デビュー作含め、18 冊を 企画持ち込みから刊行/横山和江さん

翻訳者の集まりがモチベーションに

フリーランスの地方在住者が抱きがちな孤独感を人一倍感じてしまうわたしにとって、パソコンやインターネットは生命線ともいえます。翻訳の勉強をはじめたのはかれこれ20年ほど前ですが、東京から縁あって山形に転居することになり、まっさきに手配したのはネット環境の整備と翻訳の通信教育の申し込みでした。

独身時代はソフトウェアの翻訳をしていたため、見ず知らずの土地で暮らす不安を解消する手段としてネットにとびついたというわけです。とはいえ当時は情報が豊富とはいえない状況で、ニフティサーブが提供していたパソコン通信サービスの翻訳フォーラム内に「やまねこ翻訳クラブ」という児童書翻訳者を目指す卵の集まりを見つけたときは、うれしくてたまりませんでした。翻訳の自主勉強会や読書会、メールマガジン「月刊児童文学翻訳」の編集や執筆などにオンラインで参加し、帰省のたびにオフと称してやまねこのみなさんと情報交換してきたおかげで、児童書翻訳に対するモチベーションを保てた気がします。

あっというまに年月が流れ、昨年同クラブは20周年を迎えました。2017年11月に大きなイベントとお祝いの会を開き、書店でのフェアや関連イベントもたくさん開催されましたし、今年は「書評でつながる読書コミュニティ 本が好き!」のみなさんとの合同読書会も開催されました。Twitterの中の人を担当してお祝いに参加できたのも楽しかったです。

作品を探し出すやりがいと喜び

 わたしは児童書専門かつ企画持ち込みメインのため、翻訳者としてはひよっこでもボツの経験はベテラン並みかも……。2006年に刊行されたデビュー作『サンタの最後のおくりもの』の原書を徳間書店に紹介したときは、下読みの仕事をしていたとはいえ訳書はありませんでしたから、版元さんはかなりの冒険だったと思います。こつこつじわじわと訳書を増やし、ようやく年に数冊(今のところ半分以上が絵本)ペースで訳書が出るようになりました。予定を含めると持ち込みから刊行が決まった作品は20冊を超え、それぞれにドラマがあるものの、ボツ話も枚挙にいとまがありません。

版元が求める作品の傾向を把握して提案するため、興味をもっていただけそうな作品を探し出すのはとてもやりがいがあります。一方で、ご依頼いただくと天にも昇る気持ちになるのは正直なところ。これまで少ないながら打診いただいた作品はどれも大好きな作品なので、編集者さんってすごいとしみじみ思います。『フランクリンの空とぶ本やさん』は、ボツが続いてあきらめていたときに、「合う作品を見つけましたよ!」とBL出版さんからご連絡いただいた作品です。うれしいことに絵もお話も好みにぴったりで(本が大好きなドラゴンのお話です)、神様ならぬ編集者さんは、お見通しだと感激したものでした。

さらに個人的には奇跡としか思えないエピソードをひとつ。表紙にひとめぼれして翻訳したいと強く願っていた絵本が、刊行される前に版権取得され、あきらめきれずにいたことがあります。すると数か月後に、某社から翻訳の打診をいただき「訳したかった本なんです!」と即答したところ、とてもおどろかれました(もちろん、わたしもおどろきました)。

基本的に翻訳者がやり取りする窓口は編集者さんだけですが、たまにデザイナーさんや画家さんの希望を聞かれることがあります。孤独な訳出作業のあとに、編集作業で訳文がブラッシュアップされ、デザインや挿画が加わり、紙の本として仕上がっていく過程を目の当たりにするたびに、実際にお会いできなくても本づくりメンバーの一員としての充実感を味わっています。

翻訳児童書をもっと読んでいただくための手段はないかと考え、5年ほど前からTwitterで訳書の紹介をはじめました。たまに遠方の児童書専門店さんとつながりができたり、原作者や訳書を読まれた方とやり取りしたり、「Twitterってすごい」と思うこともしばしば。ネットでつながっているみなさんと、いつかお会いできるのを楽しみにして、仕事も活動内容も充実させていきたいものです。

 

★『通訳・翻訳ジャーナル』2019年冬号より転載★