第6回 ルーティンを大事にする

心のルーティンを作る

脳外科医の林成之氏は『<勝負脳>の鍛え方』で、メンタルのトレーニング方法を紹介していますが、これは心のルーティンを作るという意味で役立つので、これを通訳の文脈で説明します。

1:危険を避ける行動を心がける
外科医は常に危険状態に追い込まれないことを意識しているそうです。

たとえば、目の前にお茶を入れた湯呑みがあって、その先50センチのところにある辞書をとろうとする場合、多くの人はそのまま手を辞書に伸ばすでしょう。もちろん、それで何の問題もありません。しかし、プロの外科医はそうはしません。手を伸ばした際に袖が湯呑みに触れて倒れてしまう可能性を考えて、湯呑みを先にどかせてから辞書に手を伸ばすのです。(『<勝負脳>の鍛え方』林成之著)

これは通訳者にもいえることです。たとえば私はブース内の机に出す物は最小限に抑えています。隣でガチャガチャするとパートナーの邪魔になりますし、3人体制の案件の場合はブースに出たり入ったりしなければならないので物が少ないほうが良いです(通訳中はすべての音を拾おうと集中しているので、隣で物を落とされたりされると、とても気になります)。イヤホンのコードとマイクのコードが絡まらないように整理し、水のボトルも倒さないように機材から離れた場所に置きます。一度、長いマイクのコードに足を引っ掛けて転倒した通訳者がいました。ケガはなかったのですが、機材がしばらく使えなくなりクライアントに迷惑をかけました。こういうことがないように注意しなくてはなりません。

2:緊張しない集中力
私は若い頃に柔道をしていたのですが、乱取りで全身に力が入りすぎていた私を見て道場の先生は「もっと力を抜け。力を抜かないと相手の動きがわからないだろう。」と言いました。白帯だったときはこの意味がまったくわからなかったのですが、練習を重ねて有段者になる頃には、全身に力が入るのは極度に緊張しているから、そして緊張しているのは集中していないから、ということが理解できるようになりました。あれこれ心配せずに、今おかれている状況を受け入れる。すると肩の力が抜けて、自然に集中力が高まってきます。開始前の3分前はこれを行う時間と言ってよいでしょう。

3:決断と実行
同時通訳は一定の妥協がなければできない仕事です。ですからそれを素直に受け入れて、たとえ80%の訳でも決断したらそれにコミットする覚悟が重要です。決断できなければどんどん遅れてドツボにはまってしまいますから、自分の不完全さを認めてミスを覚悟で訳していかなければなりません。

4:姿勢
林氏は「いつでも真上に飛び上がれる状態の姿勢」を心がけていると述べています。この姿勢をとると、運動時に体の軸を作る上に、長時間続けても疲れにくいので集中力が持続するようになるとのこと。長時間の同通案件でも、適度にブースの外に出て体を伸ばすことも大事だと思います。

(※林氏は理想的な視線についても紹介していますが、外科医と同時通訳者は視界のレンジが異なるので省略しています。興味がある方は彼の著書を読んでください)

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