまりに凄すぎてマネできない(笑)」

滋養を摂るように、読んで学ぶのが、夏目流。翻訳家志望者に対しても、「好きな翻訳書を一度を読み直し、それから原書を頭から読んでいくといい」と“ゆるいつき合わせ”を勧める。

最後に「読書とは?」と尋ねると、「“ごはん”であり“おやつ”ですね。ないと死んじゃうし、あると楽しいから」。軽妙なたとえがまた、らしい。

『翻訳はたのしい』(鈴木晶)や『翻訳という仕事』(小鷹信光)、『翻訳教育』(野崎歓)など、翻訳家のエッセイはつい買ってしまう。「ほかの翻訳者がどう考えているのか、やっぱり知りたいんです」。これらは志望者にとって必読書とまでは言わないものの、「『ロイヤル英文法』は絶対に持っていたほうがいい」。

 

(『通訳・翻訳ジャーナル』2019年秋号より転載)

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