第4回 在イギリス 日英通訳者の出張事情 海外編

英語だけでは不十分だと痛感することも

海外で通訳をしていると「通訳者として英語だけでは不十分」と感じることが多々あります。これは欧州ならではの事情だと思いますが、欧州では「通訳者は外国語をいくつも挑戦していてなんぼ」みたいな雰囲気があります。ほかから見れば「そんなにいくつもできるなんて、どれも中途半端なのでは?」と思われそうですが、欧州ではそうではありません。このあたりは、第1回の記事「日本と違う?!イギリスの通訳事情」でも触れたとおりです。
もちろん、完全バイリンガルに対する判断基準は厳しく、通訳者としてダブルA(例えば英語も日本語もA言語として判定してもらう)のは、ものすごく厳しい。両言語母国語というだけでは認められません。「それではまだまだセミリンガル」というレベルの人が沢山いるということですね。
その反面、外国語としては英語しか話せないと、「ちぇ、英語しか話せないのか」と思っているのが相手の表情にありありと出ます(泣)。どこへ行っても現地の言葉を学んだほうがいいという気持ちにさせられるのです。

ちなみに私はイタリアにほぼ毎月行っていますが、ここのところ行くたびに「イタリア語は覚えたか」と現地の人たちに突っ込まれるので、少しでもイタリア語を勉強したほうがいいだろうか…と目下悩み中(汗)。通訳ができるレベルではなくとも、現地の言葉で渡り合おうと努力することは、仕事の全体的な成功度にも違いが出るような気がします。
それだけではなく、仕事が終わってタクシーで空港まで帰るなんていうときにも、現地語ができたほうがいいことを実感します。タクシーの運転手さんはどこの国に行っても、英語が通じる人もいるけれど、通じないことも多い。私のイタリア経験では2勝1敗くらいの割合で英語がアウトなので、そんな時は限られたフランス語でやっとどうにかなったということがありました。

ヴァチカン市国にて。

ヴァチカン市国にて。

費用建て替えは大変でも、出張は通訳者の醍醐味!               

海外出張で大変なことの一つは費用です。直受けのお客様は別ですが、エージェント経由の仕事の場合、航空券も宿泊費も、まずは通訳者が立て替えることが多くなります。問題は、立替から支払い清算までの期間が長いこと。私の経験では、日本のエージェントは月末締めの翌月◯日や翌々月払いが珍しくなく、航空券も宿泊も事前に手配することを考慮すると、回収までに軽く2~3カ月かかることも珍しくありません。

こういうことが、1ヵ月に数件あると考えると、懐事情が辛くなってくるわけです。まとまった軍資金を常日頃持ち合わせていないと回らない。潤沢に余剰資金が準備しておけるならいいのですが、所詮個人ですので、大企業のようなわけにはいきません。現地のエージェントの場合は請求書の提出を「月末締め」など特定していないことは珍しくなく、請求書を受けた日(あるいは記載された発行日)から30日以内などが多いと思います。
現地のエージェントの場合は、交渉次第の部分がありますが、食事代などを「立替清算」ではなく日当(PerDiem)として定額にしてくれることがあります。レシートの提出など煩雑な手間が少しでも省けるので私はこのやり方が好きです。会社によっては、陸上移動など諸々の経費も、全部コミコミで見積もりを出してくれと言ってくるところもあります。これはこれで、一長一短ありますけれど。

このように大変なこともありますが、欧州で通訳をしているおかげで、いろいろなところに行けるようになったのは何よりうれしいことです。お客様をはじめ取引先との付き合いはもちろん、現地で出会う人々や味覚、景色など。この仕事がなかったら出会うことがなかったすばらしい体験の数々。仕事中は悲喜交々でも、これが励みとなり続けていられるという面もあります。
大きなプレッシャーを感じて冷や汗タラタラ、終わればヘトヘト、脳はオーバーヒート。ふと気付けば、鏡に映る自分の顏は3歳老けて、頭はボサボサ。けれども3日やったらやめられない。出張途中に垣間見る景色など、何ものにも替えがたい。場所が変われば、国が変われば、嫌でも気分転換になる。通訳という仕事には付き物の出張が、実はこの仕事のご利益なのではないか、とすら思っています。

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