第47回 生と死を考えるきっかけに

21.
彼は今日までこの家には入ったことがなかったし、方向音痴だったので、あちらこちらと動く必要がなかったのは運が良かったのだろう。とは言え、家の間取りをよく知らないのは心もとなく、そうした状況をなんとかしてくれる連れもいないと、彼にできることはほとんど何もなかった。

<コメント>方向音痴というわけではなく、初めての旅館の中とかだと勝手が分からないというあれです。間取りは間違いではないのですが、ここではちょっと浮いているかなあ。状況の部分はさらっと訳した方がいいです。
<余談>京都はいいですねえ。僕は高校の修学旅行で行ったきりです。生きているうちにもう一度くらい行ってみたいものだなあと思います。

22.
彼は今日までこの家に来たことがなく土地勘が無かったので、何度もあちこち出歩かずに済んだのは恐らく思いもよらない幸運であった。それでも、周辺の地理についてよくわかっていないことに不安を感じたが、その状況を改善するために彼一人でできることはほとんど無かった。

<コメント>これだとこの家にくるまでの話になっちゃってるんですね。ちょっと問題の出し方も悪かったかな。ただthis houseという時点で既に家の話になっているんですね。あとはthe placeとか。だから基本的に物語は家の中の話なんです。その意味で、ちょっと全体の意味が違っちゃいましたね。でも最初はこんなもの。めげずにがんばってください。
<余談>地味にがんばりましょう。間違った数だけ実力が付きますから。

23.
初めて踏み入れた屋敷は、方向感覚がほとんど通用しなかったから、大して動き回らずに済んだのは幸いだった。とはいえ未だに屋内の地理を把握できていない事が、彼を不安にさせた。結局のところ、彼一人の力で情況が好転するとは思えなかった。

<コメント>少し意訳しすぎかも知れません。「this house」のthisというニュアンスは出した方がいいんですね。 あと副詞が「大して」「未だに」のように漢字のままですが、このへんは開いた方がずっと読みやすくなります。特に今回のような軽い小説の場合には。「屋内の地理」はさすがに分かりにくいです。
<余談>良かったですね。これからも地道に応募してみてください。

24.
この建物に入るのは今日が初めてだった。自分がどこにいるのかもよくわかっていなかったから、あちこち動きまわる必要がなかったのは幸いだっただろう。方向感覚がつかみきれていない場所にいるというだけでも落ち着かないが、付き添いもいない彼にできることは限られていた。

<コメント>最初は一文ですから、そのまま一文に訳した方がいいと思います。「建物」というと、何となく家かオフィスビルか分からないのでここでは「家」とか「屋敷」とはっきりした方がいいです。「どこにいる」は土地の話なのか、家の話なのかちょっと分からないですね。付き添いというと、介護か、学校に面談かみたいに読者に考えさせてしまうので、unaccompanied = aloneくらいにとらえるとわかりやすいですよ。
<余談>うまく訳すのではなくて、あるがままに、でも読者を意識して訳すんですね。難しいですが。

25.
彼は今日初めてこの家にやって来た上に、方向感覚も持ち合わせていなかった。だからあちこち動き回る必要がなかったのは、おそらく思いがけない幸運だったのだろう。それでも、あまり土地勘がなくて居心地が悪かったし、彼一人ではこの状況をどうすることもできなかった。

<コメント> 「方向感覚を持ち合わせていない」というと方向音痴とも取れますね。「思いがけない幸運」まではいかないと思います。「土地勘」というより「勝手」。このあたりをうまく使い分けましょう。

26.
彼は今まで、この家に来たことがなかったし、方向がわからなかったので、たくさん動き回らずにすんだのは、運が良かったかもしれない。それでも、このあたりの地形をよく知らないということで、気分は落ち着かなかった。だが、できることは少なく、一人ではどうにもならなかった。

<コメント> 「方向」というよりは、自分が家の中のどこにいるのか位置関係がよく分かってないというイメージですね。「地形」というと話が家から外に出てしまっています。ずっと家の中の話なんですね。
<余談> 結局、読んで、訳す。それしか上達のすべはないんですね。あと原文といかに素直に向き合うか。がんばりましょう。

27.
以前この家に来たことはなく縁もゆかりもなかったので、あちこち動き回るよう言われなかったのはたぶん非常に幸運だったのだ。だが、その場所の間取りを熟知していないのは落ち着かず、だからといって、今手元にないものでその状況を改善してくれそうなものもほとんどない。

<コメント>「縁もゆかりも」が何に対してかがちょっと不明瞭かな。次のところは結果的に原作とあってはいるんですが、むしろぼかしたい。「間取りを熟知」は間違いではないんですが、勝手の方が分かりやすいと思います。
<余談>句点は本来は打ちます。新聞や雑誌では省かれていることも少なくありませんが、これは文法的にというのではなく、インク(やバイト数)の問題です。また小説などではさまざまな記号を小道具に使ったりしていますが、翻訳ではまず普通に。

28.
グッドマンは息をのんだ。確かに、彼は仕事が欲しかった。養わなければならない家族もいる。しかし、リトルロックの大半の住人とは違って、彼は絞首刑には反対だった。グッドマンは信念のある男だった。少なくともこの問題に関しては。

<コメント>これは先月のですね(^-^; 解説は先月のを参照。彼が多いかな。訳文自体はそんなに悪くないと思います。
<余談>老眼はつらいですね。僕も寝床で本を読むのがつらくなりました。風呂場が一番良く見えます(^-^;

29.
今日初めてこの家に入ったので自分がどこにいるという感覚がなかった。なので、おそらく動き回らずにすんでもっけの幸いだったのだろう。それでもはやり強い土地勘がないのは居心地が悪かったし、事態をよくするために一人でできることはほとんどなかったのだった。

<コメント>「自分がどこにいるという感覚」はちょっと微妙かな。「もっけの幸い」は少しこの文体では浮いているかも。「土地勘」となってしまうとずっと大きな話になりすぎますね。「事態を良くする」もそうなんですが、といって誰もいないからどうにもならない、という感じ。
<余談>おばけというか、昔起こったできごとなんですね。

30.
彼は、今日までこの家には来たことがなく、道にも迷ったが、それほど動かなくても済んだのは、運がよかったからだろう。それでもやはり、この場所の地理感があまりないため不安だったが、この状況をよくしようとしても、連れもなくほとんど何もできなかった

<コメント>ああ、話作っちゃってます。道には迷ってないです。「動かなくても済んだ」の部分は移動距離が少なかったように読めます。家の中で「地理感」(普通は土地勘ですが)はないと思います。まず原文を何度も読んでみましょう。

31.
彼は今日という日までこの家に入ったこともないので、右も左もわからなかった。だから、あちこち動き回らなくてもいいというのは、もっけの幸いであろう。とはいえ、はっきりとした土地鑑がない場所は心地よいものではないし、この状況を改善するために、相棒もいない彼ができることはほとんどなかった。

<コメント>惜しいというか、少しいじりすぎ。もっとさらっと訳せたはず。「右も左も」は悪くないですが「もっけの幸い」は浮いているし、家の中で「土地勘」もないと思うんですね。of the place = of the houseですから。

32.
彼は、この家に来たのは今日が初めてだったし、方向感覚も持ち合わせ ていなかった。そういう意味では、それほど歩き回らずに済んだのはと ても幸運だったのだろう。それでもやはり、この辺りの土地勘があまり ない事に不安を感じていたし、誰の協力もなくこの状況を改善させるた めに出来る事はほとんどなかった。

<コメント> 「土地勘」としてしまうと、大きな話になってしまうんですね。最初に場所がthis houseと書かれた時点で家の話という限定がかかっているんです。「はじめて訪れた家で、中の勝手が分からない、ただ動き回らなくてすむだけまだよかった。でもやっぱり自分が家の中のどこにいるのかも分からないというのはどうにも落ち着かないし、といって一人で来ているからどうにもならない」というのをうまく訳すだけ。
<余談>この状況というのは要するに「家の中の勝手が分からない」ということです。

33.
今日までこの屋敷に来たことはなかったし、なんの関りもなかった。だから、あまり動きまわる必要がなくて、運がよかったのかもしれない。それでも、屋敷内の間取りがよくわからないのはどうにも居心地が悪かったし、あの状況をよくするためにできたことなどほとんどなかった。

<コメント> 「関わりもなかった」はちょっと外し過ぎかな。アイデアは悪くないんですが。「間取り」は皆さん使われているんですが、この文章の中では浮くんですよね。「勝手」(建物の中や場所などのありさま。ものごとの様子。模様。ぐあい。)あたりが使い勝手がいいですね。
<余談>はいこちらこそよろしく。

34.
彼はこの家に入るのが初めてで、自分がどこにいるのかさえわからなかった。あちこち動き回る必要がなかったのがもっけの幸いだ。しかも家の間取りがわからないのでかなり戸惑っていた。状況は一向によくならなかった。

<コメント> 「もっけの幸い」がやっぱりちょっと浮いている気がします。「思いがけない幸せ。意外な幸運。」なんですけど、幸いなことにとか、ノリでいうと「開いてて良かった」みたいな。間取りもやっぱりちょっと浮いている感じがします。
<余談>まあ、仕事というのは思いがけずきたり、こなかったり、あまり焦らないことです。僕も仕事を始めた年は、2週間仕事がこないというのもありましたから。

35.
彼は今日までこの家に足を踏み入れたたことがなかったし、自分の状況がわかっていなかった、だからあまり動きまわる必要はない、というのはたぶん僥倖だったのだろう。それでも、その場のどこに何があるかしっかりわかっていないと落ち着かなかったし、そんな状態を何とかしようにも、誰も傍にいてくれないことにはほとんどどうしようもなかった。

<コメント>最後の行については、ちょっと長すぎるという印象があります。「誰も傍にいてくれない」は「誰も傍にいてくれないので」とかかな。
<余談>歳は厳しいですねえ。まあ残された人生をがんばりましょう。お互いに。

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