
第12回(最終回) そのお土産選び、ちょっと待った!
あんなに嬉しそうにお土産も買ってたし、お客さまの帰りの飛行機もそろそろ向こうの空港に着いた頃だろう、めでたしめでたし、と考えながら自室で呑気にコーヒーなどすすっていると、時としてコーヒーカップをひっくり返しそうな連絡がお客さまから入ることがあります。
携帯がピロリ~ンと鳴ったので慌ててメールを開くと、何とも不穏なタイトルが。
sad news!
えええー何ですか? まだ「emergency」と書いてないだけマシだけどとても怖いわ~。この妙なドキドキは、さっき飲んだコーヒーのカフェインのせいだけではないはず。
恐る恐る読んでみると、
「せっかく名前も入れてもらったあのナイフ、空港で取られたよ……」
……出ましたよ。水泡に帰すパターン。
さすがに近頃はあまりありませんが、このように覆水盆に返らないばかりか、盆に返らなかった水がガイドの顔にもかかって残念な気持ちになることがたまにあります。というわけで、今回は連載最終回ということで、お土産に関するしくじり例を挙げて、ダメなケースを極力避けていただく一助になればこれ幸い、という趣向です。
せっかく買ったのに持って帰れない!
旅慣れている方もそうでない方も、刃物は機内持ち込み不可の事実はよく知っているのですが、うっかりケースはいまだに散見されます。数年前までは、「手荷物に入れないように」とあんなに念を押したのに、やっぱり入れちゃった、という包丁コレクターがときどきいました。
刃物全般がNGなので、包丁の他にも華道用のハサミや旅行に便利な折りたためる携帯ハサミとか、日本旅行の思い出になりそうなものが没収危険リストに入ります。ある人は
「この携帯ハサミ、2cmくらいしかないんだから大丈夫だよ」
と、手荷物検査を強行突破しようとましたが、X線の透視力の前にあえなく撃沈した、との報告を後で受けました。
去年、都内の刀鍛冶見学をしたら、その世界に魅せられてどうしても本物の日本刀を買いたくなってしまった人がいました。その人は車を買うレベルのお代を払って正真正銘の日本刀を買ったのですが、まぁ持ち出すのが大変だったのなんのって。もはや飾りではなく“武器”なので当たり前といえば当たり前なのですが、登録証取得に始まり、手続きは続くよどこまでも、でした。ガイドとしては日本刀は心から薦めません(笑)。
また、危なくないものでも、うっかり手荷物検査でひっかかってしまったものとしては、味噌があります。海外にも醤油は結構売っていますが、味噌はあまりないので味噌汁を気に入ったりすると買いたくなる人がいます。味噌ねぇ、まぁ液体かどうか判断に迷うところですが、基本的に「容器がなければ形状を保てないものは手荷物カウンターに預けろ」の法則からいくと、これも機内持ち込みにしないほうが没収の憂き目に合わなくて済みます。
割れ物には要注意!
さて、お土産でよくある失敗といえば割れ物系も要注意。陶磁器、アルコール、つぶれやすいもの、などなど。
最近人気のウイスキー。スーツケースに入れたはいいがパッキングが甘くて全壊してしまい、しばらくは何ともスモーキーな香りの充満したスーツケースを使い続けることになった例をひとつ知っています。それはそれでいいかという気もします(そんなことはないか)。
アルコールほどの大ダメージはないけれど、袋の中で木っ端みじんになっていたという話を聞いたのが、おせんべい。
「機内持ち込みのほうが絶対いいよ」
と言ったのに、かさばるのでスーツケースに入れちゃったため、家に着いたときにはパン粉状態になってたそうです。ちなみに
「もうこれ食べられないかなあ?」
と聞かれたので、
「ここまできたらもっと細かくして、衣としてチキンにつけて焼いたら?」
と言ってみたところ、醤油の香りが生きてとても美味しかったそうで……、これは破壊から生まれた創造、ということにしておきますか。
日本で買ったのに日本製じゃない!
そして最後に、最も取返しのつかない残念なお土産といえば、ツーリストトラップでの買い物にありがちな「日本製ではない」パターン。
怪しい柄の着物などはいかにも“違います”と言ってくれているので親切なほうですが、切り子グラスや漆器など工芸品は原産国に注意。値段くらいしか判断の材料がないので難しいですが、然るべきお店で然るべき値段で買わないと、あとでよーーく見たら何だか雑な一品で偽物疑惑が湧いてきます。
まだまだ失敗例は数多くあるのですが、これからもゲストのチョイスに驚いたり感心したりしながら、通訳ガイドまたの名をお土産Gメンとしての腕を磨いていきたいと思います。
■日本お土産珍百景「Oh! ミヤゲ!?」 バックナンバー
第5回 どこの世界も乾いた心を癒すのは、酒場でやはり同じように乾いているアレだった話
第6回 訪日外国人観光客に影響を与えた映画を取り上げていたら、最終的に映画評論家の水野晴郎先生に思いを馳せてしまった話
第9回 ババンバ、バン、バン、Banned! 湯船ではそれは禁止です