第10回 日本のカレーライスは溶岩ごはん?

日出ル国はアレンジ天国

「はぁ~これもニセモノか~」

ある日、デンマークからお越しのファミリーと新宿御苑を歩いていたときに言われました。何を見てお父さんがニヤリとしながら言ったかというと、偽エンパイアステートビルとして名高い(?)ドコモタワーです。

どういう意図があってあそこまで似せているのか私には全く分かりませんが、酷似しているのは確かです(ただし、あのビル、50階相当の高さがあるっていうのに実際にオフィスや通信設備などの機械室として使えるのは25階までで、それより上は通信用のケーブルと支柱のみの空洞構造)。

お父さん曰く、
「さっき行った東京タワーもしかり、日本って本当にまねするのが上手いよね」
とのこと。資源に乏しい国は加工貿易にすがって生きるしかないと中学の社会の授業で習いましたが、確かにそれを体現しつつもオリジナルを作り出しているのが現代日本のカルチャー。

それは、味の面でも顕著です。まずラーメン。英語で言えばChinese noodleですが、中国の「麺」と日本のラーメンは別物。次にことさら謎の多いナポリタン。イタリアじゃなくてナポリという絶妙なピンポイントさにうっかり騙されそうですが、現地に行って、
「ナポリタン、グラッチェ」
と言っても絶対出てきません。これも当然日本オリジナル。もう一つよくある食卓の日本オリジナルといえば、そう、我らが国民食カレーライスです。

スーパーのカレーコーナーは立派なお土産屋さん

最近は旅行者の間でも日本人は寿司や天ぷらを毎日食べていると思っている方々はさすがに少なくなってきました。これまで何度となく、
「それじゃ1年365日バースデーパーティしないとね」
というツッコミをしたことか……。ジャパニメーションや漫画が浸透した影響なのか、“フツーの日本人がフツーに食べているもの”の情報も知られるようになってきました。

その代表格がカレーライスです。すると彼らも私達が普段食べているものを旅行中にトライしたいということになるので、どこが一番美味しいかを店名にしている某カレーチェーン店(店名をぼかすのって難しい……)や東京が誇るカレータウン・神保町に連れて行ったりします。

一緒にカレー店に入って実食の段階になると、口を揃えて彼らがいうのが、
「何か違う…」

curry_01あるとき、スウェーデンからやって来た4人家族の12歳のお兄ちゃんが、ごはんに自分でカレーをかけつつ、その様子を凝視しながら、
「お父さん、ソースが止まってるよ? 溶岩みたいだよ」
と不思議そうにつぶやいていました。止まってる?? 私としては斬新な発想だと逆に驚かせられましたが、言われてみれば確かに止まってる(笑)。スープ感満載の本場インドのカレーとは別物ですからね、彼らの違和感も納得。でも幸い、一口食べた後はいつも好評なので、どんなに溶岩が止まりそうで怪訝な顔をされてもガイドは気にしません。

さらにトッピングのカツを乗せてカツカレーを食べた場合は、より日本オリジナルメニューとして認識してもらい、これはできることなら自分でも作ってみたいと喜んでいただけるので、たとえ連日ランチがカレーになり、キレンジャーのような食生活になったとしても、ガイド冥利に尽きるというもの。

curry_02こうなるとお客様達はいよいよ帰国後に自分で作ることを考え始め、一緒にスーパーに行くことになります。実際、スーパーのカレーコーナーに行ってみると、カレールーなるこのうえない便利アイテムがずらり。そのバリエーションの多さについては言わずもがな、さらに、
「具材を煮込んで、この四角い黒い塊を鍋に入れてちょっと煮れば出来上がりだから」
と説明すると、
「はぁ~便利なもんだねぇ」
と小声でつぶやきながらひとつ箱を手に取ってみては、
「この塊6個で何皿作れるのか」
と質問をしてきます。フリーズドライと思い込んでいて、
「煮たら爆発的に量が増え20皿分くらいできたら困る」
と心配した人もいました。そんなに増えないって(笑)。

また、私のメイン顧客である北欧の皆さんは、カレールーの近辺にある白いルーに引っかかることもあります。あっちは鮭のクリームスープが名物なので、確かにホワイトシチューのルーがあったらすごく楽です。

というわけで、コンパクトで持ち運びに便利、日持ちがする、かわいいお値段と3拍子揃ったカレールーは、お土産としても大人気なのでした。お買い求めの際には重要な注意事項もちゃんと伝えないと。歯のブリッジ矯正中は詰まっちゃうからダメよ、放っておくとお皿がガビガビになっちゃうからすぐに洗わないとダメよ、と。

最後に、ちょっと日本語が読めて、ちょっと日本のこともシッテマースというフィンランド人とカレールーを買いに行ったときのことを。その方はカレールー棚の隣に「ハヤシライス」のルーを見つけ、
「これは何だ?」
と聞いてきたので、
「ハヤシって人は開発した人の名前で、味はカレーの親戚みたいなものですよ」
と説明すると、しばし考えこんだ後に質問が。

「じゃ、スズキライス、タナカライスもあるわけ?」

ああ~だんだん面倒くさくなってきました……。