第6回 海外のエージェントについて その2

8.サポートについて

海外のエージェントは「日本のエージェントに比べてサポートが雑なイメージがある」とのことですが、日本にも振りっぱなしのエージェントはいますので、ケースバイケースでしょうか。海外のエージェントと一口に言っても、会社によってかなり差があります。日本よりもしっかり対応してくれる海外エージェントも少なからずあります。日本のやり方とは違うけれども、合理的なやり方できっちりやるエージェントはいくつもあります。

どのくらいエンドクライアントから情報を取ってくれるのか。なかなか思ったような資料がタイムリーに揃うことはないので苦労するところですが、本当にプッシュしてる?と思わせるようなときもあります。どれだけプッシュしても本当に出てこないときと、口ではそう言いながらお客さんに嫌われたくなくて実はプッシュしていないときと、両方あるのではないでしょうか。

とにかく大切なのは、肝心な情報・詳細が、ちゃんと手に入ること。もちろん時間に余裕をもってもらえるのがベストですが、実際はなかなか入ってこないことが多いですよね。入ってきたら入ってきたで、修正や追加が当日まで何度も入ったり……。これは私の考えですが、エージェントから締め切りを言い渡せるということは、私たちのほうから資料譲渡の期限を言い渡してもいいと思います。

イギリスのエージェントは、良くも悪くも日本のエージェントのような細やかさは期待できないものの、通訳者の基本的権利については日本よりも心得がある気がします。つまり日本なら、ややもすると、通訳者が終始飲まず食わずでも何とも思わず、トイレの必要性すら考慮していない、通訳者に対しリスペクトのかけらも感じられない対応をする顧客(通訳エージェント以外)もいると思います。こういう時にはエージェントが入っていって顧客教育をするべきだと思います。

ですが日本では、まだまだ自分たちが払っている側=お客様=神様、という図式が当たり前。自分にとってのお客に必死で、すり寄っていく、必死すぎるがゆえに、資料を請求する度胸もない。このように搾取の構造が染みついている人の場合、この他にも考えが及んでいない、調整できていないことが発覚する可能性は高いと感じます。

エージェント(現場で連携しているエンドクライアント以外の担当者)から「行くならこのタイミングで行ってね」と言われることはあっても、トイレに行くのは生理現象ですから、行くなとは言えないはず。急に体調を崩してどうしても離席しなければならなかったとしたら、トイレまで追いかけてきて急き立てられるということは、さすがにないでしょう。日本では、まだ ‘mutual respect’ というレベルまで社会的意識が到達していない。労働者に対する意識が成熟していないのでしょう。

多言語(欧州在住)の通訳者であれば、理不尽な態度を取られたら黙っていない。はっきりと言い返すでしょうし、自分がないがしろにされていると思ったら迷わず立ち去るかもしれません。徹底してナンセンスには付き合わないと思います。
海外のエージェントから、無理なことを要求されることが無いわけではありません。ただ、本人に無理を言っている自覚はありますし、ダメ元で訊いている感があるので、無理だと思ったら受け入れなければいいのです。うまく断る技術が役立ちます。
エージェントで、いくら雇い主サイドだと言っても、基本的な権利は守らなければいけませんし、通訳者にも生活があることはわかっているので、労働条件、安全に関して日本と比べると常識が通じやすい、日本よりも主張しやすいと思います。逆に平気で通訳者をないがしろにするようですと「悪事千里を走る」と言うように通訳者同士で評判になるでしょう。じきにビジネスが立ち行かなくなると思います。

9.どのくらい直接エンドクライアントに接触しなければならないか

これは日本のエージェントでも海外のエージェントの仕事でも同じだと思いますが。エンドクライアントにどれだけ(時間・量)サービスしなければならないか、期待されているか、というのは難しい問題です。エンドクライアントから「電話でタクシーを手配するのを手伝ってほしい」と言われたのに「それは通訳の仕事ではありません」と断ってしまうとしたら、柔軟性がなさすぎ、サービス精神がなさすぎかと思います。通訳の仕事かどうかよりも、人としてどうかと思ってしまいます。朝食や夕食に同席してほしいと言われることもあります。これは、その日の終わりが遅く、次の日の朝が早いなら誠実に断ればいいと思いますし、ケースバイケースで対応したらいいのではないでしょうか。

ただ、食事の際に通訳が発生するのかどうか。発生するなら料金が発生することを事前に話をつけておくこと。そうでないなら、同席しますが通訳はしません、と伝えることも必要だと思います。かといって、私は出血大サービスする必要はないと思います。通訳者が直接エンドクライアントに過度に接触することは、エージェントが日本でも海外でも嫌がるのは同じ。なので、現場での通訳業務最中以外は、必要以上に接触しないのが、私はいいと思います。

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