
Vol.19「好きになれば勝手にやる」と自主性を尊重
/通訳者 寺山なつみさん
我が家には6歳になる娘と4歳の息子がいます。夫はいわゆる純ジャパ。私が仕事の準備でシャドーイングをしたり、タイやフィリピン出身の幼稚園ママ友と英語で話す姿は子どもたちも時おり見ていますが、それ以外は完全に日本語の環境です。幼稚園年長の娘は、園で週に1度ECCのクラスがあるようですが、特に何を習ったなど、聞かない限りは教えてくれません。
仕事柄、ママ友に「子どもにどうやって英語を教えたらいい?」という質問は、私もよくされます。しかし、このリレーコラムに寄稿されている多くの通訳者の方たちが指摘されているように、我が家も小さいころは母語である美しい日本語をしっかり身につけることが大切だと考えており、積極的な英語教育は一切していません。(このコラムで言い切っていいのか?)
語学以外の得意分野を持ち
高校生で留学してほしい
私自身は、中学一年生のころ、初めての英語の中間試験でアルファベットが書けず、慌てた母親に翌日から毎朝6時にたたき起こされ、NHKのラジオ基礎英語を聴かされました。眠気まなこでラジオの前に座るのが日課となり、気づいたら英語が得意になっていました。得意になると、自然に英語が好きになり、地元の新聞に載っていた沖縄県の留学派遣制度に自ら応募し、高校生の時に奨学生としてイギリスのスコットランドに一年間留学しました。その後は、大学、大学院時代にもアメリカ留学を経験しました。
自分の実体験から、「好きになれば、勝手にやる」、「語学はあまり早くから始めなくてもよい」と今のところは考えています。(周りの早期英語教育熱がすごいので、そのうち変わるかもしれませんが…。)
もちろん、母が3日坊主にならず毎朝ラジオの前に座らせてくれたように(笑)、環境を整えるなど、ある程度親の介入も必要だとは思っています。
そんな私でも、グローバル化がますます進む中、英語圏で学ぶ利点は大きいと感じるので、子どもには高校生くらいで海外留学してほしいと思っています。自分の経験から、子どもに伝えたいことは、「語学以外の得意分野(音楽・スポーツ・芸能など)を持つこと」です。日本で英語が得意でも、留学先の現地の人たちにとっては母国語です!その時、バスケやピアノ、空手など、得意なものがあると一目置かれたり、それをきっかけに友人ができたり、大きな自信になります。
自分の意見を説明できる人に
もう一つ、子どもに伝えたいことは、自分の意見を論理的に説明できることです。私が、初めての留学で経験した衝撃の一つは、日本と違い、歴史の試験なども文章の記述式だったことです。与えられた事実や問題に対し、異なる意見も聞きながら、自ら論理的に問題解決をしていく。Critical thinking など聞いたことがなかった高校生の私には、今までの勉強のやり方が通用せずショックでした。日本的な暗記と正解を知っているだけの評価では、将来、多様な人たちと協働することが求められるビジネスや社会では通用しなくなるでしょう。
この20~30年だけでも、ITの普及でこんなに世の中が変わってしまい、この子たちが大人になる頃には世の中どうなっているのだろう、ということは親としてよく考えます。おそらく、当たり前と思っていたものが消えていったり、逆に今では想像もつかない職業が出てくるでしょう。この恐ろしく変化の速い世の中で、親は子どものためを想い、迷いつつも可能な限り、良かれと信じる方針に従い子育てをしています。どんなに子どもとバトルをし、子育てのストレスを感じる日でも、その寝顔を見ると、「豊かな人生を歩んでほしい。そして、この子たちが生きる社会がいつまでも平和であってほしい」と願わずにいられません。そのために、私も親としてできることを精一杯しつつ、時期が来たらちゃんと子離れできるよう自分の世界も広げていきたいと考えています。