Vol.6 バイリンガル子育ての道は険しい!
我が家のヘタレ例と他家の成功例
/通訳者・坂井裕美さん

バイリンガル子育て成功のパターン

と、このようにして我が家の上の二人は、若干の努力をしてそこそこの日本語力をキープしています(次女に関しては…聞かないでください)。では英国でバイリンガル子育てに成功している他家では何か特別なことをしているのでしょうか。わたくしが補習校内の家庭を見渡した限りでは、成功例にはざっくり分けて2つのパターンがあるように思えます。

パターンその1
親が深くコミットする

このパターンは、国際結婚の家庭だけでなく、純日本人でありながら英国で子どもを産み現地人として生活している家庭でも見られる例でした。このような家庭の特徴は、親が子どもの日本語学習にかなりの時間を割いていることです。例えば、補習校の勉強ですと、親が数時間ピッタリと横についてすべての宿題を終わらせます。中には、自らは出張中であっても携帯電話で毎日必ず国語の教科書の音読をさせるという立派なママさんもいました。働いている親の場合は、疲れている平日の夜や週末に補習校の宿題を一緒にしてあげるという作業はとても苦痛であり、かなりの時間がかかりますので、このパターンを実践するには相当の覚悟と信念が必要だと思います。

この成功例のもう一つの条件は、家で家族全員が日本語を話すことです。もちろん純日本人家庭がこのパターンの典型例ですが、逆に、英語が苦手な日本人ママと日本語が堪能なイギリス人パパさんという珍しい家庭も数家族ありました。

余談ですが、せっかく補習校に通わせているのに、子どもとの会話は英語という日本人ママさんも少なからずいて、これはもったいないなと思いました。おそらく子どもに日本語で話すと意味を十分に分かってもらえず、不便なので段々英語になってしまったのでしょう。

パターンその2
日本語および日本人としての意識を確立させてから外国語圏に移住

私から見ると、これが最も羨ましいパターンです。補習校の中を見ても、本当のバイリンガルに育っているのは、例えば小学校卒業くらいまでは日本で日本の小学校に通ってからイギリスに移住してきた子どもたちが多いように感じます。この中には、国際結婚や英国永住の純日本人家庭だけでなく、在英期間が長い駐在員家庭の子どもたちも含まれます。このような子どもたちは、渡英後に親が上記ほどの壮絶な(!)努力をしなくても日本語能力を維持し、英語の方もゼロから始めた場合でさえもたいてい数カ月でかなり流暢になってしまうようです。

ロンドン補習校では図書館の本の貸し出し業務は父兄が担当するのでわかるのですが、やはり同じハーフ児でもしっかりと日本の小学校に通ってから渡英した家庭のお子さんは、借りる本のレベルが違います。ときどき「これ本当にあなたが読むの?」と聞いてしまうことすらありました。日本語の本を読む楽しさを日本で既に身につけているのは、何よりも大きな宝です。このような子どもたちは、単に言語的にバイリンガルであるだけでなく、二つの国の文化を身につけたバイカルチュラルでもあり、いわゆる日本の国際化にとってはそこが大切なのだと私は思います。

まとめますと、私の個人的な見聞や経験から、日本の一般家庭や国際結婚をした日本人家庭におけるバイリンガル教育については、少なくとも以下の3つのことは言えると思います。

*国際結婚の家庭に生まれただけでは、子どもは自動的にはバイリンガルにはならない。
*どうしても子どもをバイリンガルに育てたい場合には、親は相当の時間と労力を費やす覚悟を持って臨む必要がある。
*バイリンガル・バイカルチュラル人材の育成のためには、幼児期から外国語教育を始めるより、ある程度母国語が確立されてからの方が望ましく、おそらく効率も良い。

まずは第一言語でいい!

私個人は、自分の時間の大きな部分を子どもたちの日本語教育に捧げる気がまったくなかったため、子どもたちはバイリンガルにはなりませんでした。それでも実は大きな後悔はしていません。というのは、子どもたちが大きくなって自発的に「日本語を勉強したい」と思った時点で本気で勉強し始めても遅くはないと信じているからです。そしてもし一生やる気にならなくても、彼らの人生なので本人たち次第だと思っています。

それからもう一つの理由は、子どもや若者にとって第二言語学習よりもっと大事なことがあると感じているからです。通訳の仕事をしていると、単に外国語が話せるということよりも、話す内容をしっかりと持っていて、それを論理的に話せる能力があることのほうがはるかに大切だと感じることが少なからずあります。小学校から英会話の授業を必修にするよりも、その時間を使って子どもたちの第一言語をしっかりと固め、第一言語における論理的な思考能力を育むことが、結局は日本を「国際化」させるための近道なのではないかと私は思います。ですから、最後に心からこう叫ばせてください。
「日本のみなさん、まずはお子さんの日本語力を伸ばしてあげてください。英語はそれからです!」

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