
第4回 翻訳者、リゾートマンションを買う
悩む暇があるなら仕事しよう
久々にやって来た越後湯沢。以前輝いて見えたマンション群も、今の相場を知ってしまったからか、たそがれて見えた。バブルの遺構、あるいは残骸。そんな印象を受けた物件も確かにあった。だが、それは一部にすぎない。
湯沢地区のリゾートマンションの価格が暴落したのは、「手放したい人(供給側)はたくさんいるけど買い手(需要側)がつかない」という需給バランスの崩れによるもので、建物自体の価値がなくなったためではない。つまり、「オンボロだから安い」というわけではない。高い管理費を徴収しているだけに、フロントはちょっとしたホテルのようで、大浴場やプールも立派で掃除が行き届いている。「失われた20年」を経た今もバブリー感を十分かもし出している。
(リゾートマンションの外観、ロビー、大浴場)
フリーランスには「機会費用」という概念が欠かせない。スマホのゲームをするのは無料でも、例えば1時間遊んだなら、1時間仕事をしていれば稼げたはずのお金(例えば5千円)が貰えなくなるわけだから、5千円を払って遊んだのと同じということになる。簡単にいうと Time is Money である。本当に今は買い時なのか。もっと安い物件はないのか。そんなふうにくよくよ悩むぐらいなら、スパっと決めて仕事に集中したほうがいい。今の自宅も探し始めてから3日で購入を決めたし、車は即日決めた。そして今回も内覧の翌日には決めてしまった。単に押しに弱いだけなのかもしれないが。
価格は60万円。約36平米で、実質12畳の和室とキッチンという間取り。築二十数年だが、部屋は年数回しか使用されず、前オーナーさんが綺麗好きだったためか「超美品」である。越後湯沢駅から少し離れているものの、地下のスキーロッカーから板を履いたまま行けるゲレンデが隣接している。大浴場、プール、ちょっとしたジム、卓球・ビリヤード台、さらにはテニスコートやバーベキューガーデンを備え、スキーシーズン中はレストランも営業している。
(リゾートマンションの室内)
フリーランスの積極投資
今の日本経済は、僕が大学を卒業した頃に比べればマシになったものの、日銀などがいくらテコ入れに動いても伸び悩んだままでいる。それは一つには、大企業が余っているはずのお金を、長期的な成長に不可欠な「投資」へ十分に回そうとしないからではないだろうか。
ならば、フリーランス単騎で先陣を切り、積極投資に打って出てやろうではないか。投資といっても不動産投資ではない。翻訳や勉強に集中できる環境をつくり、生産性を上げ、今まで以上に稼ぐための投資である。
そして、僕が社会に出る前に弾けてしまったバブル。あれから二十余年。今こそ、そのおこぼれに預かってやろうではないか。そういった思惑を胸に、庶民の僕はリゾートマンションの売買契約書にあっけなくサインした。売主は発売時に2060万円で購入したという富裕層の未亡人だった。
(マンションの窓から)
人は言う。「越後湯沢辺りのリゾートマンションは絶対に買ってはならない」と。いちいちごもっともだと思う。一般論としては。しかし、人と違う道を行くノマド翻訳者に、一般論など通用しない。そして、残りたかだか数十年の人生、リスクばかり考えていては迷っているうちに終わってしまう。40にもなって「いつか」なんてない。Now or Never である。
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東京と越後湯沢。各地を旅しながら仕事する「ノマド」を中心としていた僕のワークスタイルに、複数の拠点を行き来して仕事する「マルチハビテーション」が、こうして新たに加わった。