
第5回 海外のエージェントについて その1
今回は、他の方からちょくちょく質問される海外のエージェントについて取り上げます。主にイギリスのエージェントについてですが、アメリカやその他の国にある会社の場合も含めてお話したいと思います。
海外のエージェントについてどんなことが気になるのか、関心があるのか、数人ずつ通訳者や業界関係者に事前に質問してみました。それに沿ってご紹介していきたいと思います。
まず、海外のエージェントと聞いて、共通して浮かび上がってきたのが、「海外(英国)のエージェントがそもそも、どういう仕組みになっているのか、どういう感じでやっているのかわからない、気にはなるけど、最初の1歩が踏み出せない」というもの。そう感じている通訳者は多いのではないでしょうか。
海外のエージェント経由の日本在住者向けの案件ですが、たまに「日本の通訳者を知らないか」と相談されることがあります。逆に、日本からこちらにやってきてする仕事があるかというと、こちらでは日本と比べれば案件数は多くありませんし、日本で報酬を受ける活動に従事する場合は、短期であればビザが免除されていますが、観光ビザで入国してこちらのエージェントに仕事を振ってもらうことは違法で、ビジネスビザの申請が必要になると思います。
1.最初にどのように縁を見つけるか
私自身はイギリスに友人が一人もいない状態で移住してきましたから、ツテもコネもありませんでした。(詳しくは第1回)なので、最初はネットでエージェントを検索してコンタクトを取りました。どこでもよかったわけではなく、怪しくなさそうなところ(!)にコンタクトし、一つずつ関係を構築していきました。
今では、エージェントの方から「〇〇のダイレクトリで見つけた」「△△さんから紹介された」など、先方から連絡が来ることがほとんどで、自分から登録をお願いするようなことはありません。エージェントの数については、市場にどれだけあるのかはわかりませんが、私の登録件数は80カ所もありました。
80というのは、基本的に、一見さん、そして得意先のエージェントまでを合わせた数です。なかには、流れから登録することになったけれども、一度も仕事が来たことがない、例えば相見積もりの段階で敗北したとか案件が消滅したというエージェントも若干数あります。なお、直受けの顧客はエージェントを介していないので数に入っていません。
エージェントのオフィスの所在地もイギリス・日本はもちろん、アメリカからドイツ、イタリア、スペインなど。またイギリス・ドイツ・スペイン・アメリカなど複数の国にまたがって拠点を持っているような多国籍の会社で、その規模も大きくグローバルなエージェンシーまであります。こぢんまりとやっている会社とグローバル展開している会社とでは、それぞれ大きな特徴があります。これについては、後述します。

Royal Liver Buildingのライヴァーバード(リバプール)。イギリス国内でもいろんな所へ
2.登録時の面接と採用方法
ヨーロッパという土地柄から、エージェントが扱う言語ペアの数も圧倒的に多く、規模もワンマンバンドから三桁、四桁の社員を抱える大規模なエージェントまで実にさまざま。仕組みについては、日本同様に通訳と翻訳と、両方やっている会社、翻訳だけ、あるいは通訳だけしか扱わない会社もあります。自分から申し込んで登録するパターンと、エージェントのほうからコンタクトがあって登録する場合とあり、前者は日本とあまり変わらない気がします。
では、何か違うことがあるかというと、まず登録の手続きです。会社によって、メールと添付資料のやり取りで済むようなシンプルなものから、スキルチェックはもちろん、オンラインあるいはオフィスでの説明会や研修(長い!)のあるところまでそれぞれです。ときどき、登録後も定期的にリフレッシュトレーニングのようなシステムもあるようですが、それはあまり一般的とは言えないと思います。
スキルチェックは必ずしもあるわけではありません。各種登録資料をやり取りする中でそれ以上は求められず、すんなりと登録・契約となるところもあります。ただ、登録プロセスの一環として電話でスキルチェックをされたり、登録してしばらく経っていても電話通訳などの場合は抜き打ちでパフォーマンスチェックしているところもありました。アメリカ系の大きなエージェントのなかには、かなりシステマチックな会社があり、スキルチェックも開発されたシステムを使い、研修もオンラインのものと、対面とあり、数回経てやっと登録なんていうこともありました。正直、途中で何度かやめようと思いましたが、乗り掛かった舟なのでやり切りました…。
3.危ないエージェントの見分け方
また、会社として実在しているか、そして安定して事業を営んでいるかどうかも重要かと思います。危険なのは、安定して営業しているように見えても、支払いに関しては悪質な会社もありますし、立ち行かなくなると倒産して、またすぐに名前を変えて復活する…を繰り返しているエージェントもイギリスにはあるので十分に注意が必要です。
最初に聞かされていた内容と話が徐々に変わってくるとか、他の通訳者にしている話が違うということは大いにあり得ます。相手を見て話している、相手によって話を変えているとしか思えないようなこともありました。通訳者同士で話が違うなら、お客さんに約束した内容と通訳者への指示内容が違うことも当然あり得るのでは?と不審に感じずにはいられません。
まあ、そんな詐欺みたいなところばかりではありません(笑)。ただ、駆け引きはありますし、大なり小なりそういう側面があると思いますので、そこは覚悟の上、proactiveな姿勢で、やり取りすることが重要だと思います。

夏至の日のスコットランド。ハイランド北端では真夜中過ぎでも明るい。