第1回 専業翻訳者、やめます。

「楽しい」を仕事にしていますか?

「好き」や「楽しい」を仕事にして食べていくのは難しい。家族を養うとなればなおさらだ。英語が好き、書くことが楽しい。その融合ともいえる翻訳一本で15年近く4人+1匹家族を養い続けてきたことは、僕の誇りだった。

とはいえ荒波は繰り返す。いくつかの嵐を乗り越えてきたフリーランスの小舟は2年前、ついに転覆しかけた。「楽しい」は「苦しい」に変わった。そして思い出した。大事なのは翻訳を続けることではなく、「楽しい」を仕事にし続けることだと。

別に翻訳が嫌いになったわけではない。しかし、翻訳オンリーの呪縛を解けば、もっと楽しいことが見つかるのではないか。翻訳も、もっと楽しめるようになるのではないか。そして、新しいことへの挑戦、それ自体が楽しい。

翻訳の仕事をもっと楽しもうと、旅しながら仕事する「ノマド翻訳」もしてみたが、働き方だけでなく、仕事内容も自由にしよう。現有スキルを活用しながら。となると、語学関係で思い浮かぶのは通訳、通訳ガイドだ。

老後を恐れるな!

●長期収入の安定
目先の収入が減るのは間違いない。新しい仕事への準備に時間を取られるし、いつ仕事にできるかもわからないからだ。中期的にも、やはりマルチでいくより絞り込んだほうが、翻訳だけに専念したほうが、効率的に稼げるはずだ。

ただ、長期的にはどうだろう? 翻訳しかできない、この分野しかできないでは、例えばAI翻訳の進化のような外的リスクにさらされる。5年後には、その仕事がなくなり、あるいは大幅なレートダウンに見舞われるかもしれない。

最近になって老眼という現象を経験し、身体機能の衰えという内的リスクも考えるようになった。一体いつまで、PCの前で長時間、細かい文字と格闘できるのだろう?こういった外的・内的なリスクに備えるには、既存スキルを生かしながらの事業分散が有効だ。

●「2千万円不足問題」に対応
そして老後は、年金だけでは数千万円不足するらしい。自助努力として最善なのは、果たして貯金だろうか? 先の心配ばかりして今は我慢し、せっせと老後資金を貯めることが? 僕はそうは思わない。

長く使える「金の成るスキル」を複数持ち、老後の不安をなくす。貯金なんて最小限にとどめてバリバリお金を使う。これが最適解ではないか。「失われたウン十年」というが、一つには老後不安がぬぐえずにお金を好きに使えず、個人消費が上向かないからではないか。皆が貯金でなくスキルに頼り、“パラレルキャリア”を目指せば、景気も良くなるだろう。

●相乗効果
多角化するからといって、翻訳を極めるという夢を捨てたわけではない。いや、むしろ通訳を学ぶことにより、翻訳者として一回り大きくなれるのではないか。そんな相乗効果を期待できるかもしれない。

筋書のないドラマへようこそ

熟考の結果、専業翻訳者だった僕は、通訳と通訳ガイドを加えた「三大語学職」の制覇に挑むに至った。単にやっています、でなく、各職業で一流を目指して。現状、通訳ガイドについては「富士箱根バスツアー」を中心に稼働を開始。「将来の夢はバスガイド」。小学校時代、隣の席の女子がそう書いていたが、まさか自分が40半ばを過ぎてから彼女の夢を実現することになるとは。。

通訳については、現在通訳学校に通学中。翻訳は学校に通うことなく仕事にしたが、もともと「読む、書く」に比べて「話す、聞く」が不得意なだけに、一から学ぶ必要があるのではないかと考えた。どう学べばいいか分からないし。まだまだ8段階中の下から3番目のクラスだが、できれば本コラム連載中に通訳を仕事にしたい。

一方、翻訳についても「楽しい」を優先する方向へシフト。その結果、少し前までまったくやっていなかった字幕翻訳がメインになりつつある。

翻訳者が通訳者や通訳ガイドになろうとすると、どんな努力が必要で、どれほどの時間がかかるのか? すべてに挑戦するからこそ気付く3つの仕事の違いや、それぞれの楽しさ、大変さは? 3つの間に相乗効果はあるのか? メインの翻訳業にどんな影響が及ぶのか? リアルタイムでお届けする挑戦を、そういった点に着目しながらお楽しみいただきたい。

通訳ガイドとしての仕事、富士山ツアーにて。