
Vol.3 “ハーフ”でも何もしなければ“バイリンガル”には育たない/会議通訳者・エバレット千尋さん
「ハーフちゃんだと、勉強しなくっても英語が話せていいね!」
日本では毎日のようにこの言葉に出会いました。私の主人はオーストラリア人です。純潔日本人で留学経験ゼロだった私がゲットした「英語ネイティブ」のオージー・ハズバンドは、家庭でも英語を使う理由を与えてくれる、とてもありがたい存在です。
だからといって、そんな2カ国語の家庭で育つ子どもが放っておいても「バイリンガル」に育つわけではありません。私には大学生の娘と高校生の息子がいます。娘は英語と日本語の「バイリンガル」ですが、息子は英語はできますが、日本語はなんとか話せる程度の「セミリンガル」です。とはいえ、2人ともそれなりに「日本語」と「英語」を切り替えて話していますし、それぞれの言語を母国語としない人から見ると、バイリンガルなのかもしれません。
放任主義の私ですが、何とか子どもたちが両言語を駆使できるようになったのは、少しの努力と恵まれた環境があったのだと思います。
今回は自身の経験から、子どもたちがバイリンガルに育つまでのその少しの努力を紹介したいと思います。
サザエさんのような英語の絵本

「Oxford Reading Tree」はイギリスで定番の子どもの国語教科書。
私の子どもたちは2人とも日本で生まれました。娘が生まれたころ通訳学校で学んでいた私は、子どもには自分のように英語で苦労させたくない、バイリンガルに育てたいと思っていました。
とはいえ90年代当時は、インターネットはおろか、周囲に英語メディアはほとんどありません。そのため家庭での会話は英語にし、毎日のようにイギリス人の友人からもらった英語教育用の絵本シリーズを読み聞かせていました。
幼稚園年長から小学校高学年までを対象としたこの絵本シリーズは、サザエさんのように家族やその友人の何気ない日常が綴られたストーリーで、「読み聞かせ」から「独り読み」まで教えることを目的としたものです。自分と同じ年代の登場人物が何度も出てくるため、子どもたちが共感しやすいものになっています。とはいっても、やはり教育用絵本。何度も繰り返すと、中には飽きてしまうものもありました。
娘がはまった「ダイナソーごっこ」

「Land Before Time」はアメリカのアニメ映画で日本では『リトルフットの大冒険』として公開されたもの。娘が3歳の頃にはまっていた。
一方で娘がどっぷりはまっていたものがあります。アメリカ人の友人が紹介してくれたアニメ映画『Land Before Time』(日本では「リトルフットの大冒険」として公開)でした。恐竜の子ども達が冒険を繰り広げるこの映画に娘はすっかり夢中になり、気がつくとテレビにかじりついて見ていました。
自分も登場する「ダイナソー」になりきっていて、好きな場面では恐竜たちに合わせて感情表現たっぷりに台詞を言ってみたり、一緒に挿入歌を歌ったりしていました。お母さんごっこならぬ「ダイナソーごっこ」で家中を引きずり回されたのもこの頃です。
昼間は公立の保育所で普通の日本人の子どもとして過ごし、帰宅すると私の「ジャパリッシュ」とダイナソーにどっぷり浸かる。そして夜は主人の読み聞かせ。その甲斐あってか、主人を独り日本に残しオーストラリアに留学した頃には、連れてきた3歳の娘は「英語」を自分の言葉として使っていました。