
第8回 マルハ実践編 ~ リゾートマンションは買いか?
「マルチハビテーション」略してマルハ
僕は今、道路標識もロシア語併記という日本最北端の地、稚内(わっかない)にいる。仕事の柱の一つであるサッカー関係の翻訳が欧州のシーズン終了に伴って一段落したので、愛犬ベックを連れてフェリーで北海道までやって来たのだ。
これからオホーツク海に沿って南下し、知床や根室を攻めるつもりだが、その前に現地情報を仕入れておこうと、すっかり道民になってしまった友人と落ち合った。すると、ノマドファンでもある彼はコラム用に写真を撮ってくれると言う。どうやら少し勘違いしているようだ。仕事しているわけでもないのにPCを広げてポーズだけとる、という“やらせ”は趣旨に反するのだが……でもせっかくの好意をむげにはできないので撮ってもらった。
前回も書いたように、車で旅しながら仕事するという自家用車ノマドは宿泊費がかからずコスト的に安上がりな半面、大きな欠陥がある。電車で旅する場合と違い、移動中は仕事できないのだ。特に北海道は移動距離が長くなりがちで、その上「こんな場所にはめったに来られないからここにも寄っておこう」となってしまい、なかなか落ち着いて仕事に取り組めない。
やはりノマド仕事は自宅仕事に効率でも作業時間でもかなわない。そこで始めたのが「マルチハビテーション」略して「マルハ」、腰を据えて仕事できる拠点を複数設けるというスタイルだった。僕の場合は東京の自宅に加え、越後湯沢で格安リゾートマンションを購入し、作業場として利用している。
リゾートマンションでの「マルハ」
第4回で説明したように、この地域のリゾートマンションは主に需給バランスの崩れ、簡単に言うと、買い手がつかなくなったことによる値崩れが激しい。“販売価格”10万円のマンションもネット不動産で普通に出回っている。テレビやネットでも折々取り上げられ、大抵は「絶対に買ってはいけない」と結論付けられる。
10万円だから廃墟のようなマンションだと、勝手に決めつけられる。恐らく現地へ取材に来るわけでもなく、適当な推測で書いているのだろう。友人を誘っても怖がって誰も来てくれず、これまでに来てくれたのは妹家族だけだ。
だが実際に購入し、住んで2年以上になる僕が断言しよう。決して廃墟なんかではなく立派な住居なのだと。駐車場から国道へ出る時は毎回、「オレこんなゴージャスなマンションに住んでるんだぜ」とウインカーを出しながら、十分入っていけるのにわざわざ何台かやり過ごしてサングラスをかけたつもりの“成功者”フェイスを庶民に拝ませてあげようとしてしまうほど、今なお高級感を醸し出しているのだと。いかんせん車が大衆車なので、ほんとはこっちも庶民であるのはバレバレなのだが。


(窓の景色:夏と冬)
価格10万円というのも、諸費用はかかるがウソではない。僕の場合は物件価格が60万円で、中古なので消費税はかからないものの、仲介手数料が3万円、登記手数料が8万円、登録免許税が7万円、不動産取得税が15万円ほどかかった。合わせて初期費用100万円弱。物件価格10万円なら、諸費用込みで35万円程度だろう。
マンションがこんな驚きのプライスで自分のものになってしまう上、東京から2時間程度で自然豊かな環境まで得られてしまうのだから、特に平日もバンバン利用できるフリーランスなら買わない手はないのではなかろうか。しかも普通のマンションにはない大浴場にサウナ、プールといった設備も備え、こもって翻訳に打ち込むには持ってこいだ。
何度も通っていると飽きそうなものだが、今のところ全く飽きていない。東京の騒々しさが嫌になると、あるいは狭い自宅に僕がこもって仕事をしていることでそろそろ妻のストレスが高まってきたなと感じると、ベックを連れて関越道に飛び乗る。そして閑散とした平日の湯沢のマンションでテレビも一切つけることなく、翻訳に没頭する。騒々しさが少し恋しくなると、また“下界”へと降りていき、しばらく顔を合わせていなかった家族の歓迎を受ける(ただし歓迎されるのは僕よりベック)。このサイクルがうまく回っている。
(下界を望む)
仕事がはかどり、家庭も幸せになる“マルハ”のために最適なリゾートマンションを、なんと10万円でご提供!さらに今なら、「湯沢おいしい店ガイド」もセットで付けちゃいます!!……僕が不動産会社の回し者なら、格安リゾートマンションのメリットだけを並べた末に、こう言うだろう。だが決して回し者ではない。ここからはデメリットを徹底的に挙げていこう。